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メリーさん家の三姉妹  作者: 玉名 くじら


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37 なんか忘れてる気がするが、まぁ、いっか


 またぞろ乗り継いでアイリさんの指定した居酒屋へ入る。


 「いらっしゃいませー。何名様ですかー」

 「ヤマザトさんじゃないですか」

 「ち、違いますよー。わたしはヤマゾエです。で、何名様なんです? まさか、ひとりぼっちなわけないですよねー」


 居酒屋だと饒舌だなこの人。頭の頭巾取ってやろうか。

 そう思っていたら、個室の方からアイリさんが上半身を出して、手を振っていた。


 「こっちよー」

 「あ、お連れ様ですねー」

 ということで、なぜか個室へと案内された。

 ティナはすまし顔。

 アンジュは目をキラキラと輝かせていた。


 中へ入ると四人のスーツ姿の女性がいた。

 うち一人はめちゃくちゃデカかった。

 「あら、ティナちゃんもいるのねー」

 「ど、どうも」

 「アンジュもいるー」

 「あらあらー。じゃあここに座りましょ」

 アイリさんが指し示すが、アンジュがぶんぶんと首を振った。


 「おにーちゃのよこがいー」

 「じゃあ、詰めましょうか。ほら天嶺どいて」

 「その子が奥に行けばいいでしょう」

 「そう? じゃあ一回出ないと。んしょんしょ」

 結構飲んでたのか、動きがぎごちない。


 「あ、あたしのレモンサワー空だわ」

 「すぐ追加するわ。すいませーん」

 天嶺と呼ばれた黒髪のミディアムショートの女性は、すぐさま注文をしていた。

 アイリさんにやらせたらいいのに。


 「アンジュー、好きなの頼んでいいわよー」

 「ほんとー」

 「ほんとよー」

 「じゃーあ、じゃーあ、とりのちゅくね! あじのたたき! ねぎとろ! ゆっけ! うーんと、うーんと、めんちー!」

 みんなミンチになってるのばっかりじゃないか。

 一体何があったんだ……。


 というか、そんなに食べられるのか?

 アンジュを見ると、口角を上げて微笑んだ。

 どうやら、お腹ペコペコらしい。


 「あ、あとてぃーけーじー」

 卵かけご飯も所望のようだ。


 「あ、ティナちゃんも頼んで頼んで」

 「あっ、はい。じゃあ半身揚げとサラダを」

 普通にコース料理みたいになってる。なんか、一人だけ気取ってない?


 「亨ちゃんは?」

 「え? じゃあ……」

 こういう時迷うんだよな。

 お酒飲めないし、かといって、がっつり食べるのも違うし……。


 「焼き鳥盛り合わせと焼きモツと餃子を」

 これ、ビール飲めたら最高なんだろうな。


 「じゃあ天嶺ー」

 「自分で頼めばいいじゃない」

 アイリさんの時と違って、めっちゃ塩対応だった。


 「まぁ、天嶺はあれが通常運転だから」

 俺の対面に座っている背の高い女性が微笑みながらそう言った。

 過去にバレーかバスケでもしていたんだろうか?

 肩幅もあるしな。


 「だから、わたくしといいことしましょう」

 妖艶な笑みを浮かべて、そんなことを言うが、酔っているからだと思いたい。

 顔は朱いし、目は据わってるし、さっきから口唇舐めまくってるし。


 「ダメよ美晴。亨ちゃんはうちの子なんだから」

 「味見くらいいいでしょう」

 軽く憤って両腕を振って抗議する。

 大きな胸が揺れたので、俺もついつい釣られて見てしまったら、足を思いっきり踏まれた。

 踏まれただけでなく、その場でぐりぐりされた。


 「っつー! お前……」

 底冷えするかのような視線で俺を見るティナ。

 夏なのに、そこは厳冬期の雪山のようだった。

 何、お前雪女なの?


 「まぁまぁ。彼女酔うと年下の男の子好きが発動するだけだから」

 それでどうしろと?


 ニコニコと朗らかな笑みを浮かべた女性がそんなことを言いながら、美晴さんを宥めていた。

 美晴さんは、尚も俺を見ながら枝豆を食べている。


 そして、現在進行形でティナが俺の足を踏み潰している。

 アンジュはアイリさんの横でニコニコしながら喋り、天嶺さんは悔しそうに、どうやって輪に入ろうかと、ウズウズしていた。


 ティナの足を振り払い、改めて見回す。

 一体なんの集まりなんだろうか。

 スーツ姿の女性が四人。

 会社の関係者だろうけど、俺アイリさんの仕事の話ってあんまり聞いたことないや。


 そんな視線に気付いたのか、美晴さんを宥めていた女性がポーチから何かケースを取り出した。

 そして、中から紙を取り出した。

 どうやら名刺だったらしい。

 俺とティナに手渡して名乗った。


 「うちは、サンライズ生命で営業やってはります大橋結子いいます。よろしゅう」


 名刺には、『係長』と書かれていた。

 この見た目で係長って相当出来る人なんだな。

 言葉遣いといい、大和撫子とした見た目といい、京都の人なんかな?


 「あ、ありがとうございます。宇慶亨です」

 「ど、どうも。栗栖ティナです」

 「ふふ。もし、保険が必要になったら、いつでも」


 自己紹介をしていたら、美晴さんが、嫉妬したように、胸の間から二枚、名刺を取り出して渡してきた。

 背が高いからだろう。腕も長いので、前屈みにならなくても届いた。


 「わたくしは八坂美晴よぉ。瑞穂生命で営業してるの。機会があったら是非」

 「あ、はい」「はあ」


 もらった名刺には『課長』と書いてあった。

 課長!? この人が? この見た目で?

 あ、いや、酔ってる時の人を見て判断しちゃダメだな。

 何回も顔と胸と名刺を見てしまった。

 そして、その度にティナに足を踏まれた。

 もう感覚はない。


 「天嶺も出したら?」

 「あたいはいいわよ」

 だが、他のみんながじーっと見るので、恥ずかしそうに口をモニョモニョさせてから、バッグからケースを取り出すと、さっきまでの態度が嘘のように、丁寧に両手で名刺を渡してきた。

 ツンデレなんかな?


 「高尾天嶺(あまね)。大正芙蓉生命で営業してるわ」


 この人も保険会社で営業なんか。

 しかも、この人も『課長』だし。

 今日、なんか会社関係で集まった帰りだろ。

 で、その流れで飲み会、と。

 なんか忘れてる気がするが、まぁ、いっか。


 「じゃあ、最後はあたしね。海道•メリー•愛理。ファーストライフで営業してるの。アイリでいいからね、ティナちゃん」


 ティナにだけ名刺を渡すアイリさん。

 「え、営業部長代理!? え、そんな凄い人だったの……ですね」

 「あー、気にしないで。勝手に上がっただけだから」

 「(うちのパパとおんなじこと言ってる……)」

 「こいつ同期の中で一番出世早かったのよ」


 天嶺さんが悔しそうに言うが、その目はなぜか尊敬の眼差しになっている。どういうことだ?


 そう思ったところで、頼んだ料理と飲み物が来た。

 

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