34 おにーちゃすき!
ハンバーグを食べるといっても、目の前のケーキを食べてからだな。
ティナはパフェよりもアンジュが一生懸命に食べる様子を観察するように見ていた。
そんなに見ていたって、アンジュのあの凄さは分からないだろう。
それにもっと凄いことをしているわけだしな。
しかし、そんなことよりも、早くパフェを食べた方がいいと思うんだ。
アイスは溶け始めてるし、生クリームもだれてきてるし。
「あっしを置いていくなんて酷いですぞ!」
この暑苦しい喋り方は、あの日プールであった人だな。
ゆるふわメガネの桃原さんだ。よく見ると、髪の毛にピンクのハイライトを入れているんだな。
こんな喋り方なのに、おしゃれなのが不思議だ。
それに服装も普通の女子大生だ。
「あら、紗季」
「『あら』ではないですぞ! あっしを置いて店を出るなんて」
「だって長いんだもん。一つ一つ見本を見てカゴに入れてるでしょう?」
「当たり前ですぞ。あそこで判断するしかないですからな……っと、この前の素敵な幼女様ではないですか。あと保護者殿」
幼女って言うのやめろ。
あと、保護者って、まぁ、間違ってはいないが……。
「アンジュ!」
「おお! アンジュ殿ですな。もう忘れませんぞ。あ、あっしは桃原紗季。ティナ殿と同じ学部であるぞ」
「よくわかんないけど、しゅごーい」
「おっふ。そう。しゅごいのである!」
わざわざ、アンジュと同じ目線に座って話しているから、いい人なんだろうな。
喋り方が独特なだけで。
「あと、とーる。アンジュのだいじなひと」
「おお!」「へぇ……」
紗季は素直に感心し、ティナは目を細めて俺を見た。
そんなティナは一度目を閉じてから、紗季の方を見た。
「ほら紗季も座ったら?」
「そうであるな。あっしも糖分を過剰摂取せねば」
『過剰』は要らないだろ?
紗季は手を上げて「すいませーん」と店員さんを呼んだ。
そこは変わった話し方するんじゃないかと期待したのだが。
「はーい」
「おや?」
紗季は店員さんを見て、目を少し見開いた。
「ヤマウチさんではないですか!」
そう言うので、俺もそっちを見ると、この前プールで監視員やってた人だな。
「誰かと間違えてませんか? わたしはヤマザトですよ?」
「いや、そんなはずは……。匂いも一緒で……」
何を言ってるんだこの人。
まぁ、監視員の時は帽子被ってたし、今も制服なのかベレー帽被ってる。
髪の毛のスタイルで見た目も変わるから何とも言えないが……。
ティナと紗季が黙ってしまう。
もしかして、何かの計算してるんじゃないだろうな。
耳打ちしてうんうん頷いているし。
「まぁ、そういうことにしておきましょうぞ」
そう言ってからケーキとコーヒーを頼んだ紗季。
それは常識的な量だった。
「アンジュ殿、一口いかがかな?」
「ありがとー」
「ふへへ」
「あんじゅもあげりゅー」
「おお! いいのですかな?」
「いーよー」
そうして交換しあう二人。
終始じーっと見るティナ。
「くっ……」
まぁ、そんな溶けたパフェじゃあな。
「ところで今日はどうしてここにいるのですかな?」
「あー、アンジュがキュアキュアの衣装欲しいって言うから」
「パパね」「パパですな」
「ちがうよ。パパじゃなくてとーる。おにーちゃ」
よく分からないことを言って俺にしがみつくアンジュ。
もう何が何やら。
そんなアンジュは残りのシャインマスカットの乗った部分を俺に向けた。
「あーん」
「え?」
「あーん」
「お、おう……」
カスタードクリームとシャインマスカットが混然一体となって、この上なく美味しい。
「うん!」
なぜか嬉しそうに微笑むアンジュ。
つい、頭を撫でてしまう。
「へー」「ほぉう」
二人がいる前でいつも通り頭を撫でてしまった。
「仲、いいのねー」
「いや、まぁ……うん。そうだな」
ティナが相変わらず目を細めてチクチクとした言い方をしてくる。
「で、あなたってその子とどういう関係なの?」
「へ?」
「あっしも気になりますぞ。どうやったら金髪幼女と一つ屋根の下暮らせるのかをぉおおおっ!」
叫ぶな、暑苦しい。他のお客さんも振り返っちゃったじゃないか。
ここだけ見たら、どう見えるんだろうな。
女子二人と子連れの男。
いろんな席でヒソヒソと話すのが聞こえてきて、いたたまれない。
「まぁ、いろいろあってな」
「そのいろいろを聞いているんでしょう?」
「環殿か操殿。もしくはエレナ殿に聞けば良いのでは?」
「そうね。そうしましょう」
そういえば、連絡先交換したんだったな。
アンジュは船をこぎ始めたので、抱っこして立ち上がる。
もう俺とアンジュが頼んだものは無いしな。
「ごちそうさま。じゃ、また」
「待ちなさい。まだ話は終わってないわよ。あの計算の速さの理由も」
「それは初耳ですな」
「すまんな。アンジュがお眠だから、またな」
そう言って無理矢理店を出た。
後でめんどくさいことになるだろうが、アンジュの方が優先だ。
帰ってる最中、アンジュが起きたのか、俺の顔を覗き込む。
「あ、起きちゃったか?」
「うゆ」
まだ、寝ぼけているみたいだ。
「アンジュおにーちゃすき!」
俺はアンジュを抱きかかえたまま、その場で固まってしまった。




