33 ゆーはんは、はんばーぐがいい
「もう、アンジュダメだぞー、また勝手に抜け出してー」
「ごめんちゃい」
今日も転移したアンジュを迎えにきた。
近場で良かったが、まさかアニメショップとはな。
アンジュが今回気になったのは、キュアキュアとかいう魔砲少女ものの衣装だった。
魔法ではなく魔砲なのは、拳に溜めた魔力の玉を発射する、どこかの格闘冒険漫画みたいな戦い方をするからだ。公式でもそう謳っている。
よくアンジュが「はーーーーーーー!」とポーズを取っていて、俺がよくやられた役をしている。
そんなアンジュも、やはりコスプレしたくなったのだろう。
今回は店舗名を教えてくれたから良かった。
フリフリの衣装が入った袋を抱えながら歩くアンジュ。
だが、途中で立ち止まったので、何か気になるものでもあったのかと、アンジュの見上げる方を見る。
そこは主に同人誌を扱うショップだ。
大人のお友達向けの本も多く、アンジュには十四年くらい早い。
「ほら、いくぞー」
やんわりと言うが、中に入ろうとするので、慌てて止めようとすると、ちょうどお店のドアが開いて中に入ってしまった。
出てくるお客さんの足をすり抜けるようにして、スタスタと向かってしまう。
早く確保しなければ……。
お客さんが多く、俺はすり抜けるのがやっと。
アンジュはスイスイと泳ぐように間を抜けていった。
「ダメだぞ、アンジュ」
「ざんねんー」
そして、やっと捕まえたのは、大人向けの区画の入口だった。
間一髪だった。
そのまま抱きかかえて、お店を出ようと、踵を返したら、後ろから声をかけられた。
「あら、あなた」
振り返ると、そこにはティナがいた。
絶対にこういうところにはいないであろう人物だ。
「なんで、ここに?」
「薄い本買いに来てるだけよ」
「うしゅいほん? えほん?」
違うぞアンジュ。似て非なるものだ。
「そういうのに興味ないと思ってた」
「あるわよ。わたしをなんだと思ってんの?」
いけすかない、鼻持ちならない天才かな?
こんなこと言ったら確実に殺されるだろうな。
もちろん言わないし、ここ最近のティナを見ると、少し印象も変わってきてるしな。
「まぁ、場違いだから出るよ」
アンジュは尚も、中へ入ろうともがく。
「流石にアンジュちゃんを中に入れるわけにはいかないわね。少し待ってて」
そう言ってティナは一般向けコーナーで何冊か取って、レジへ向かった。
一瞬見えたポイント残高がもう少しで六桁に届きそうなんだが、何をどれだけ買えばそんなに貯まるのか。
そして、使わずに貯める派なんだというのが分かったが、定期的にポイントカードが変わるから、早く使った方がいいぞ?
俺それで32000ポイント失効したし。
そんなことを思い出していたら、会計が終わったらしい。
「カフェでも行きましょ」
「お、おう」
そこは、やはりオシャレなカフェだった。
アンジュはキラキラした目でメニューを見ていた。
「何でも頼んでいいわよ」
「なんでも?」
「ええ。でも、食べ切れる分だけよ?」
「わかったー」
「あなたも。奢るわよ」
「あ、ああ。ありがと」
正直何を考えてるか分からない。
だがまぁ、お言葉に甘えはするが、そこまで図々しくもないので、カフェオレだけ頼むことにした。
「えっとねー」
アンジュが頼んだのは、桃のボンブ、シャインマスカットのロールケーキ、夏いちごのミルフィーユ、オレンジジュースだ。
夕飯食べれなくなるな。
ちなみにティナはメガ盛りのパフェを頼んでいた。
またしても、ティナのイメージが壊れた。
店員さんが、奥へ引っ込んだと同時にティナは薄い本を取り出し、アンジュに渡した。
「おー! きちゅねしゃん! たぬきしゃん!」
それは、キツネとタヌキのキャラクターの本だった。
他には犬だったり、猫だったりとちゃんとアンジュ向けの本だった。
ただ、このちいさくてかわいいのは、内容的にアンジュには早いんじゃないだろうか?
「喜んでくれて何よりよ」
「ふふっ」と目を細めて微笑むティナ。
俺の中のイメージ像が壊れていく。
流石にここで大人向けの薄い本を読むほど、常識がないわけではないようで、分厚い参考書を読んでいた。
そして、アンジュはそっちに興味を惹かれたらしい。
「あら、気になるの?」
「うん!」
「いや、こんなの分かんないって」
知恵熱出したら、どうしよう。
俺は直前までそう思っていた。
「にーぱいるーとけーぶんのえむー」
「「は?」」
これには流石のティナも驚いたようだ。
すかさず、「こっちは?」なんて指し示した。
「よん!」
長いfみたいの書いてあるのに、どうして4なのかは分からない。
そもそも専攻が違うからな。
ここまでのは分からない。
「アンジュちゃん天才よ」
「えっへん!」
「ねぇ、この子……」
「いや、やらんぞ」
「…………ま、まだ何も言ってないじゃない」
そんなことを話していたら、頼んだものが来たようだ。
アンジュは嬉しそうにケーキを頬張っていた。
「アンジュちゃん美味しい?」
「はなまるー」
「あら、良かったわ」
そして、俺に向き直ったアンジュは、Vサインをして笑った。
「ゆーはんは、はんばーぐがいいー」
どうやら、アンジュ的にはまだまだ食べ物の方がいいようだ。




