32 勝負に関係なく
「で、桃原さんはずっとここに?」
「ま、まぁ……」
何故か、そう尋ねたら、ばつが悪そうに素の返答をした。
「もしかして、高いところ苦手なんですか?」
「そ、そそそそそそそそ、そんなこと、ないですぞ」
「その人、ずっとそこで震えてましたよ」
「それを言わない約束じゃないですかー、ヤマウチさーん」
名前覚えるくらい話してたのか、邪魔にされてたのか……。
「なんか、すいません。すぐに行かせますから」
「はい、お願いします」
「え、ちょ、まだ心の準備が……って、ああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ…………──────────」
─────バシャーーーン!!! という大きな衝撃音が鳴るまで絶叫していた。
「じゃ、じゃあ亨?」
「ん?」
「危ないから、二人で滑りましょ」
「なんで?」
「ほらほらー、後がつかえてるのでー、彼氏さんは抱きしめてあげてくださいねー」
いや、なぜか、他に人並んでないんだけど……。
「へ? は?」
「今回だけですからね。内緒ですよ?」
「えっ!?」
なし崩し的に二人で滑ることになった。
正直、プールの中に突っ込むまで、記憶がなかった。なぜだろうか……。
だからなのか、その場で、呆然としていたら、後から滑ってきたであろうアイリさんとぶつかった。
「ぐおっ!」
「あら、ごめんねー」
「お姉ちゃんも滑ってたの?」
「亨ちゃんとエレナを見たからね」
「そ、そうなんだ」
そんなことを話していたら、今度はアンジュが滑ってきた。
「うおー」
絶叫マシン慣れしてるからか、叫んではいない。
いや、そんなことより、アンジュは年齢的に滑れないはず。
「アンジュは滑れないはずじゃないか?」
「ふふん。アンジュ、ろくしゃいっていったー。にほんごもふなれっていったから、だいじょーぶ」
それは大丈夫とは言わない。
全く、こんなことばっかり覚えるんだから。
それに手の指の数が九本になってるぞ?
まぁ、以前の遊園地同様、身長はクリアしてるから、日本語苦手って言えば、見た目と相まって通るのだろう。
しかし、こういうのはあんまりして欲しくない。
萌歌さんが、ちゃんと止めそうだけど、もしかして一人で来たな?
そう思っていたら、ティナと萌歌さんも滑ってきた。
「アンジュちゃん、勝手に行っちゃダメですよ」
「この、行動力ハンパないわね」
二人でも手に余るのか……。
そういえば、あの人どうしたんだろうか。
そう思って、辺りを見回すと、プールサイドに上半身を預けてぐったりしていた。
しばらくあのままにしておくか。
そしたら、後ろから抱きつかれる感覚があった。
首だけ動かしてみると、アンジュだった。
「つぎは、アンジュのばん!」
「あらあらー」
「ダメよ。今日はわたしの貸し切りなの」
貸し切りってなんだよ。
こんなところで話し合ってると邪魔になるからと、広い方のプールへ移動した。
折角、スイカのビーチボール買ったんだ。
なんかやるべきだろう。
「みんなでバレーでもしますか」
「痩せそうだし、いいわね」
真っ先にアイリさんが了承したが、その理由はないだろう。
他のみんなも苦笑いで頷いた。
アンジュでさえも。
ちょうど、環と操も戻って来た。
そういえば、入った時以降見かけなかった柚木さんはずっとここにいたらしい。
とあるドラマの物理学者のように数式を書いていたんだろうが、子供達がその上を歩いて、濡れて消えていた。
横へ移動しても同じことの繰り返しだった。
まるで賽の河原だよ。なんでこんなところでそんなことやっているんだろうか?
「われの頭は常に高速回転。ここはうまい具合に冷却できるのだ」
「何言ってんのこの人?」
「お兄ちゃん、心の声漏れてる」
「というか、おにいの周りって変な人ばっかりだね」
「そうは言うが、俺だって初対面なんだよ」
そう言ったら、なぜかティナ含む四人がじーっとこっちを見ていた。
なんだ。何か過去に接点でもあったのか?
俺には全く心当たりがないんだが……。
「まぁ、いいわ。妹ちゃんたち、勝負しましょう。お昼を賭けて」
「「「望むところよ」」」
環と操とエレナが同時に言った。
ということで、四対四の勝負。
俺、操、環、エレナのチームとティナ達四人組だ。
アイリさんと萌歌さんはアンジュと一緒にプールサイドに座って見ていた。
またどこかに行ってしまう可能性がある。間に挟まれている。
なぜか左右をキョロキョロと何回も見ていた。
というか、痩せるとか言ってたのに、座って見てるってのは、どうなんですかね。
「(エレナちゃん)」
「(なに?)」
「(相手は新しいライバルよ?)」
「(そうなの?)」
「(そうよ。あんなに個性的なんだもの。きっと何かあるわ)」
「(マジで?)」
「(だから、ここでいい格好見せたら、グッと傾くわよ)」
「(ホントに?)」
「「(ホントホント)」」
環と操がエレナに両サイドから耳打ちして何か言っていた。
そんなに勝ちたいのだろうか。
戦略を練るなら、俺も入れて欲しいんだけどな。
そうして始まったビーチバレー。
結果はというと─────
勝負に関係なく、全員でご飯を食べていた。
まぁ、ティナ達が買ったんだけど、向こうから「ご飯奢るわ。行きましょ」と言った途端、環、操、エレナが「お姉様、一生ついていきます!」と一字一句違わず言ったもんだから、後ろの三人がエア計算をし始めたのだった。
計算結果が出る頃には、三人以外食べ物を買い終わっていた。
ホントあの三人変わってるわ。
しかし、アイリさんや。骨つきチキンをかぶりつく姿はなんか様になってますね。
今日使った分のカロリー超えますね。
「おいちー、てぃなねーちゃありがとー」
「ふふっ。いいのよー。いーっぱい食べなさいね」
「うん!」
随分と懐いて、一体何があったのかすごく気になるんだが……。
別に嫉妬してるとか、そういうわけじゃないが、なんか複雑だ。
そう思っていたら、エレナに脇腹をツンツンされた。
「なんだよ」
「そのケバブ美味しそうね。一口ちょうだい」
「あ、ああ。いいぞ。ほら」
「ありがと」
その一口はとても大きな一口で、常識的な一口とは言えなかった。
「お前……」
「わたしのも一口あげるからさ」
一口って、どれを食べたらいいんだよ。
テーブルの上には、カレー、ハットグ、チーズバーガー、ラーメン、唐揚げ、ポテト、やきそばが乗っていた。
いくら、泳いでお腹すいたからといっても、食いすぎだろう。
そう思ったのだが、みんなもそれなりの種類と量を食べていた。
なぜか、環と操は俺とエレナを見てニマニマしていた。
アイリさんは意味深なハンドサインを送り、萌歌さんは食べ物が凍るくらい冷たい視線で見ていた。
「あなたの周りって面白い人が多いのね」
ティナがそう言うが、その言葉はティナにこそふさわしいだろう。
「そっちもな」
そんな様子を間にいたアンジュが真顔でキョロキョロとしていたのだった。
その後、しばらくプールで遊んでから帰路に着いた。
帰る途中で、強制的にLINE交換させられた。
一人だけ、discordも交換させられた。
ホントに変わっているよマジで。
まさか、これ以上に変わった人たちと出会うことになるなんてこの時の俺は知る由もなかった。




