25 朝はしっかり食べてから
「まさか朝から来るとは思わなかったよ」
「いいじゃない」
下の妹である操が朝一でやってきた。
そして今、アンジュ、エレナ、俺と一緒に朝ごはんを食べている。
ちなみに、珍しいことにアイリさんは岡山県へ出張中だ。
「亨、そんなみみっちいこと言わなくてもいいじゃない」
「さっすが、エレナ」
「うえーい」と言いながら、互いを指差して盛り上がっていた。
しかし、学校も塾もない日に、こんな早い時間に来なくてもいいと思うんだ。
ちなみに上の妹である環は学園の行事か何かに参加していて来れないそうだ。
怨念のようなメッセージが絶えず送られている。
通知だけで分かるので、スルーさせていただいている。
開けたら怖いからな。
尚、今日の朝ごはんはシンプルだ。
ごはん、あおさの味噌汁、梅干し、昆布、目玉焼き、ソーセージ。
朝ごはんは簡単にできてこそだと思う。
「お兄ちゃんおかわり」
「あ、わたしもおかわり」
「お前らよくそんな朝から食えるな。旅館にでも泊まったら、朝ごはん食べ尽くしそうだな」
「そんな褒めないでよ」
「うんうん」
なんでそんな堂々としているんだよ……。
「おかわりー」
「いっぱい食べるんだぞー」
「ねぇ、扱い違い過ぎない?」
「そりゃあ、そうだろ」
そう言ってしまったがために、朝ごはんの途中にも関わらず問いただされた。
そして、一瞬目を離した隙にアンジュはいなくなっていた。
「嘘だろ……」
今回は何が原因か、全くわからなかった。
「亨、連絡来てないの?」
「待って、環からの通知がうるさくて…………あ、来た。何これ」
画像の添付があった。
芝生の上に少し赤みがかった丸い岩があった。
その前で酸っぱそうな顔で自撮りしたアンジュが写っていた。
そしてそれをエレナと操に見せた。
「なにこれ……岩?」
「あ……」
エレナは分からなかったが、操は分かったようだ。
そして、少し青ざめた。
「わたしが原因かも……」
「どういうこと?」
エレナが優しく聞いた。
「いや、ほら……前にいろんなご当地のオブジェ見せたじゃない?」
「あったわね、それ」
「で、その中にこれがあったの」
操はこれ以上ないくらい、責任を感じているようだ。
「あんまり気にすんな。迎えに行けばいいし、どれがトリガーになるか分からないんだ。なぁ?」
「そうよ。それに、これで美味しいもの食べられるじゃない」
「だそうだ。で、これどこなんだ?」
「美作っていう岡山にある場所なんだけど」
これは、なんという偶然。
「あれ、今お姉ちゃん岡山にいるよね。出張で」
「じゃあ、先に向かってもらおうぜ。どうせ休みで、仕事もないだろうし」
「すぐ電話するわ」
「えっ……えっ……」
操だけが戸惑っている。
前回、能登半島まで行ったのにな。
「あ、お姉ちゃん?」
『どしたの?』
「アンジュがそっち行ったみたいだから、迎えに行って」
『え? こんな朝から?』
「そうなの」
『まぁいいけど、どこ? 後楽園? 倉敷? 吉備津神社? それとも岡山城?』
「えっと、……操どこだっけ」
「鷺湯公園ですね」
すかさず操が言った。
『どこそれ?』
「場所送るわ」
『中途半端に遠いわね……』
「こっちからだと時間かかりそうだし、ちょうど良かったから」
『…………分かったわ』
その後、エレナはスピーカーモードにしていたスマホを切った。
「お兄ちゃん、今回なんもしてないね」
「悪かったな」
とりあえず、少し時間に余裕ができた。
食べたものを片付けようアンジュの食器を見ると、綺麗に平らげてあった。
そして、梅干しの種だけが皿の上に乗っていたのだった。
そして、新幹線で行くか、飛行機で行くか、車で行くかを考えていたのだが、なぜかエレナがスーツケースを持ち出してきた。
「おい」
「備えあれば憂いなしって言うでしょ?」
最近少し勉強できるようになったからって……。
「エレナ、わたしの着替えもお願い」
「いや、操の着替えなんてないだろ?」
「いや、もしかしたらお泊まりで遊ぶ可能性あるかなーって、いくつか着替え置いといてもらったの」
用意周到だな。
「で、何で行きたい?」
「わたし飛行機乗ったことないから飛行機乗りたい」
「わたしも。お姉ちゃんだけずるいし」
「分かった」
しかし、アンジュは毎回、マニアックなところを選ぶなぁ。
これは環や操の影響だけじゃない気がする。
テレビでも、高確率で旅番組が好きだしな。
親御さんと世界を飛び回ったことが、何か関係しているのだろうか。
もし、そうならば、どこかこちらから連れて行くってのもアリかもしれない。
だが、もし違ったら?
俺はそれが怖くて、そこから先を考えないようにしてしまった。
それにしても二人とも飛行機でそんなにはしゃぐなんてな。
だが、少しだけエレナの様子がおかしかった。
「どうした? 耳鳴りか? それなら──」
「あ、違うの」
「じゃあ、気分でも悪いのか?」
「お兄ちゃん違うわ」
どうやら操が答えを知ってるらしい。
「乗る前に、買ってきたもの全部食べちゃったのよ。もうお腹空いたって」
嘘だろ?
俺はもう一度エレナの顔を見ると、顔を朱くして俯いてしまった。
これからは、エレナが付いていくと言った時は、飛行機は選択肢から外そうと思ったのだった。




