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メリーさん家の三姉妹  作者: 玉名 くじら


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23 アンジュが選んだ馬券


 それは、いつもの如くアイリさんが、府中へお馬さんのレースを見に行っていた日のことだった。

 そして、珍しいことに、アイリさんから電話があった。

 珍しいなと思いながら通話ボタンを押すと、アイリさんは唐突に話し始めた。


 「どうしよう。アンジュ見失っちゃった」

 その声にはいつもの余裕がなく、ただ焦る一人の姉だった。


 「迷子ですか?」

 「アナウンスはしてもらったの」

 「それは、いつなんです?」

 「一時間前」

 それは、焦るよな。


 ちなみにアイリさん曰く、アンジュはイオンモールやデパートなんかでも迷子になるが、すぐに迷子センターに行くそうだ。

 だから、今回も同じだと思ったのだろう。

 

 俺も、アンジュはアイリさんと一緒にいるもんだとばかり思っていた。

 だって、アンジュからは、どこかの競馬場にあるであろうオブジェの前で自撮りしてる画像が送られてきていたからだ。


 だから、仲良くお馬さんの走る様子をモツ煮でも食べながら見ているもんだとばかり思っていた。


 それも、一時間も前だ。

 気づくのが遅すぎる。

 まぁ、必死に探していたであろうことは、声を聞けば分かる。


 「アンジュから写真来てるんですけど、これも競馬場なんですよ」

 「送って」

 「あ、はい」

 送ってすぐに、アイリさんの息を飲む声が聞こえた。


 「これは……」

 「分かったんですか?」

 「金沢ね」

 「また?」

 「また……って、そういえば前も行ったのよね。イカを見に」

 「ええ。でも、金沢ですか……」

 金沢なら今日中に迎えに行ける。


 「じゃあ迎えにいってきま──」

 「あたしも行くわ」

 「えっ!?」

 「何よ、あたしだって心配してたんだから!」

 「ですよね」

 分かってる。小さい時のエレナを毎回ちゃんと迎えに行っていたくらいだ。

 その言葉に疑いようはない。

 ただ……。


 「今、府中ですよね?」

 「大宮駅で落ち合いましょう」

 「あ、はい」

 こんなにグイグイ来るとは思わなかった。

 でも、ここに来てから一緒に行った方が早いと思うんだよね。

 何か早く着くルートでもあるのだろうか?


 大宮駅へ着くと、既にアイリさんが待っていた。

 「早くないすか?」

 「あそこからだとこっちのが少し早いのよ」

 知らなかった。


 「じゃあ、行きましょうか」

 「そうですね」

 アイリさんと二人で行くのは初めてだ。

 そのまま改札に向かうので、驚いて立ち止まってしまった。


 「亨ちゃん、どうしたの?」

 「あ、いや……」

 なんと言ったものかな……。


 「お弁当とかいいんですか?」

 そしたら、顔を顰めるアイリさん。


 「急いでるのに、わざわざ時間をかけてお弁当買ってる余裕はないでしょう?」

 まともなことを言ってる!


 「それに、買うとしたら車内にもあるでしょ、必要ならそれで十分よ」

 なんだろう。初めてアイリさんって、ちゃんとしてるんだと。ちゃんと一般常識を持った社会人なんだと思った。


 「な、なんでそんな顔するのよ。変なこと言った?」

 「いいえ、逆です。まともです」

 「そ、そう……」

 アイリさんが、困惑しながらも、改札へ向かって歩きだした。


 まぁ、この後すぐに前言撤回する羽目になるんだけどな。


 走り出して数分経った頃。

 まだ本庄早稲田にも着いていない。


 アイリさんは、頬杖をついて、車窓から外を眺めていた。

 これだけ見たら、すごく絵になるんだけどな。

 物憂げな金髪の美人。

 口を開かなければ完璧だ。


 だが、どうしても気になったことがいくつかあった。

 「どうしてアンジュを競馬場に連れていったんですか?」

 確かに、お馬さんがいるから見るだけなら情操教育にはいいだろうけど、賭け事が含まれるからなぁ。

 まぁ、アンジュには分かってなさそうなところはあるが……。


 「アンジュはね、すごいの」

 外を見ながら言った。


 「え、何がです?」

 そこで、俺の方に振り返ると、嬉しさと悲しさ両方を含んだ顔をした。


 「アンジュが選んだ馬券買うと、必ず当たるの」

 は?


 「でも条件があって、アンジュが行きたいって言った日で、しかも晴れてないとダメなの」

 なるほど。条件次第で百発百中……。凄いな。


 「まぁ、だから年末のはダメでねぇ。クリスマスだし」

 まぁ、それで毎回勝ってたら働かなくていいもんな。

 税務署がウキウキしながらやってきて、帰れなくなるんだろうな。物理的に。


 「あの子、大穴の三連単も当たるのよ……」

 それは、感心を通り越して、尊敬にも似た言い方だった。


 「ただね……」

 そこで、再度外の方へ顔を向けてしまった。


 「アンジュが選んだ馬券……、迷子になってから外れたの……勝った金額全部注ぎ込んだのに……」

 まぁ、そりゃあこんな風にもなるか。


 「しかも、自分が最初に選んだのが当たりっていうね……」

 それはもう、落ち込むわな。


 俺はそれ以上、声をかけることができなかった。

 それは、新幹線が軽井沢を過ぎるまで、そのままにしておいた。

 車内にはしばらく静かな時間が流れた。


 他にも聞きたいことがあったんだけどな。

 だが、そんな疑問はアイリさんの方から話し始めたのだった。


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