22 イカは捕まえない
「お兄ちゃん運転上手いね」
「そりゃあ、毎週の如く運転してりゃあな」
「でも、安心して乗れるわよ」
アイリさんの運転を経験していれば、ほとんどの人の運転は丁寧に見えるだろう。
さて、目的地に着いた。
車を停めると同時にエレナと操は、例のイカのオブジェへと走り出した。
そして、いろんな地点や角度から写真を撮っていた。
さて、アンジュはどこだろうか。
……………………あれ、いない?
ここじゃなかったのか?
でも、イカのオブジェなんてここ以外ないだろうに。
いろんなところを探したが、いない。あんな目立つ子が見つからない。
試しにLINEで電話をかけてみる。
「もしもしー、あた……わた……アンジュはメリーさん」
「うん。着いたんだけど、どこにいるんだ?」
「うみー」
「海?」
海の方を見ると、遊覧船が戻ってきた。
そして、港で待つこと数分。
満面の笑みでアンジュが降りてきた。
「おまたせー」
「お、おう……」
一応、海に落ちたら危ないとは伝えたが、アンジュが楽しそうだからほどほどにしておいた。
だって、めっちゃ興奮して説明してくるんだもん。
「うみのそこ! おしゃかなしゃんパクパクしてたー!」
な? 可愛いだろ?
こんなん怒れませんて。
「おっきいおしゃかなしゃんいたー」
「怖くなかったか?」
「ぜんぜんー。アンジュ、てーふったー」
「魚にか?」
「うん。ふってくれなかったー」
ああもう、一緒に見たかったなぁ……。
しかし、最近のアンジュはアクティブだなぁ。
どうやら、ちゃんと幼児料金で乗ったらしい。しっかりしている。
「この子、ずっと窓に張りついてましたよ」と、乗っていた人達が言っていた。
どんだけ夢中だったんだ。
「とーおーるー」
「おにーちゃーん」
エレナと操がやって来た。
そして、操はアンジュを見て驚いていた。
まぁ、その反応は正しい。
ただ、環の時と違って、操はあんまり気にしてないようにも思えたが、多分エレナが一緒だからだろう。
それに、新幹線の中、車の中でとかなり食べていたからな。
そりゃあ、転移よりそっちの方が驚くわけで。
「亨」
「どうしたエレナ」
「あのイカ、近づいたけど捕まらなかったわ」
ふんすと胸を張って言うが、そんな訳ないのに、わざわざ報告するなんて……。
「何よ、その顔はー」
「かわいいなって」
「うん。かわいい」
「かわいー」
アンジュもよく分かってないが、一緒になって言っている。
ちなみに操はエレナに抱きついていた。
まさか、こんなに仲良くなるなんてな。
「も、もう……」
そして、少し見て回ろうとしたら、どこからか大きな腹の音が二つ聞こえた。
「と、亨、ご飯にしよっ!」
「そ、そうね。イカが有名だもん。食べよ。ね、アンジュちゃん」
「アンジュもおなかぺこぺこー」
まさか、イカ料理を食べて、浜焼きを食べて、最後に金沢でお寿司まで食べるとは思わなかった。
最初は、みんなおんなじメニュー頼んだんだ。
「いろんなもの乗ってるものがいいわよね」
「そうそう。迷ったら一番高いもの。これは鉄則よね」
自分のお金じゃないからって…………。
「アンジュは食べきれるか?」
「だいじょーぶ!」
なんとも力強い回答だ。
実際、その後は全員でイカスミソフトまで食べていた。
そして、帰る途中で、操とエレナが見つけたお店に寄らされて、レンタカーを返却し終えた後に、お寿司屋さんに直行だ。
移動に時間がかかるとはいえ、いくらなんでも食べ過ぎではないだろうか?
もう少し観光とか、さ。
環はその辺ちゃんと考えていたぞ?
……って、俺が考えるべきことだよな。
もし、次回があったら兼六園とか見ていきたいな。
それにしても、ちゃんとアイリさんにお土産買ったんだな。
そういうところはしっかりしているんだな。
「これ? これはわたしのよ」
「だよな」
もう笑うしかなかった。
エレナはそうでなくっちゃな。
「あ、これはお姉ちゃんの分」
「ほう」
なんだ、ちゃんと買っているじゃないか。
そう思って、買ったというお土産を見ると、イカのお皿だった。
そこは、食べ物の方が良かったんじゃないだろうか?
本当は日帰りで来るような場所ではないのだが、帰らなくてはならない。
アンジュはもう満足したのか、だいぶ前からぐっすりと眠っていた。
「でも、本当に転移するんだね」
「ああ」
「で、お兄ちゃんが迎えに行くと」
「そうだな」
「好かれてるんだね」
「そうかもな」
否定はしない。実際そう思われているという自負はある。
「でも、もっと好かれている人もいるよね」
「誰だそれ」
コケッと操が盛大にズッこけた。
危ないなぁ。ホームに落ちるなよ?
「え? え? なんで、そんなニブチンなの?」
「意味が分からないんだが……って、いってぇ!」
痛みの方向を向くと、エレナがリスみたいにほっぺたを膨らまして顔を真っ赤にしていた。
「何すんだよ! アンジュ抱えてるんだぞ!」
「あ、ごめん……」
もう少し考えてやってくれ。
いや、足踏むのは考えてもしないでほしいが……。
そんなエレナはツンとそっぽを向いてしまった。
「なんで怒ってるんだ?」
「怒ってない!」
「いや、踏んだだろ」
「知らない!」
うーむ。まさか、もうお腹が空いたなんてことはないだろうな。
「お兄ちゃん……」
操が呆れた声を出すので、振り返る。
「どうした?」
「そういうところだよ……」
操の言わんとするところが、理解出来なかった。
「(お兄ちゃんは、勉強できるのに、どうして、そういうところがわからないんだろう……)」
帰りの新幹線の中では、意外なことに、エレナが飲み物しか飲まなかった。
まぁあんだけ食べたら、そりゃあお腹空くわけないよな。
しかし、そんな俺を操は通路を挟んだ向こう側で呆れた顔で俺を見るのだった。




