21 おっきなイカさん→
ここ最近、うちの妹達がよく来る。
もちろん会いに来るのはアンジュになんだけど。
まぁ、アンジュかわいいしな。
今日は休日だが、塾には行かないらしい。
まぁ、前からそんなマメに行ってなかったけど、堂々と行かないと宣言するとは思わなかった。
操が来るまで、エレナはソファの上で二度寝しようとしていたくらいだ。
操が来て、速攻で起き上がったが、髪の毛がところどころ跳ねていた。
「亨ー、直してー」
「はいはい。分かったから」
「お兄ちゃん、お母さんだね……」
操が苦笑いをしていたが、これがここでの通常だ。
そんな下の妹である操は、エレナとは違う中学なのだが、塾が一緒で、話も合うとのことで、ここ最近はほぼ毎日来ている。
なんで操がここ最近、ほぼ毎日来ているのかというと、以前環と一緒に香川でうどんと骨付鳥を食べたからだ。
そして、環は速攻で操にバラした。
そんな訳で、アンジュが転移するところと、転移先でグルメが食べたいと言うことで、こうしてエレナと一緒にスマホの画像を見せている。
エレナは完全に旅行気分で見せてるな。
だが、アンジュは、誰かが目を離した隙にしか転移しないのだ。
それに、アンジュは別に食べ物が食べたくて転移してるんじゃない。
興味が出たものに惹かれているだけなんだ。
ただ、その全てに転移するかといえば違うから、その法則が分からなくて困っている。
分かれば、もう少しやりようがあると言うもので。
だから、画像を見せたところで意味はないんだ。
「アンジュちゃん、これはどう?」
「アンジュ、これなんて美味しそうじゃない?」
うどん、そば、ラーメン、ステーキ、寿司、ジンギスカン、パフェ、かき氷といろんな画像を見せていたが、「おー」と、目をキラキラさせるだけだった。
そんな操は、エレナとスマホを交互に見た後、何かを話し始めた。
アンジュはその全部に大きく頷いていた。
その仕草がとてもかわいい。
まぁ、あの調子なら大丈夫だろう。
なので、俺は洗濯物を干すことにした。
まさか、二回も洗濯機を回すことになるとは思わなかった。
何が悲しくて、休日の朝から他人の洗濯物を干さなきゃならないんだ。
まぁ、アイリさんとエレナにやらせると、とんでもない干し方するからな。
エレナなんて、シャツを肩と裾を止めるとか、どうやったらそんな干し方になるのか、本当に教えて欲しい。
しかし、アイリさんよ……、穴の空いたストッキングばかりなのはどうしてなんですかね……。
干し終えて、カゴを持って中へ入ると、アンジュも一緒にスマホを覗いていた。
さっきよりアンジュの好奇心が増している気がする。
「これなにー」
「これはプラモニュメントね」
「これはー」
「スイカのオブジェね」
「これはー」
「どこでもドアね」
どうやら今度は、一緒にオブジェを見ているらしい。
操は変なもの集める癖あるんだよな。
変わったものは撮るし、なんならそんなのばっかり検索している。
「ねー亨、お腹すいた。なんかお菓子ない?」
相変わらずナチュラルにお菓子を要求してくるな。
まぁ、用意してあるんだけどさ。
俺はキッチンでジュースとケーキを用意して戻ると、エレナと操が慌てていた。
操は分かるが、なんでエレナまで。
「どうした?」
「あ、お兄ちゃん、目を離したすきにいなくなっちゃったの。もしかして……」
「そうだな。で、なんでエレナはそんなに慌ててるんだ?」
「ケーキ…………」
「帰ってからな」
「うん……」
急ぎ行かないといけないからな。
「で、なんの画像見てたんだ?」
「分かんない……」
操はただただ困惑していた。まぁ、実際いなくなったらそりゃあ狼狽えるよな。
それに、エレナはケーキで困惑していたとは思えない。
普通なら食べてから行こうと言うはずだ。
それが、心ここに在らずといった様子。
「操、借りるな」
操にスマホを借りて、画像をスワイプしていく。
よくもまあ、こんなにオブジェの画像を集めたなぁ。
これ全部トリガーになる可能性があるが……。
さて、どれに一番惹かれたのだろうか。
見ている最中に、俺のスマホが鳴った。
今日はLINEでメッセージが来たようだ。
『おっきなイカさん→』
『←分かった。危ないことしないで待ってるんだぞ』
『分かったー→』
さて、場所は分かった。
スマホで時間を調べる。今回は五時間弱かかるな。
早速移動開始だ。
「待って」「待ってよ」
俺が出かけようとしたところで、止められた。
「なんだ?」
「え、どこ?」
操が不安げな顔で聞いてきた。
「能登半島だな。おっきなイカのオブジェがあるから」
それに、前に環も言っていた。
恐らくだが、ずっと頭の中にあったのだろう。
「え、ホントに行くの?」
意外なことに、いつも行くと言うエレナが及び腰だ。どうしたんだろうか?
「どうした?」
「その、襲われない?」
「は?」「へ?」
「なんでそんな顔するのよ。いや、ほら、大きなイカだと捕らえられて……」
可愛いところもあるもんだ。
「な、なんでそんなニヤニヤしてんのよ」
「いや、かわいいなって」
「うん。エレナ、そういう気持ちずっと持っててね」
「???」
まさか、大きなイカに捕まると思ってたなんて、そんなメルヘン思考なところ嫌いじゃない。
あとで、そんな感じの絵本を見つけて買ってやろう。きっと喜ぶはずだ。
ということで来ましたよ、金沢駅。
めっちゃかっこいいよな、この鼓門。
しばらく見ていたいが、先にアンジュを迎えに行くのが先決だ。
そして、いつものようにレンタカーを借りると、操がなんとも言えない顔をしていた。
「どうした?」
「手慣れてない?」
「よく言われる」
「そうなんだ……」
エレナなんてもう助手席に乗っているからな。
「あっ、ずるい」
「ふふん」
「おい、なんで運転席に乗るんだよ」
「いや、わたしも前がいいなって」
操のアホ毛がピンと立った。
「運転出来ないだろ」
「オートマだからいけるかなって」
「免許ないだろ」
「そうでした」
どこまで本気か分からない。おでこをペシッと叩いて後ろに乗り込む操。
だが、アホ毛がシュンと萎れていた。
表情は明るいが、アホ毛は正直だ。
レンタカー屋さんの人は、終始不安そうな顔をしている。
すごく申し訳ない気持ちになる。
「じゃあ、行くぞ」
「うん」「はーい」
走り始めて数分。駅で買ったお菓子をエレナが食べ始める。
「ねぇ、エレナ」
「なぁに?」
「あんなに駅弁食べたのによく入るね」
「操、そこじゃない」
「え?」
そんな感じで一路能登半島を目指す。




