20 もう一杯だけ
空港に着いたあと、おにいは流れるような動作で、レンタカーを借りに行った。
そして、当然のことのようにチャイルドシートを借りて、手慣れた手つきで取り付けていた。
だけど、子供もいないのにチャイルドシートを借りたからか、不審そうな顔をしていた。
あたしも同じ顔でおにいを見ていたので、何も言えなかったけどね。
そして、前後に初心者マークを付けたことで、不審そうな顔から不安そうな顔になった。
もちろん、あたしもだ。
「じゃあ、行くか」
「え、ええ……」
「どこだっけ?」
「ここ。車で二十分」
「分かった」
ナビを設定するおにい。
こんなに頼もしかったっけ?
そうして走り出すと、もう何度も運転しているからだろうか、そこに初心者感は無かった。
そうして、目的のうどん屋さんに行くと、アンジュちゃんがいた。
あれから二時間くらい経っているはず……。
おにいが車を止めて出ていくと、アンジュちゃんが満面の笑顔で駆け寄って抱きついた。
未だにその光景が信じられない。
どうしてここにいるのか。
おにいの言葉を思い出し、嫌でも信じざるを得なくなった。
「待たせたなー。退屈してなかったか?」
「だいじょーぶ。おうどんたべりゃー」
「え、お金大丈夫なんか?」
「アンジュのおこづかいでたべれりゃー」
「そ、そうか」
そんなやり取りをしていたが、やはり小さな子を一人にしていたことで、店の人には怒られたらしい。
「まぁ、いつものことだしな」
「よく、平気ね」
「この顔見たら帳消しになるから」
アンジュちゃんの顔を見る。
確かにこれは怒れないし、一族のサガだから仕方ないのだろう。
それでも、毎回怒られるらしいが、よく耐えられているものだ。
あたしなら、速攻でキレてるもの。
「じゃあ、折角だし食ってくか」
「そうね。そのために来たんだもの」
「アンジュもたべりゅー」
ということで待ちに待ったうどんを食べた。
流石本場、全然違う。今まであたしが食べてきたのはなんだったのか。
追加で天ぷらやコロッケも追加したけど、安いわね。
そして、これならまだいけそうだわ。
アンジュちゃんも同じ意見らしい。
アンジュちゃんと顔を見合わせた。
「あと、よんはいはいけりゅー」
全くもって同感だわ。
*
アンジュが指を四本立てて言うと、環もすかさず同じことを言った。
「あたしもまだまだいけるわよ。そのために調べておいたんだもの」
どうやら、このまま帰る気はないらしい。
まぁ、うどんをハシゴするのは、まぁ分かるが、一体環はどこのお店をピックアップしているんだろうか。
運転するのは俺なんだが。
その後、まんのう、丸亀、坂出と走らされた。
民家みたいなところがあり、本当にそこなのか半信半疑だったが、人が多くいたため、安心して入れた。
しかし、店ごとに全然違うことには驚かされた。
これはハシゴしたくなるのも分かる気がした。
アンジュも両手でお腹をさすっていた。
「ふぃ〜」
最近仕草がアイリさんに似てきたな。
最後のお店を出ると、スマホ片手に俺の袖を引っ張った。
「行きたいところがあるの」
「まだ食うのかよ」
俺のお腹は既にキャパオーバーなんだが。
「大丈夫よ。腹ごなしになるから」
そうして、運転させられた場所は、観音寺市の海岸近くにある公園だ。
展望台に登り、環の目的であったそれを見る。
「「「おー」」」
砂で作られた『寛永通宝』だ。
初めて見るが、よくこんなの作ったよな。
アンジュも、目を大きく開いて見ている。
「これって、昔に補助金とかで作ったやつ?」
「違う。これは江戸時代に一晩で作ったと言われてるやつだな」
俺も半信半疑だったんだよ。
「へー。あのイカみたいなものかと思ったわ」
「いかー? アンジュいかだいすきー」
「(あ、バカ)」
「(なんでよ。いいじゃない)」
「(ここから能登半島なんてどうやって行くんだよ)」
「(あ、着替えとか持ってきてないもんね)」
なんで、泊まり前提なんだよ。
「違う、そうじゃない」
「んー、どちたのー」
「なんでもないぞー」
流石に転移は一回にして欲しい。
しかし、環のことだ。何かしらやらかす可能性があるな。
「しかし、よくおにい、その場所って、分かったわね」
「テレビでやってたからな」
「あ、そ」
なんで振った本人が、早々に興味なくすんだよ。
アンジュは、コテンと首を傾げていた。
しばらくそのまま眺め、近くに寄って眺めたりしていた。
「じゃあ、帰るか」
「は、なんで?」
いやいや、なんでそこで疑問系で返してくるんだよ。
まさか、泊まる気か?
何にも持ってきてないぞ?
「香川といったら、骨付鳥が残っているでしょう?」
「お前、エレナより食い意地張ってんな」
「あら、エレナちゃんより?」
「そう」
「ふーん」
なんでそんな自信満々な顔しているんだ?
アンジュの背の高さまでしゃがむと、ニッコリと微笑んだ。
「エレナちゃんにもさっきのことバラしちゃいましょう。ねー」
「?」
「ねー」
「ねー」
一瞬意味がわからず、首を傾げていたが、二回念押ししたことで、同意を得たようだ。
悪いことばかり教えそうだ。
「じゃあ、せっかく来たんだもの。骨付鳥食べに行きましょうねー」
「おー」
これは帰るのが遅くなりそうだ。
今回はエレナだけでなく、アイリさんにもどやされた。
お酒のおつまみになる骨付鳥をテイクアウトしなかったからだそうだ。




