14 そのための亨ちゃんでしょ?
アンジュちゃんはすぐに見つかった。
てっきり富士山を見てるのかと思ったら、他の子ども達と一緒に遊具で遊んでいた。
誰とでも仲良くなれるのはいいが、変な人に着いてったらだめだぞー。
「おにーちゃ、えれりゃー」
俺とエレナさんを見て、駆けてきたアンジュちゃん。
そして、後からきたアイリさんを見て、「うおー」と興奮した。
一体どういうことだ?
「あいりねーちゃいるってことは、きょーもじぇっとこーすたー!」
全部分かった。
前にディアレストランド行った時に、あんなに絶叫マシン好きだったのは、アイリさんからの悪影響のせいだったんだな。
こんな小さい子を乗せて、とんでもない運転するなよ。
まぁ、ここに来るまでに似たような運転しているのが多かったから、あれが普通なのかもしれないけど、もう少し丁寧に運転して欲しい。
いつものように抱っこのポーズを取るので、抱き上げる。
「なんで、亨ちゃんにはこんなに懐くのかしらね」
アイリさんの普段が酷いからじゃないですかね?
もちろん、そんなことは口には出せない。
「少し歩こっか」
エレナさんが食べ物以外の提案をした。珍しいこともあるもんだ。
空を見上げると、綺麗な青空だった。
「見上げてどうしたの? 鳥でもいるの?」
「いや……、いい天気だなって」
「ふーん」
ということで、やってきましたよ。千本松原。
やっぱり富士山は下から眺めるもんだと思う。
山頂にいなくてよかったよ。
「やっぱり、富士山は下から見るべきよね」
「そんな静岡県民みたいな感想……」
「全国共通じゃないの?」
んなこと言われても知らんよ。
そうして、暫く歩くと案の定「お腹すいたー」とアイリさんが言った。
「もうですか?」
「当たり前でしょう? 運転したんだもの。お腹減って当然よ」
何が当然なのかは分からないが、水門に登りたいというアンジュちゃんを誤魔化しながら市場の方へと向かった。
よくそんなポンポン言葉が思いつくなと感心していた。
でもまぁ、ホント、マジで参考になる。
伊達に営業成績いいのは嘘では無かったんだなと。
子供相手でも、妥協することなく言いくるめていくその姿は、大人気なくもプロだった。
そんな様子をエレナさんは、苦々しい顔で見ていた。
「わたしのときも同じだったわね」
「へー。だから、今こんな風になってしまったのか」
「ちょ、どういうことよ!」
「なんでもない。アンジュちゃんに悪影響だな。引き離さないと」
「待ちなさい! 悪影響って何よー!」
川沿いを歩いて市場へと向かう。
聞けば、高い所が苦手だと言う。
あんな運転していて、よく言うよ。
高いところに登りたいと言ったアンジュちゃんを、必死で宥めすかしたアイリさんは、苦笑いしながら理由を教えてくれた。
「高いところ苦手なのよねー」
「そうなんですね」
「そう。エレナが小さい時は、バカみたいに高いところばっかり行くから、怖くてね。柵の外とか」
まぁ、煙と何とかは高いところ好きだから。
「って、いってぇ!」
ぎゅうっと腰の辺りをつねって捻られた。
「何すんだよ!」
「わたしのことバカだと思ったでしょ」
「……」
「何か言いなさいよ」
変なところで、勘がいいんだからなぁ。
「ほーら、アンジュちゃん何が食べたいのかなー」
「こらー、誤魔化すなー」
「いいじゃない、事実だし。今回もE判定だったんでしょ?」
「!?」
まぁ、保護者だしな。そりゃあ学校や塾から連絡入るわな。
「海鮮丼食べましょ、ほら、海鮮丼!」
無理矢理話題を変え、アンジュちゃんを奪い取るように抱き抱えると、海鮮丼の写真やらを見せて、無理矢理話題を終わらせていた。
アンジュちゃんは、「うわー!」と目を輝かせながらはしゃいでいた。
「うみのほうせきばこやー」
別の意味でテレビが悪影響だったわ。
「亨ちゃん、あの子の成績アップもお願いね」
「あ、はい」
アイリさんが、アンジュちゃんを抱き抱えながら言った。
エレナさんは、さっきのことなど忘れたかのように、写真とにらめっこしていた。
そうして、お店へ入り席に着く。
俺とエレナさん。アイリさんとアンジュちゃんで座った。
「あ、わたしこれにしよー」
エレナさんが選んだのは、桜エビとしらすのかき揚げ丼だった。海鮮丼はどうした。
「よくそんな重そうなのを」
「いいじゃない。気になったんだもの」
「まぁ、別にいいけどさ」
「そうそう。で、亨は何にしたの」
「え、キンメとマグロのだけど」
「じゃあ、丁度いいわね」
何が丁度いいのか分からないが、勝ち誇った顔をしている。嫌な予感がする。
一応、聞こうか。
「何が?」
「何枚か頂戴」
「お前ふざけんなよ」
「わたしのかき揚げ少しあげるから」
「ええ……」
「何よ。不満なの? 美少女の齧ったかき揚げあげるって言ってんのよ」
「齧ってないのよこせ」
「ダメよ」
「はぁ?」
意味が分からない。
目の前でアンジュちゃんとメニューを見ているアイリさんは助けてくれそうにない。
まぁ、この人に期待したところでって感じなんだけどな。
そして決まったのか、店員さんを呼んだ。
「すいませーん」
「はーい。ただいまー」
そして、店員さんが来たので、アイリさんから注文を始めた。
「地魚の天ぷら定食と桜エビのコロッケとビール──」
「待て」
「なぁに?」
不思議そうな顔をするな。
「車どうすんだよ」
「その為の亨ちゃんでしょ? ほら」
そう言って鍵を俺に渡すアイリさん。
最初から飲む気だったな?
ちなみにアンジュちゃんは、いろいろ乗ってる数量限定の海鮮丼を頼んでいた。
エレナさんもそれを見て、急遽同じものにした。
そしてなぜか、俺の注文はエレナさんに勝手に変更され、かき揚げ丼になっていた。
到着して早々に、半分づつ奪われた。
「ありがとー亨」
「俺なんにも言ってないんだけど」
「ごめんねー亨ちゃん。ほら、これ食べて」
アイリさんが追加注文していた金目鯛の煮付けでご飯を食べた。
めっ…………ちゃ、うまい…………。
アイリさんの優しさも何厘かは入ってるだろうが、うまい。
かき揚げもうまい。
ちなみにだが、エレナさんも、流石にまずいと思ったのだろう。しらすを少しだけくれた。
そんなことよりも、アンジュちゃんが嬉しそうにパクパク食べているだけで満足だった。




