13 ゴールド免許です
「ほら、亨ちゃん!」
助手席をバンバンと叩く。
俺も諦めて乗った。
アイリさんは、サイドミラーが閉じた状態で発進しようとしたので、慌てて注意した。
「ちょ、サイドミラー閉じてますよ」
「あら、ホントだわ。ありがと」
「いえ……」
これ大丈夫なんか?
走り出して数分もしないうちに、乗り心地の悪さを嫌というほど実感した。
それにメーターを見ると、ガソリンが少なかった。
俺が言えることじゃないけど、多分この道じゃない気がする。
駅に向かっているよな。
近道って訳でもなさそうだし。
アイリさんを見ると、自信満々に運転している。
きっと何か考えがあるのだろう。
そして、案の定三鷹駅の前に到着した。
「え、電車で行くの?」
心なし、エレナさんが安堵した声で問う。
「ち、違うわよ。あっれー?」
そう言って、三鷹駅前のロータリーをぐるぐる回っていた。
急ぐとは一体。
その後、車を止めたアイリさんは今になってカーナビを設定した。
「これでオッケーね」
「そうですね。ただ、ガソリンが心配ですね」
「あら、本当だわ。気がきくわね亨ちゃん」
本当はアイリさんが気がつくべきだと思うんですよね。
そのままカーナビに従い南下していく。
「なんでここから一車線になるのかしらね」
プリプリしながら言うが、俺に言われても分からんよ。
調布IC前のガソリンスタンドで満タンにするついでに、俺はタイヤの空気圧を見た。
よくこれで走ってたな。かなり入ったぞ。
放置車両並みに空気抜けてたんじゃなかろうか。
「あ、すぐそこのファミマ寄ってカフェオレ買っていきましょ」
本当にアンジュちゃん迎えにいくつもりあるんですかね?
アイリさんはファミチキとアメリカンドッグを買ったが、エレナさんは意外なことに、飲み物しか買わなかった。
これは、いよいよ覚悟を決めないといけないかもしれない。
この時、運転を代わっていれば良かったと本当に後悔した。
買った飲み物を飲む余裕は無かった。
アイリさんの運転の荒いこと、荒いこと。
どうしてエレナさんが乗りたがらないのか分かった気がする。
色々足りないんだ。
安全とか、配慮とか、丁寧さとか。
普段のアイリさん、そのままみたいな運転だった。最低限のラインだけは守っている。
でも、それが余計に怖い。
そして、ジェットコースターのような時間はあっという間に過ぎた。
気がつけば、沼津ICを降りていた。
後ろを振り返ると、エレナさんは目の前にスマホを押し当て、何かを見ながら現実逃避していた。
まぁ、でも意外と通行帯区分とかは守ってたんだよな。
あと、速度も……。
問題は、急ハンドルが多いのと、前の車に近づき過ぎてブレーキを踏むんだが、0か100みたいな踏み方するんだよ。酔うわ!
そして、有名なハンバーグ屋さんの前を通り過ぎようとしたとき、急に止まった。
そして、右折のウインカーを出した。
「どうしたんですか?」
「めっちゃ混んでるわね」
「そうですね」
そう言いながら、車の列が途切れた段階でお店の駐車場へ入った。
「え? 迎えに行くんじゃ」
「整理券もらってきて」
「えっ!?」
いや、めちゃくちゃ並んでるんだけど。
というか、迎えに行けよ。
「アンジュと一緒に食べたいの」
「わ、わたしも……」
後部座席で真っ白な顔でぐったりしているエレナさんもそんなことを言う。食い意地だけは見事ですね。
「分かりましたよ……」
開店時間まで……まだ一時間もあるじゃないか。
「開店時間までまだ結構あるんですが……」
「分かったわ。亨ちゃんはここで待って──」
「嫌です」
「え、でも」
「嫌です」
正直、駐車スペースに止められない時点でもう無理だろう。
それに、もう少し後に来れば、多分整理券ももらえるんじゃないだろうか?
「くっ……」「ぐっ……」
こういうところは姉妹だな。
それに今日は多いのか、既にかなりの人数が並んでいる。
「ここは一旦引きましょうか……」
諦めてくれたのはいいが、運転が荒い。気分で運転しないでほしい。
そして、無事に千本浜公園の駐車場に到着した。
イライラしていたのだろうか、斜めに頭から突っ込むように止めていた。
ここで一つ気になったことがあり、車から降りたアイリさんに問うた。
「アイリさん」
「どうしたの?」
「免許って持ってます?」
「失礼ね。あるわよ、ほら!」
それは意外なことにゴールドだった。
「嘘だろ……」
「失礼ね。わたし、人とか轢いてないもん」
それは当たり前のことなんですけどね。
エレナさんが車から降りて、地面に突っ伏していた。
まぁ、気持ちは分かる。俺も足がガクガクしているからな。
今日だけでどんだけ幸運使ったか分からないくらいだ。
さて、アンジュちゃんを探すとしますか。




