103 重っ……
今日10月8日はエレナの誕生日だ。
そう、誕生日なのだ。
前日の夜からアイリさんとアンジュが折り紙を細長く切って、輪っかを作っていた。
今この部屋はかなり賑やかになっている。
「あい」
「はい」
アンジュがアイリさんに紙を渡して、そのまま貼っていく。
『び お と め エ レ ナ お じょ う う ん で た』
微妙にそれっぽく読めるのが腹たつな。
最後まで貼り終わったから、「あら」って言うんだもんな。
紙を渡したアンジュはゆっくりと目線を横にした。
今回はアンジュにも責任があるぞ?
しかし、平日だというのに、かなりの人数が集まった。
学校が終わり、そのまま制服姿で来たのが、友人の巡と礼奈。
途中で合流したのが環と操だ。二人も制服のまんまだ。
そして、意外なことに、ティナ、紗季、玲奈、明日香、汀と大学勢も来た。
招待してないんだけどな。
汀は、「ここが亨の家……」なんて言っている。ここは実家じゃないぞ?
そして、天嶺さん、美晴さん、結子さんもやってきた。
テレビの前にはいつの間にか天ちゃんがいた。
流石にアンジュの誕生日じゃないからか、他の園児は来ていない。
代わりに、場違いなお呼ばれドレスで来たのが、萌歌さんだ。
まぁ、みんないろんな格好だしな。
別に違和感はない。
そして、今日の主役であるエレナは、アイリさんにおねだりして買ってもらったドレスを着ている。
高かっただろうに。きっと誕生日プレゼントって言って買わせたんだろうな。
宝石付きのチョーカーとティアラまである。
…………それにしても綺麗だな。
終始ドヤ顔で、スカートの裾をつまんで右に左に揺らしている。
でもなエレナ。これからご馳走食べるんだぞ?
絶対に、絶っっっっっっ対に汚すなよ?
ということで、大学を早めに抜けてご馳走を作っておいた。
変に凝ったものより、そこそこ豪勢に見えるものにした。
食べづらかったり、こぼしやすいものはやめにした。
エレナの要望でゆで卵とアボカド多めのシーザーサラダ。
エビたっぷりのマカロニグラタン。
ローストビーフ。
通常の五倍作りました。
もちろん、ローストポークと鶏ハムも作った。
これがあれば、だいたい怒られないからな。
あとは、チューリップの唐揚げと普通の唐揚げ。
想定の十倍揚げた。
フライドポテトも揚げたので、揚げ油もかなり減った。
ご飯ものは海苔巻きにした。
まぐろ、ネギトロ、きゅうり、かんぴょう、まぐたく、サーモン、ツナマヨ、梅きゅうり、海老カツ、ヒレカツ、プルコギ、厚焼き玉子だ。
これなら一口サイズだし、断面がカラフルだから見た目も綺麗だ。
ジュースも沢山用意した。
アイリさんのお酒も結構消費できるんじゃなかろうか。
ただ、さすがにケーキを焼く時間は無かった。
ただ、誕生日だと言う話を聞いたのか、バイト先のオーナーである慎之介さんが、シュークリームやロールケーキなどかなり持たせてくれたんだよな。
テーブルの上には乗らなかったので、ローテーブルの上に置いてある。
奥から、シュークリーム、ロールケーキ、タルト、ミニパフェ、プリン、チョコレートテリーヌ。
よく乗ったよ。
スイーツの前でエレナが乙女の顔をしている。
白雪姫みたいに見えた。
そんな感じでパーティーは進んでいった。
みんな美味しい美味しい言いながら食べていく。
汀なんて、河童巻きばっか食べてるし、萌歌さんとティナはずっと、料理上手い人と付き合いたいと言っている。
出会いを提供するべきだろうか……。
紗季、玲奈、明日香はローストビーフの薄さに感動していた。
感動するのはいいが、早く食べないと無くなるぞ?
天嶺さん、美晴さん、結子さんは嬉しそうに、アイリさんのお酒を消費していく。
一本、また一本と減っていくたびに、アイリさんが呻く。
お酒控えるって言ったし、俺の部屋を圧迫しているんだ。少しでも減らさないとな。
アンジュは天ちゃんと仲良く食べている。
それを萌歌さんが面倒を見てくれている。
今日来てくれて、本当に助かってます。
しかし、コップじゃなくてチューリップの唐揚げで乾杯するのはどうなんだろうな。
そして、問題なのはこいつらだ。
「お兄、こんなに作れたんだね」
「わたしたちの時もよろしくね」
「それにしてもこの量をこの短時間でこんなに美味しく作るなんて、お見それしやした」
「エレナも将来安泰ですね」
「ほんとそうよねー」
「問題は、鈍感なところだけなのがね」
「まぁ、それを見守るのも、またオツなもんで」
「これからもなるべく来るようにするからね」
こいつらは一体何の話をしているんだろうか。途中から関係ない話をし出して……。
そして、料理は全部なくなった。
あるとすれば、唐揚げの衣と、ソースくらいなもんだろうか。
そんなタイミングでプレゼントの時間になった。
それぞれが渡し終えると、なぜか俺の方をみんなが見た。
「ほら、お兄」「お兄ちゃんの番だよ」「亨……」「おにーさん早く早く」「亨さんは何を用意したんですかね」
そんなに急かすなよ。
俺は白い紙袋を手渡した。
「これ……」
「ああ。学業成就のお守り。今年受験だろ? めっちゃ霊力入れてもらったから」
「ありがと……」
まぁ、こればっかりは、エレナの頑張り次第なんだけどな。
まぁ、気休めにはなるだろう。
それに、もし落ちたら、龍姫さまのせいにすればいいのだ。
みんなで集まって何やら話している。
ちょっと聞こえないが、大したことは言ってないだろう。
「不知火……神社……」
「あっ、そこすっごいお願い事叶うんだよー」
「へぇ……」
エレナは目を細めて嬉しそうにしている。
まぁ、プレゼントがこれでいいのか迷ったんだけどな。
ガーリックプレスをプレゼントにしなくて良かったよ。
そしたら、なぜかエレナが俺のところに来て、俺の袖を引っ張った。
「ありがと……」
「ああ」
だが、まだ離してくれない。
「どうした?」
「指輪」
「ああ」
忘れてたなんて言えない。
俺は部屋に戻り、それを持ってきた。
「ほい」
「お兄!」「お兄ちゃん!」
「な、なんだよ」
「その渡し方はダメ!」
「そう。ちゃんと礼儀作法があるんだよ?」
環と操が例を見せてくれた。
片膝をついて、箱を開けろと。
それ、プロポーズでやるやつだろ? なんで誕生日でやる必要が……。
まぁ、エレナが喜ぶならいいか。
そうして、俺は例に倣って、片膝をついて、箱を開けた。
なぜか、さっきまで酔っ払ってソファに背中を預けていた天嶺さん、美晴さん。
そして、平気な顔の結子さんまで聴衆に参加した。
ティナや汀なんて、複雑そうな顔している。
まぁ、うまく成形できなかったからな。
紗季、玲奈、明日香はさすがだ。『どうやってあの形を作ったんだ』と言っているもんな。
そして、エレナが、顔を朱らめ、目線をずらして手を差し出した。
「なに?」
「指。はめてよ」
ああ、そういうことか。
そして、俺はなぜかエレナの左薬指にはめたのだった。
そしてエレナはうっとりするでもなく、真顔で言い切った。
「重っ……」
まぁ、こんだけ大きければな。
その後、アンジュは宝石のブレスレットを差し出した。
「エレナねーちゃこれあげりゅ」
「ありがとー。わぁ、綺麗!」
「ぼーぎょりょく、カンスト!」
「そ、そうなの?」
珍しくエレナが戸惑っている。
そして、最後にアイリさんが、ハンドクリームを渡した。
あれ、高嶺さんのところで出してる、よく効くハンドクリームじゃないか。
「手、これつけるとすぐ治るわよ」
「あっ……」
そして、自分の手を見たエレナ。
「えへへ。ありがと」
「どういたしまして」
そうして、エレナの誕生日会は終わったのだった。




