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キラキラと輝いていた朝日がもうてっぺんに昇ろうとしている。家路についたレミィたちを待っていたのは見知らぬ小さな少年だった。紺碧に輝る瞳はずっと見ていると吸い込まれそうになる。
「わ、あなたはだあれ?」
「……おそい」
「へ?」
少年が口を開くと、禍々しい気を放ってレミィを睨みつけた。レミィはあまりの迫力に後ずさる。リオはなんだコイツはと臨戦態勢を取りレミィの隣に立った。
「え、ファル?」
「遅いぞルビー。なにやってた」
「え! ファルってあのルビー先生とお友達のリスさん……⁉︎」
「友達じゃない、契約人だ。リスさんでもない」
小さい体で威勢よく答えるファルはレミィの言葉とことごとく跳ね返す。レミィはうろたえつつも諦めない。
「ずっと待っていたの?」
「ふん。来てやったんだ。それなのにルビーは遅いし、森の魔力の変化で痛いし、もう……やだ」
「待て待てファル! 泣くんじゃない!」
ルビーは慌ててファルに駆け寄り抱き上げる。小さく収まるファルは、まるで本当に子供のようにルビーの腕ですんすんと目を擦った。しばらくすると安心したのか、ルビーの腕の中からすうすうと息の漏れる音が聞こえてきた。その様についていけないレミィとリオ。
「どういうことなんだ?」
「ルビー先生の使い魔のリスさん……だよね?」
リオは訝しげにファルを見て、レミィは跳ね除けられた悲しさを纏いつつも疑問をぶつける。そこにひょこっと顔を出したキルが回答する。
「ミゲルが消えた影響で、少しここいらの魔力に変化が起きてるのかもな」
「魔力に変化?」
「そ。曲がりにも国王って、その土地を統治する魔力が備わっているからなあ。使い魔は魔力の強い生き物がなるから、人間に化けるのもお手の物。ただ今回は、突然変異って感じだけど」
キルがそう言いながらファルをちらっと見る。疲れなのか、体力を消耗しきったかのように目を瞑り寝息を立てている。おずおずとレミィが自身の持つ首飾りをキルに見せて問いかける。
「それって、この『ハトレアのしずく』も関係する?」
「うーん。そうだなあ。別に万能な道具ってわけじゃないだろうけど、この国一帯は闇魔法の聖地。ハトレア竜が光魔法ってことを考えると、その力の影響がないこともないって感じだろうな」
腕を組み首をかしげるキルは何もかもを曖昧に答える。そんなキルの態度にレミィは少しばかり眉を下げて気持ちまでもが下がっていく。
キルの言葉を受けて、リオは同じく腕を組みながら考える。
「闇とか光とか……そういうのを一気に調べられる方法はないのか?」
「あることには、あります」
「本当⁉︎」
リオの考えにルビーが答えた。一瞬にして道が開けたような気になったレミィは声を上げる。
「……ここから西に進んだ国。サンセイブ国の王都、クスルスにあるクスルス図書館。そこにはこの大陸全土からたくさんの書物が運ばれてくると聞きます」
「じゃあ、そこに行けばいろんなことがわかるんだね!」
うきうきが舞い戻るレミィは両手を上げてバタバタと振り回す。そんなレミィにルビーは苦言を呈す。
「そう、簡単な話ではありません。ここからサンセイブまで行く道のりも、決して楽なものではない。ミューハ城で起きた出来事の比ではないんです! だから……」
「ルビー先生。先生はずっと、何に怯えているの?」
「……っ」
レミィの鋭い発言に、ルビーはうろたえる。いつからこんなにも突き刺すようになったのかと、自分がまだ未熟な魔法使いだった頃が脳裏に入り乱れてくる。
レミィは静かに言葉を続ける。
「ずっとずっと、わたしを守ってくれているんだと思ってた。ううん、今もそう。守ってくれているんだと思う。けど、昨日からのルビー先生は様子がおかしいよ」
「そんなことは……」
「わたしは大丈夫。リオだっている。さっき話したでしょう? わたし、ルビー先生の先生にも会いに行きたい! たくさんお話を聞くために、まずはたくさん情報を集めなきゃ」
ぴかっとした微笑みを向けるレミィを、ルビーは否定することなどできなかった。守り続けてきた少女とはもう違うのだと、本当はわかっていた。
「俺も自分のことを知るために、まずその図書館を目指したい。当てが一緒なら、少しは安心だろ?」
「じゃ、オレも見届け人としてお供しようかなあ?」
「アンタは本当になんなんだよ!」
「短気はだめだよリオくん」
リオの決意とキルの同調。リオの瞳の奥に熱く燃える決意があることを、ルビーは見逃さなかった。
レミィ、リオ。そしてキルの表情を交互に見て、ルビーはふーっと長く息をついた。喉の奥に留まる、本当は言いたくない言葉を絞り出す。
「……わかりました。私は訳あってこの地を離れることができない。ファルもこの通りの状態ですし。なので……リオくん。あなたにレミィを託します」
「! わかった」
「護衛として! キルくん、お願いできますか?」
「お、はいはい。仰せの通り」
「そしてレミィ」
「はい!」
「……少しの迷いが、道を隔てます。自分の直感を信じてください」
「もちろん! 直感を大事にする!」
三人に声をかけ、それぞれの瞳を見やりルビーは頷く。一度目を伏せ、次にあげた時には静かに微笑み思い出していた。自分が、レミィたちぐらいの年派の頃に同じ気持ちだったことを。外へ出て知識を吸収する喜びを。
「はい! ではまず旅立ちの準備のために、お茶にしますよ!」
「えー! すぐ行かないのー⁉︎」
ルビーの声にレミィが叫びながらもケラケラと笑う。リオもレミィの様子に笑顔が引き出される。その後ろを、静かにキルが追う。
家に入ると、森の中へ様々な声がこだまする。
不穏さも消し去るような明るい声が、まだ見ぬ地への期待を乗せていた。
ここは魔法の都
月の力と太陽の力
闇と光が交わりを経て生まれた世界
本来の力を知るために
少年少女が旅路につく時
この世界を解き放つ




