8-2
「それって……『ハトレアのしずく』⁉︎」
「ご名答!」
「何でそれをキルが持ってるんだよ!」
「それを、説明しに来た」
にっこり笑うキルに驚愕する三人は何も言葉が出なかった。『ハトレアのしずく』はレミィを光に包んだ石であり、その原理はなにもわからない。昨晩の戦いの後、レミィの持つ『ハトレアのしずく』は首飾りに収まったまま、何の光も持たぬ石となってしまっていた。
「レミィの首飾り、ちょっと貸してくれない?」
「いいけど……」
「レミィ! 安易に貸してはっ」
ルビーが制止する前に、レミィはキルへと首飾りを渡してしまう。その瞬間、キルの手の中にあった『ハトレアのしずく』はしゅんっと音を立てて、レミィの持つ首飾りへと吸収されていく。
「ど、どういうことだ?」
「ハトレア竜は封印されるときに、魔法使いと共に封じられたんだ。それは月の力を使い、闇魔法として存在していた禁じ手の魔術。ただその時誰も知らなかった、ハトレア竜は光魔法を司る竜だ。反発して、涙を落した」
「それが、『ハトレアのしずく』になったの……?」
キルの話にレミィがおずおずと質問する。真剣そうな眼差しからけらっと笑うとキルは続ける。
「んー、まっそういう言い伝えって話で、真相はわからないけどね! わからないけど、今見たように吸収されたってことは、レミィの持つ首飾りこそが本体ってこと。さて、そしてなぜオレが持っているかというと……貰い物ってことで!」
「なんだよそれ!」
「ただ、それを貰った奴は……リオくんに呪いをかけた人物だよ」
「は⁉︎」
突っ込みと驚きに忙しいリオは目を丸くする。黙って聞いているルビーはなぜだか困り顔だ。
疑問符でいっぱいのレミィは一生懸命に理解しようと必死に頭を回転させる。
「キルはリオに呪いをかけた人を知っているの?」
「時系列が逆だけど、そう。オレに『ハトレアのしずく』を託して、リオくんに呪いをかけた。自分を見つけ出すまで消せない呪いを」
「意味がわからない。俺はそんな奴に心当たりはないし、第一見つけ出すまで消せないってどういうことだよ」
「そのままの意味。そいつを見つけて、呪いを解かせなきゃ消えない。そしてそれを見つけるためには、リオくんの魔力が足りないんだ」
「魔力……?」
「そう。そしてそのことに気が付いていたんじゃないかなあ? ね、先生」
今の今まで黙っていたルビーはキルの言葉にごくりと喉を鳴らした。レミィとリオは不安げにルビーを見つめる。その二人の表情を見て、ルビーはさらに口をぎゅっと紡いで瞳を閉じる。
意を決した、という表情でゆっくりとルビーは口を開放した。
「うん……そう、ですね。話さなくてはいけないことが二人にあります」
「ルビー先生……?」
「黙っていてごめんなさい、レミィ。あなたは、本当のあなたはとても強い魔力の持ち主。城での一件、あれは本来のレミィの魔力が解放されたものなのです」
「わたしの……本来の?」
「待て、じゃあなんでレミィの魔法はあんなにもおかしいんだ」
戸惑うレミィに代わってリオが口を挟む。確かに、リオが今まで見てきたレミィの魔法は強いものとは思えなかった。むしろ逆で、失敗や不発が多いと感じていた。
「それはレミィや……そこの、キルくんの持っていた『ハトレアのしずく』も関係しているのです」
「どういうことだ?」
リオの問いかけに、一拍を置いてからルビーは再び語りだす。
「……レミィは、語り継がれている『ハトレアのしずく物語』に出てくるハトレア族の末裔。魔力の継承者であり、物語の伝承者でもある」
「ま、待ってルビー先生。確かに、昔……ルビー先生がわたしの勇者になってくれた時。わたしは拾われの子だって教えてくれたけど。そんな、そんなこと……」
「ごめんなさい。本当のことを言ってしまったら、レミィが……すぐいなくなってしまうと。大切な人から託されたあなたを、早くには失いたくなかった。これは……私の傲慢な心です」
「大切な人って……?」
リオも困惑を隠せない。あまりにも動揺するレミィを見ていられなかった。そしてキルはその場を静観する。空気と共に溶け込んで。
ルビーが続ける。
「私にレミィを託してくれた方は、私に魔法を教えてくれた師にして絶対的な指導者でした。『ハトレアのしずく』による魔力の増幅について研究していて、ハトレア竜の末裔であるレミィの力を恐れていた。リオくん、あなたのように異世界からきた魔力者にその力が奪われることを」
「魔力者……って。だから俺は!」
「魔力がない……違います。リオくんは覚えていないだけ。そしてその力を使うことなく魔力のない世界へと飛ばされた。リオくんは異世界から来たのではなく、異世界から戻ってきた魔力者」
「⁉︎」
確かに自分が異世界にいた記憶が薄れてきてると感じていたリオは、驚きつつも妙な納得を覚えた。この世界で感じる懐かしい空気や手慣れた自身の身の振るまい。それがすべて、確信へと変わった。自分が、もともとこの世界の住民だったのではないかと。
「リオが、戻ってきた……? どうして、どうしてそんなこと先生が知ってるの⁉︎」
「私が知っていた、というよりも……そうなるであろうと聞かされていた、というのが正しいです。その私の師である魔法使いと一人の、友人から」
「わけがわかんねぇ! それじゃ俺がここに来て、レミィたちと出会うって……ルビーはもともと知ってたってことなのかよ!」
「確信はありませんでした。ですが、キミがこの森に降り立った時。私の杖から並々ならぬ力を感じました。それは、言われていた通りレミィと共鳴できる魔力者がこの世界に戻ったという証」
「だから、あんなに引き留めてたのに行っていいって言ったんだね」
あの日を思い返してレミィは何とも言えない顔で呟く。ルビーはレミィの顔を見ぬまま小さく頷いた。




