7-10
にこやかなヒージが先頭だって裏門へと案内する途中、
「レミィ!」
「あれ、サンちゃん!」
部屋の外にまだ寝間着であろうサンティトルの姿があった。
寝ぼけまなこのサンティトルは、そのまま跪いてレミィの手の甲にキスを落とした。
「へえええ⁉︎」
「おま、なにして……!」
一連の滑らかな動作に動揺するレミィと、明らかに本人以上に動揺してケモノ耳を出すリオ。背後で暗闇を落としそうな笑顔のまま固まるルビー。
「一国の王子がこのような姿で申し訳ない。再度謝罪とお礼を言いたかったのだ、レミィ。手荒な真似をして本当にすまなかった、そして……ボクの話を素直に聞いてくれてありがとう」
「そんな……サンちゃんは最初から優しかったよ」
「ふふ。ありがとう。ボクはもう少しこの国でやらねばならぬことがある。すべて片付いたら……改めて迎えに行かせてくれ」
「迎えに……?」
にっこりと陽だまりを含んだ笑顔でサンティトルはレミィを見つめた。わなわなと肩を震わすリオを横目に、今度はニヤリと笑いサンティトルはリオを指さす。
「それまでそこの黒髪に任せてやる! 喜べ!」
「誰がなんだ! 勝手なことばかり言いやがって!」
「ふん、なんだぁ? レミィを守り抜く自信がないのか? この軟弱者め!」
「なにを言ってるんだ! 守るに決まってんだろ!」
「ふ、二人とも落ち着いて……」
言い争うリオとサンティトル、間に挟まれて困惑を極めるレミィ。どことなくその様子は年相応に見え、今の今まで気を張っていたのだと安堵の涙をヒージは浮かべる。
張り付いた笑顔のままだったルビーは、一部始終を見終えるとパンと手を叩いた。
「はいはい、皆さん落ち着いて。サンティトル王子、ありがとうございます。レミィを気遣っていただき」
「む……別に、ボクは何かを気遣うことはしない! 言いたいことを言ったまでだ」
「坊ちゃんは素直になかなかなれないのでございます」
「ヒージ、うるさいぞ!」
微笑むヒージに叫びを上げるサンティトル。あまりの微笑ましさに、ピリついていたルビーの顔も多少ほころぶ。何が何だかわかっていないレミィは困惑の笑顔を見せ、リオは未だにぷりぷりと不機嫌そうな顔。
優しく差し込む朝日が、その光景の温かさを物語る。
「それじゃあ、行くね。サンちゃん」
「ああ、いつでも遊びに来て良いのだからな」
「うん、ありがとう!」
裏門へと続く中庭に出る扉の前で、レミィは笑顔でサンティトルへ手を振る。目を細めて見守るサンティトルは、一瞬リオへと目線を反らし何かを伝えた。
リオはあまりに一瞬だったので戸惑ったが、すぐに固く頷いた。
中庭への扉が閉まり切ったあと、サンティトルは深くため息をついた。
「……なあ、ヒージ。ボクは、ボクにはこの国を守れるのだろうか」
「もちろんです、坊ちゃん。そのために私共がいるのです」
「はは、そうだな」
そう言うと自室の方へとサンティトルは足を向けた。一度だけ振り返り、もうそこにいないレミィを見据えて、誰にも聞こえない声で呟く。
「がんばるよ」




