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「ありがとうございました! お料理もとってもおいしかった!」
「……どうして朝から元気なんだよ」
「ほら、リオもお礼しなきゃだめだよ?」
廊下でハウスメイドたちに元気にお礼を伝えるレミィと、その声が頭に響きげっそりとするリオ。結局昨日は深夜までの飲み食いが続き、レミィたちは城に一泊することとなった。
初めての豪華な料理もさることながら、自身の何倍もの大きさであるベッドで就寝したレミィは早朝から元気いっぱいだ。
打って変わってリオは自身を追っていた城で眠るということで緊張感が緩まず、完璧に寝不足で陽の光に目をしかめるほど。
「そういえばコロンさんがいないね?」
「彼女は陽が昇る前に急いで帰りましたよ」
レミィの問いかけに、別室から出てきたルビーが答える。後ろにはヒージもピシッとした佇まいで微笑んでいる。
「もともと人目につくのを嫌いますし。まあ……昨日を無礼思い返して飛んで帰った、というところでしょう。二人にはお礼をと、言伝を預かりました」
「無礼?」
「酒癖の悪さだろ」
ここまで聞いてレミィははっとした。昨日は延々とよくわからないことを語っていた印象であったが、雰囲気が柔らかくなったコロンに対してレミィは嬉しく思っていたのだ。
最後まで絡まれていたリオは逆の感想なのだろう、ばつが悪くなったと聞いて「そうだそうだ」と頷いた。
コロンの話を聞く二人に、ルビーの後ろからヒージが一礼した。
「レミィさん、リオさん。本当にありがとうございました。坊ちゃんもとても楽しかったのでしょう。久しぶりにぐっすり眠っておられます」
「……あまり眠れてなかったの?」
レミィが心配そうにヒージに問いかける。
「お父上様たちがいらっしゃらず、一番気を揉んでいたのは坊ちゃんですから。少しは力が抜けたのだと思います。リオさん、あなたにはとてもご無礼を働いた。なんとお詫びを申せばよいか……」
「別に、事情もなんとなく分かったし。俺たちはお礼を言われるようなことはしていない」
サンティトルが「黒髪の少年」を血眼になって探していたのはキュービによる指示だ。おそらくキュービはリオを利用するために、何らかの形で異世界からリオを呼び寄せたのではと話が付いた。
現状、どのようにしてどこからリオが来たのかはわからずじまい。リオ自身も異世界から来たという記憶が薄れていっている。
「お耳の呪いについても、わからなくてごめんねリオ」
「レミィのせいじゃない。それに……」
ふと自分の耳がどこにあるか確認するリオ。不思議そうに見つめながら、無意識にレミィがリオの頭をなでる。
「ちょ……っ!」
「あ、ごめんつい!」
そう言われると同時、
――ぼむっ!
リオの頭にケモノ耳が出現した。
「あああ、もう!」
「わあ、なんだか久しぶりに見た気がする!」
「和やかな気持ちになるな! ……あー、アイツ。キルが言ってたんだ。この出現条件に動悸が関係してるって」
リオはミゲルと戦う前を思い出す。キルに連れられて力を浴び、火柱の剣を出現させた。その時にキルがケモノ耳の発動条件について、「動悸だよ、もっと詳しく言えば感情の高ぶり」とはっきり言っていた。
なにやら深刻そうな顔のリオにつられて、レミィも深刻そうに言葉の意味を模索する。
「どうき……」
「心臓が早くなるってこと! で、それはルビーも最初に言っていた……」
「そうなの?」
コロンの住む湖に向かう前、ルビーが密かにリオに告げた「ドキドキにご用心」という言葉。リオはその時は鳥肌が立つだけだったが、あれは感情の高ぶりを示している発言と考えた。
「キルはなんだかよくわからないが、この動悸について俺の魔力にも関係してると言ったんだ。俺はもともと魔法なんてない場所から来たと思っていたし、魔力なんてないと思っていたけど」
「リオが使った剣は魔法そのものだったよね」
「ああ。だからもう少し、この世界で調べてみたいと思う。自分のことも、魔力のことも」
「うん! 一緒にいたらとても楽しいからすごくうれしい!」
「お前はどうしてそう恥ずかしいことを……!」
リオの言葉にレミィは弾むような声で返した。それに対してリオが過剰に反応すると、ケモノ耳は収まるどころか強度を増した感覚を覚えた。
「くそーーーー!」
「ほおら、二人とも。行きますよ」
「はあい!」
悶えるリオを連れ、レミィとルビーは城の裏門へと足を向ける。城内の者たちにはヒージがうまく説明をしたらしいが、なぜレミィたちがサンティトルと仲良くしているのかは曖昧にしていた。
いきなり国王や第一第二王子が行方不明とわかれば城内だけでなく、国民全体に不安が募り不測の事態に陥りかねない。
そこでサンティトルとヒージは『国王と王子たちは隣国への視察のためしばらく戻らないこと』『またその間の指示はサンティトルに任されていたが適任ではなかったこと』を説明し、近く国民にも迷惑と不安を与えたことに謝罪の儀を行うという。そのための演者として、レミィたちにお願いしていたという設定にしていた。
サンティトルは元から国民のために動く国王となることを夢見ていたのはある程度の立場の者に周知の事実だった。
ヒージが少し色を加えての説明で、城内の者たちは何かを察したのかサンティトルに協力するとのことでまとまった。




