7-8
ルビーが大広間に戻った頃、コロンは真っ赤な顔でグラスを仰ぎ騒ぎ散らしていた。何度か止めに入ったのか、その横でリオは疲れ果てている。
「ルビー先生! どこいってたの!」
明らかに困惑して涙目のレミィがルビーに駆け寄る。髪も乱れていることから、コロンはレミィにも絡んでいたのだろうと推測された。
ルビーは苦笑交じりに声をかける。
「……これは、いったいどういう状況ですか?」
「コロンさんが果実酒ってものを飲み始めたらだんだんとお顔が赤くなってきて。気が付いた時にはリオを弟子にするとか、この国には魔法使いが足りないとか叫び始めて……!」
「酒癖は変わっていないということですね……」
苦笑を崩さずレミィの話を聞くルビーはさらに苦笑交じりの思い出を吐き出す。
ただそこにはコロン以外にも、叫び散らかす者の姿があり、ルビーはさらに頭を抱える。
「無礼講じゃあ! ヒージよ! ありったけの酒だ!」
「……ですが坊ちゃん」
「まあまあ、執事さんヨ。せっかくの王子様のお言葉ダ、今日はいいじゃないカァ?」
「なんだお主! わけがわからんと思っていたが、なかなか話がわかるじゃないか!」
「ケケケ!」
サンティトルもすでに酔いが頂点に達しているようで、コロンの同調に気を良くしたのか声高らかに酒を求める。間に挟まれたヒージは戸惑いつつも介抱しようと右往左往。
「いつの間にあんな仲に……」
「コロンさんもサンちゃんも、ずっと同じ会話しているけどずーっと楽しそうだよ」
呆れるルビーに対し、仲良くなっている様子が嬉しそうなレミィ。
そこへコロンの意識がサンティトルに向いた隙を見てリオが合流した。
「リオくん、すみません。大丈夫ですか?」
「おい、ルビー……酷い目にあったぞ。……そうだ、キルを知らないか? 俺より背の高い、金髪を後ろでにくくった奴」
「キル……?」
「わたしも聞かれたんだけど、わからなくて……」
「確かにリオくんと一緒に少年がいたのは視界に入っていましたが……」
ルビーはその後がわからないと首を振る。レミィもリオの問いかけに頭を悩ませる。二人の様子を見て、リオはがっくりと肩を落とす。
「俺……正直言ってアイツのおかげで今回何とかなった部分が大きくて。一度ちゃんと話を……」
「呼んだ?」
「「「⁉︎」」」
いきなりの背後からの声に三人は飛び上がった。ルビーは瞬時に切り替え体制を構え直すが、ここまで近くにいたにも関わらず気配すらなかった目の前の少年に対し冷や汗を流す。
(油断しすぎだ……!)
自分の警戒心のなさに嫌気がさすも、ルビーはさっとレミィとリオを後ろに追いやる。
「いやいや、そんな構えることないって。オレの名前はキル。ちょっとそこの……リオくんの知り合いで、このお城に用事があった通りすがりの旅人さ」
「おい、旅人だなんて聞いてないぞ」
「言ってないからね」
「…………」
軽快に自己紹介したキルはリオの態度をも跳ね除けケラケラと笑う。最初は驚き固まったレミィも二人の掛け合いにすぐに警戒心を解いた。
ひょこっとルビーの後ろから顔を出したレミィがキルへと声をかける。
「はじめましてキル! わたしはレミィ。この人はルビー先生、わたしの先生なの。リオのお友達とお話しできてうれしい!」
「おい、俺は友達だと……」
「はいはいはい、はじめましてレミィ。リオくんのお友達として、改めてよろしくね?」
どこか腑に落ちない様子のリオに対して、満面の笑みでキルを迎え入れるレミィ。その様子を一人不安げに見つめるルビーへキルはひっそりと声をかけた。
「別にあなたたちをどうこうしたくて顔出したんじゃないよ。ちょっとしたご挨拶」
「キミは……いや、キミたちは何を」
「あー……どこまで何を知っているか興味もないけど、オレはお友達に会うために来ただけ。今はね」
ぶうたれた様子のリオとその顔が面白く笑い転げるレミィ、キルは二人に目線をやりそうルビーに告げた。不安は募るルビーだが、先ほどファルから聞いた「金髪の少年がいる」という話を思い出す。
『きがいをくわえるやつじゃない。ただ、きをつけろ。あいつがなにをしたいかわからない』
ファルの言葉がルビーの頭を巡る。目の前にいるキルがどういう人物だろうと、レミィに何かするなら排除しようという気持ちは変わらなかった。
しかしキルが現れてからの数分でペースがすべて持っていかれているようにルビーは感じ、少しの嫌悪感が決意に混じる。持ち直すためにルビーが口を開きかけたその時、
「おおおおイ! ルビー! どこ行ってたんダ! 早く座レ! そして飲メ!」
「おや? また一人増えているではないか! 誰だか知らんが席に着け! 食事の前でみっともないぞ! なあヒージ!」
「そうでございますね、坊ちゃん」
相変わらず真っ赤な顔で呂律の回らないコロンと、上機嫌でグラスを仰ぐサンティトルがやっと三人が席に着いていないことに気づいた。
ヒージは多少の疲れを見せつつも、変わらない立ち姿でサンティトルに賛同する。
拍子抜けしたルビーに、レミィが元気に言う。
「ルビー先生、呼ばれてるよ! みんなでご飯にしよう」
「レミィ……」
レミィ後ろからリオとキルもわいわい言い出す。
「やったね、オレ腹減ってたんだよねぇ」
「なんでそんな馴染むの早いんだよ!」
「リオくんが馴染めないだけじゃない?」
「……てめえ」
飛び掛かる勢いのリオをからかい続けるキル。楽しくじゃれ合っているのかと見ていてレミィは自分も楽しくなってうずうずした雰囲気を醸し出す。
「ね、行こ! ルビー先生!」
「そうですね、たくさん食べましょう」
ルビーの手を取り席に急ぐレミィはまだまだ運ばれてくる料理に目を輝かせる。
酒癖の悪いコロンを知った様子でなだめるルビー、それに乗じて飲ませようとするサンティトル。リオが取ろうとする料理を片っ端からキルが横取りし、またひと悶着起こそうとする。
すべてが数時間前には考えられなかった光景で、またヒージは静かにその光景を胸へと刻むことに勤しんだ。




