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廊下を進みバルコニーの近くまで来ると、夜風が優しくルビーの頬を撫でた。安息ともいうべき時間を守りたいと思いながら、その先に見据える相手を睨みつける。
「ずっと違和感があったんだ、キミがいないことに。ねぇ、キュービ」
「そんなに僕のことを考えてくれていたなんて。嬉しいよルビー」
睨み付けられたキュービは張り付いたようなにっこりとした笑顔でルビーの言葉を受け止める。
「ほんと、ふざけてる。パイだけじゃなく、ミゲルを使って今度はなにをしようとしたんだ!」
「聞き捨てならないね。パイもミゲルも、自分から僕の元にやってきたんだ。何かを僕からしようとしたワケじゃない」
「信じられないね」
張り詰めた空気がその場に漂う。どちらかが一歩でも動けば何かが変わってしまいそうな雰囲気がそこには存在している。
その空気を先に切り裂いたのはキュービだった。
「ふふ。そんなに怒らないでよ。僕は世界の魔法を良くしたいだけだよ。ルビー、キミと違ってね」
「……なに?」
「彼女、レミィちゃんだっけ? キミの大切な贈り物は」
レミィの名前が出た瞬間、ルビーは勢いキュービとの間合いを詰めそのまま胸ぐらを掴み取った。ルビーの瞳が燃えるように紅く染まる。
「レミィに何かしてみろ。お前の喉を切り裂いてやる」
「ははっ、随分熱心なんだね。そんなに自分が特別じゃなくなるのが怖い?」
「……っ!」
「彼女は、闇の魔族の生き残りだ。ハトレア竜と封印された。それはルビーもわかっているんでしょう? 僕たちが戦った敵の根源は、彼女じゃないか」
「…………」
ルビーは答えない。答えられずにキュービの胸ぐらを掴んだまま。その手をふわっと払い除けて、キュービは続ける。
「キミがどうして彼女を託されたのか、僕にはわからない。わからないけれど、察しは付く。僕は光だからね。同族が同じ苦しみを抱いていたら、助ける方が自然だ」
「……うるさい」
「けどね、ルビー。ミゲルは知らないが、パイはそんな世界を苦しんでいたよ。闇も光もひとつにしたかったと。だから僕なんかにお願いしてきたんじゃあないのかな。ひとつになりたいって」
「黙れっ!」
ルビーの苦痛にまみれた叫びがその場を支配する。キュービはやれやれと言わんとばかりに肩をすくめてルビーを見やる。その眼差しはあまりにも優しい光に満ちていた。
「ふぅ……。せいぜい良い先生でいることだね。キミが、闇に呑み込まれないように」
キュービはそう言い残し、音も立てずにそこは暗闇と化した。まるで最初から誰もいなかったような静寂が訪れ、木々を揺れ動かす風だけがその廊下に音をもたらす。
どうにもならない気持ちの高ぶりを握りしめた拳に宿し、唇を固く紡ぐとルビーの口の中に嫌な鉄の味が巡った。




