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◆とある襲撃犯
俺は、ヘリから降りる部下たちを見ていた。
訓練によって統率された動きは、思わず誰かに自慢したくなるほどだった。
ここまでの組織に成長できたのは、全て代表者のお陰だ。
しかし、彼は捕まってしまった。
だが、我々には彼が必要だ。運命の導き手である彼の存在は不可欠。
何としても取り戻さなければならない。
そのために、この煌爛学園での籠城を決意した。
ここで生徒を人質に取り、代表者の解放を交渉する。
この学校には、政財界有力者の二世がいる。
奴らも自分の親族の命は惜しいだろう。
人質を何人か始末すれば、向こうも本気で交渉に応じてくるはず。
まずは、解放の決定を下せる権利を持つ人物との交渉パイプを繋ぐことからだ。
そんなことを考えながら、職員室に乗り込む。
今ごろ、仲間が全ての教室に乗り込んでいるはずだ。
計画は順調に進行している。この調子で、なるべく早い段階で交渉に移行したい。
そう考えていた時、外の守りを固める見張りのメンバーから連絡が来た。
なんでも、周囲が包囲されたという。
――いくらなんでも対応が早すぎる。
もう誰かが通報したのか。
いや……、さすが成金学校、警備体制は万全だったということなのだろう。
この際、包囲されたことは肯定的に捉えるべきだ。
我々は金が目的ではない。
籠城できればいいので、交渉相手との連絡が早くできるのはありがたい。
と思っていたら、包囲した部隊の一部が突入を開始したという知らせが入った。
なぜだ。人質の安全が優先じゃないのか。
こちらの思惑とは違う展開だ。
こっちはたっぷり時間を掛けて、事を進めていくつもりだったのに。
さすがに展開が早すぎる。
もしかして、現場の独断で動いているのか?
これだけの人数で占拠し、人質が多数いる時にやる行動じゃない。
一体どうなっている……。
――と、そこで通信が全て途絶えた。
誰とも連絡が取れなくなったのだ。無線機の故障なのか?
俺が焦っていると、窓ガラスが破られ、ドアが蹴り開けられ、大勢が突入してきた。
もう滅茶苦茶だ。
とてもじゃないが、公的な突入部隊のやることじゃない。
一体誰がこんな無謀なことを……。
そう思って、突入部隊を率いるリーダー探す。
すると、先頭に立って行動を指示している人影を発見する。
目を凝らして、顔を確認すれば知っている顔だった。
――あれは九白弓子だ。
まずい。想定していた中でも最悪の事態だ。
確かに、この学校には九白夫婦の娘がいた。
だから、最後まで手を出すかどうか迷っていた。
が、人質を取って防御を固めれば、対応できると判断し決行した。
それなのに、なんだその対応の速さは。
こちらが突入を開始して、一〇分も経過していないぞ。
どういうルートで情報を入手し、ここまでどんな手段でやって来たというのだ。
が、よく見ると九白弓子の部隊は全員武器を装備していなかった。
油断したのか?
しかし、これは好機。逃すわけにはいかない。
「撃て!」
俺の言葉に反応し、部下たちが発砲を開始。
侵入者たちに向けて、銃弾が容赦なく発射された。
数秒間銃弾の連射音が続いた後、ハンドサインで停止の指示を出す。
九白弓子の部隊に、これでもかというほど銃弾を浴びせてやった。
これで、終わりだ。
――と、思ったら全員無傷だった。
最新の防弾装備ということなのか? それにしても、軽傷すらないとは一体どういうことだ。
それなら、人質だ!
俺は教師を引き寄せ、こめかみに銃を当てた。
「動くな! 動くと撃つぞ!」
「た、助けて」
「いいぞ、撃ってみろ」
九白弓子は助けを求める教師の声を無視し、発砲を許可した。
「は、何を言っている。ただの脅しだと思っているのか?」
ハッタリと勘違いしているようだが、そんなつもりはない。
人質なら十分な数がいる。一人くらい殺しても問題はない。
そんなことは、彼女であれば気づくはず。
どういうつもりなんだ。
「いいから撃ってみろ。どうした、できないのか」
しかし、九白弓子は挑発を止めなかった。
「後悔するなよ」
俺は躊躇いなく引き金を引いた。
発砲音が鳴り響き、教師の頭部に銃弾が命中した。
「ひぃ」
すると、教師が小さな悲鳴を上げた。
「あ」
俺は思わず声を上げた。なんで悲鳴を上げるんだ。
頭に銃弾が命中したら、声なんて出す間もなく絶命する。
そう思って教師を見れば無傷だった。
「なんだ一発だけか。遠慮せず、もっと撃っていいぞ」
余裕の表情の九白弓子が、発砲を勧めてくる。
なんだ、この状況は。意味が分からない。
なぜ銃弾が命中して生きている。
俺が混乱して黙っていると、九白弓子が口を開いた。
「全員に防御術をかけた。銃は効かん。当然、刃物もな」
俺はその説明を聞いて、益々わけが分からなくなった。
そんな術があるわけない。あったとしても、高難易度の術のはずだ。
予備動作もなくホイホイかけられるものではない。
それ以前に、根本的に不可能な理由がある。
「お前たちは霊術師じゃない。もし、霊薬を飲んで霊術師になっていたとしても、運が良くて三属性。とてもじゃないが、そんな術を使えるはずがない!」
九白の関係者は全員霊術師ではない。
つまり、もし霊術が使えるのなら、霊薬を飲んだことになる。
その時点で、高難易度の術が使えないことが確定する。
だから、霊術ではない。何かトリックがあるはずだ。
「まあ、もういいか。拘束しろ」
まるで遊びに飽きたかのような口調で、九白弓子が指示を出す。
すると、奴の部下たちが動き出した。
こちらも発砲して応戦するが、全て無駄だった。
奴の言葉通り、銃弾が無効化されてしまう。
仲間たちが打撃を受け、次々と打ち倒されていく。
いくらなんでもおかしい。
我々は過酷な訓練を乗り越えて、強靭な肉体と強さを手に入れた。
こんな一方的な展開になるはずがないのだ。
「はあ、しかし誤算だったな。まさか生徒がいるクラスは自分の教え子が対応して、唯一誰も手を付けていなかったのが職員室だけなんて……。張り切って来たのに、不完全燃焼だ」
と、酷く残念そうな物言いで溜息をつく九白弓子。
その言葉を聞いた俺は、聞き返さずにはいられなかった。
「今の話はどういう意味だ? まさか、他の教室に行ったメンバー全員が捕まったのか」
「さあ、どうだろうな。しばらくすれば再会できるんだ、その時に聞いてみるといい」
九白弓子がそう言った瞬間、後頭部に強烈な衝撃を受ける。
そして、意識を失った。
――意識を回復した時には、拘束されて護送車の中に転がされていた。
周囲には、同じような状態の仲間がいた。
そこで説明を受けた。全員捕まったと。
学校への侵入は、すべて同時進行で行っていた。
つまり、俺が職員室に辿り着いた時には、他の仲間が全ての教室を襲撃していた。
大量の人質を取った状態が教室の数だけ存在していたはずなのだ。
綿密に計画を立て、充分な準備を行った成果として、学校全域の占拠を短時間で行えたのだ。
それなのに、あっという間に状況が反転。全員が拘束されてしまったと言う。
……全く意味が分からない。
だが、時間を掛けて立てた計画が、たった数分で破綻したということは分かった。
我々の計画は完璧に阻止され、何も得られないままに全てが終わってしまった。




