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すると、目の前になぜか九白さんがいた。
彼女は違うクラスだ。なのに、私の両肩を持って銃を撃った人との間に立っていた。
「え、なんで……」
私が声を上げた瞬間、パンパンと乾いた音が二度鳴る。
また、発砲したのだ。
九白さんが軽くのけぞる。弾が当たった証拠だ。
私は、恐怖で体が動かなくなっていた。
それでも、彼女の顔を見ていた。
この目には見覚えがあった。
こちらを気にして心配そうな雰囲気を漂わせる目。
以前も、こんなことがあった気がする。
……そうだ、あの時だ。
顔ははっきりと分からなかったが、目だけは見えていた。
とても印象に残っている目。
遭難時と火災時に助けてくれた人の目と、九白さんの目が重なる。
――間違いない。あれは九白さんだったのだ。
やっとだ……。やっと見つけた!
私がそのことに気づいて放心している間に、なぜか襲撃犯が全員拘束されていた。
それに加え、瀬荷城さんと四谷さん、因幡さんも拘束されていた。
見れば、雲上院さんと暮舞さんを筆頭とするクラス内の雲上院派の人たちがやってしまったようだ。
「マオちゃん、大丈夫ですか」
雲上院さんの声を聞き、ハッとなる
そうだ、九白さんが撃たれたんだ。早く手当てしないと。
と思ったら、無傷だった。
九白さん自身も、「うん、指でツンツンされた位の感覚しかなかったよ」、と言う始末。
え、銃弾だよね?
もしかしてエアガンだったの? と思ってしまう。
でも、無事なら良かった。
手当ての必要がないなら、九白さんに早く声を掛けないと。
私は慌てて話しかけた。
「九白さん、今まで助けてくれてありがとう」
「え」
私が、今までという言葉を使ったせいで、九白さんが戸惑ったような顔になる。
銃弾から庇ったことの話ではないと理解はしてくれたようだけど、何のことか分からないといった様子だ。
もう少し説明しないと。
「私がはっきり気づいたのは火災と遭難だけだけど。きっと他の事も全部だよね? 物が無くなった時とか、私物が傷つけられた時とか、そうだ、きっと男の人が声をかけて来た時も……、いつも助けてくれていたんだよね?」
「あ、え~っと……」
途端、気まずそうな顔になって頬を掻く九白さん。
「私が今日まで楽しく学校生活を送ってこられたのは、貴方のお陰。本当にありがとう」
そう言って私は深々と頭を下げた。
今までのことを思い出し、精一杯感謝の気持ちを込める。
すると、九白さんが飛び上がった。
そして――
「まことに申し訳ございませんでした!」
――そのまま土下座した。
えぇ~……、なんで?
◆昭原百合恵
学校が武装集団によって襲撃された。
洒落になってない。
だけど、うちのクラスはそのことにいち早く気づき、迅速な対応でどうにかなった。
バリケードを構築し、侵入を防いだのだ。
これで一安心。
他のクラスは大丈夫だろうか。
と思っていたら、とうとう襲撃者たちがやって来た。
バリケードに気づき開けろ、と騒いでいる。
だけど、開けろと言われて素直に開けるわけがない。
相手は武装しているのだから、こっちも必死だ。
こちらは籠城の構えで、相手の要求に応じない。
そうすると、向こうが開けなければ扉を爆破すると言い出した。
それに加えて、隣のクラスの生徒に危害を加えると脅してくる。
爆破の影響は、どの程度かわからない。けど、危ないのは確かだ。
それに隣のクラスへ襲撃者が行った場合、こちらは籠城しているため何も手が出せない。
クラスのリーダーを任された兎与田さんと鷹羽君が相談し、クラスの皆に襲撃者を入れてもいいか確認を取ってきた。
それを聞き、皆複雑な表情となる。
正直、自分たちのことだけを考えるなら、籠城が一番だ。
だけど、隣のクラスに被害が出たら、大変なことになってしまう。
皆迷っていたが、全員がクラスに襲撃者を入れることを決意する。
なんせ、このクラスには雲上院派の人が沢山いる。
その人たちが、周りを犠牲にして自分たちだけ生き残ろうとする選択を取るはずがないのだ。
そうなると、私たち雲上院派でない人に選択の余地はない。
なにより、雲上院派の人たちの言葉が心強かった。
絶対に貴方たちを傷つけさせないからと、言ってくれたのだ。
レイカ様に集う者として恥ずかしい真似は出来ない、と皆気合いを入れていた。
そして、兎与田さんと鷹羽君が襲撃者たちにバリケードを解除することを伝え、皆で撤去を行った。
全てが終わり、襲撃者たちがクラスへ入ってくる。
その時、全員が警戒のため、扉から離れ距離を保っていた。
それなのに、襲撃者全員が教室に入った瞬間、扉が勝手に閉まる。
よく見ると、黒い何かが張り付いていて、それが扉をロックしたようだった。
異変に気付いた襲撃者たちが扉を開けようとする。
その瞬間、雲上院派の人たちが襲撃者に飛びかかった。
そして、たった数秒で全員を拘束してしまう。見事な早業だった。
いや、ちょっと待って。
襲撃者を入れて、人質になるって話じゃなかったの?
なんで全員捕まえちゃったの。
これって、他の襲撃者にバレたら、まずいのではないだろうか。
と思ったら、雲上院派の一人である野茂さんが、音を出す霊術とモノマネを使って襲撃者の声を再現してみせた。
その技術で無線の返事を行うから、問題ないらしいとのこと。
そ……、そうですか。
彼女は、モノマネが得意だと言う。
中でも、猫と犬と小さな子供とお祖母さんのモノマネが十八番らしい。
……またその四つなの?
と、思っていたら、扉がノックされた。
え、まさか、襲撃者が無線を使わずに直接会いに来たの!?
私を含めた雲上院派以外の子たちの間に緊張が走る。
皆が見守る中、兎与田さんと鷹羽君が霊装で武装し、扉を開けて訪問者を確認した。
すると訪ねてきたのは、隣のクラスの雲上院派の子だった。
なんでも、雲上院さんに会って確認したいことがあると言う。
一体、何の確認だろう。
それ以前に、彼女のクラスは占拠されていないのだろうか。
そんな事を考えていると、今度は雲上院派の上級生が訪ねてきた。
同じく雲上院さんに確認したいことがあるとのこと。
その言葉を聞き、困惑する兎与田さんと鷹羽君。
しかし、その展開はそこで終わらなかった。
むしろ、継続することになる。
続々と雲上院派の子が雲上院さんを訪ねてくるのだ。
気が付くと、ちょっとした行列が形成されるほどになっていた。
しょうがないので全員をクラス内に招き入れ、用件を伺う運びとなった。
しかし、中には拘束された襲撃者がいる。
学校の教室としては異質な光景だったが、みんなお構いなしだ。
そして、兎与田さんと鷹羽君が、雲上院さんは現在所用で席を外して不在となっていることを伝え、代わりに要件を聞くと言った。
訪問した生徒の話を聞いた結果、皆の要件は同じ内容だった。
曰く、クラスに襲撃者が現れたので拘束したのだが、どうすべきか確認したくて来た、と言う。
なんでも、ある瞬間から全ての通信機器が不通になって、外部との連絡が取れなくなってしまったそうだ。
そう言われ、私は取り戻した携帯端末を確認した。
確かに通じなくなっている。何かの障害が発生したのだろうか。
このクラスを訪れた雲上院派の皆さんは、自分のクラスだけが襲撃を受けたわけではないと察し、全体としての決定を確認しようと雲上院さんの下に集ったそうだ。
しかし、ここまでの話を聞いて兎与田さんが、ぽつりと呟く。
ここに、全クラス分の生徒が集まっていないか、と。
そこで皆がハッとなり、すぐさま確認が取られた。
結果、一クラスを除いて全て揃っていることが分かった。
つまり、この時点で襲撃者たちの九割を拘束していたのだ。
どうやらこの場に来ていないのは、学年一位の成績である日高さんのクラスということが分かった。
それを聞いて、兎与田さんが納得顔となる。
そして、そこには雲上院さんと九白さんが向かったから、心配ないと説明した。
しばらくしたら雲上院さんが戻ってくるから、それから決めて問題ないと言う。
それを聞いた雲上院派の皆さんは、それなら大丈夫か、とリラックスした表情を見せる。
え、日高さんのクラス以外は襲撃者の拘束に成功しているのなら、彼女のクラスの援護に行った方がいいんじゃないの?
と、思ったら、今から行っても終わっているから無駄足になると言われた。
そ、そうなんですね……。
というわけで、全員で雲上院さんと九白さんの帰還を待つこととなった。




