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 ◆九白真緒



 というわけで、脱獄犯襲撃イベントは収束した。


 予想外の出来事が多々あったが、なんとか死傷者を出すことなく終わることが出来た。


 一番驚いたのは、雲上院派の皆だ。


 まさか独自に判断して、教室に入って来た襲撃者を各自で撃破してしまうとは……。


 お陰で、ほぼ襲撃と同時に大半のクラスが自由を取り戻すことができた。


 という連絡が、レイちゃんの端末にひっきりなしに来ている。


 例外だったのは、職員室と日高さんのクラスだけ。


 だけど、職員室は遅れてきた母たちが対応してくれた。


 日高さんのクラスは、私たちが向かったわけだけど、案の定、瀬荷城宝子の暴挙により、対応が難しくなっていた。


 日高さんのクラスにも雲上院派の子はいた。


 それも暮舞さんという、雲上院派強化計画の中心人物だ。


 彼女の実力は、他の雲上院派の子たちとは一段違う。


 母も一目置く腕前となっていた。


 だけど、襲撃者への対応が遅れた。それは、瀬荷城宝子の予測不可能な動きが原因だ。


 彼女の奔放さに翻弄され、行動を阻害されてしまったのだ。


 結果、相手の発砲を許す展開となってしまった。


 一応私が割って入ったが、暮舞さんたちだけでも対応はできただろう。


 その予想通り、その後の展開は秒で解決。襲撃者の拘束に成功した。


 しかし、暮舞さんは猛省。


 相手に発砲を許してしまったことに、大きなショックを受けていた。


 一緒に居た夜月さんに至っては、ドン引きするほど号泣していた。


 どうやら私が撃たれたことが余程ショックだったらしい。


 そこは、私とレイちゃんが対応した。


 レイちゃんは聖母のような慈愛をみせ、暮舞さんを包み込んで癒した。


 私も夜月さんに無傷なことをアピール。悔し泣きする夜月さんを抱擁し、丁寧に彼女の思いを受け止めた。


 というわけでメンタルケアもバッチリ。


 前言通り、実害をゼロで全てを終えることに成功した。


 そんな中、私は最大のピンチを迎えていた。


 とうとう日高さんに、今までの悪行がバレてしまったのだ。


 日高さんには、今まで助けてくれてありがとうとお礼を言われてしまったが、こちとら罪悪感が半端ない。


 なんせ、瀬荷城宝子を放し飼いにして、日高さんを見殺しにするような真似をしていたのは、何を隠そう私自身なのだから。


 目に涙をため感極まった顔で、心のこもったお礼など言われてしまえば、胃に激痛が走る。


 耐え切れなくなった私は、すぐさま土下座。平身低頭謝った。


 日高さんには、今一つ伝わっていないような気配もあったので、他のクラスメイトに聞かれないよう、二人きりの環境を作ってこれまでの経緯を話した。


 瀬荷城宝子の行いは把握していたが、積極的に阻止せず放置していたこと。


 場合によっては、酷い目に遭うことが分かっていたにも関わらず、そうなってから対応したこと。


 その結果、貴方に負担が掛かることを承知のうえで、そういう選択をした、と


 だけど、結局日高さんの反応はあまり変わらなかった。


 それでもありがとうと、改めてお礼を言われてしまった。


 それに加え、実は自分たちも途中から犯人が瀬荷城宝子たちだと分かっていたが、私を捜すために放置していた。だから、気にしないでくれとも言われてしまう。


 放置していた者同士だから、おあいこですね、などと笑顔で言われてしまう。


 そう言われてしまえば私も、それでもすみませんでしたと、謝罪をするしかなかった。


 日高さんは、私は何も思っていないから気にしないでと、何度も私に言ってくれた。


 うう……、本当に良い人である。


 私は、感謝したいのはこちらの方だと、日高さんに何度もお礼を言った。


 という感じで色々あったけど、これで一応は一段落。人心地着いた。


 そして数日の後に、瀬荷城宝子、四谷真理、因幡エリカの三人は転校した。


 理由は、クラスに居場所がなくなったから。


 襲撃者に襲われた際、彼女たちは自分たちだけ助かろうとした。


 そんな状態で学校に来れば、クラスは針のむしろと化していた。


 しかも、その噂が校内全域に拡大。


 瀬荷城宝子たちの行いは、クラス外にも浸透する結果となる。


 ここで、日ごろの行いが良ければ、気が動転して普段はやらないような暴挙に出てしまったのだろうという同情の声も聞こえたかもしれない。


 だが、瀬荷城宝子たちは真逆。


 いつかはそういう事をするだろうと思っていた、というような声しか出なかった。


 居心地が悪くなった三人は転校を余儀なくされたのだ。


 マンガでは悪役令嬢とその取り巻きは死亡という形で退場したが、この世界では転校という形での退場となったわけである。


 とにかく、これで全てが終わった。


 マンガでは、この後もしばらく物語が続く。


 そして、ヒロインとヒーローが結ばれる。


 だけど、その展開に置いて、命に関わる危険なイベントは発生しない。


 もはや私が関わる意味はなくなったといえる。


 後は、事の成り行きに任せて大丈夫だろう。


 だけど、一応見守りは続行する。


 私は、自分の都合で日高さんを利用した。


 それなのに、もしも日高さんと綾小路君が結ばれないような結末となれば、後味が悪い。


 そこだけは一応確認しておく。


 もし、お互いに思い合っているのに破局へ向かうようなことがあれば、手助けしたい。


 その位の恩は返しておきたい。


 そう思ったのだ。


 …………


 今日は、雲上院派のサロンの開催日だ。


 そして今回は特別な参加者であり、招待客がいる。


 日高さんと綾小路君だ。


 私たちは、会場の入り口で二人を出迎えた。


 すると、二人がこちらに気づいて挨拶してくれる。


「今まで本当にありがとうございました」


「俺からも礼を言わせてほしい。千夏の事、感謝する」


「う、できれば、これ以上のお礼は止めてほしいです……」


 ズキリと胃の痛みを覚え、勘弁してくれと謝る。


 こちらとしては申し訳ないことをしたという認識なのに、会うたびにお礼を言われては、精神に応える。そろそろお許し願えないだろうか。


 そんな私の反応を見たレイちゃんが、苦笑しながら二人に話しかける。


「マオちゃんもそう申しておりますし、その辺りでどうかご容赦を」


「えぇ、全然言い足りないんですけど」


 と日高さんが不満そうな顔をする。


「ほんと、許して……。それより、楽しんで行ってね」


 私は話題を転換。サロンの事を話す。


 すると、日高さんが不安そうな顔になる。


「私、この場に不釣り合いではないでしょうか」


 と、恐縮した雰囲気となる日高さん。


 そんな彼女を見て、レイちゃんが微笑を浮かべながら、首を振る。


「そんなことはありませんわ。まあ、資産家の方が多く参加されているのは事実なので、緊張してしまうのも分かります。ですが、参加者はそれだけではありませんのよ」


「そうなんですか」


 資産家の子だけが参加者ではないと聞き、素直に驚く日高さん。


「そうですね……。あちらをご覧いただければ、ご理解いただけるかと」


 レイちゃんが指し示した先では古畑雅孝君が、他のメンバーと歓談を楽しんでいる光景があった。


「あれ、古畑君?」


「本当だ、なんであいつがここに居るんだ」


 二人は、自分たちより先に古畑君がサロンに参加していたことにびっくりしているようだった。




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