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◆九白真緒
――なんとか工場爆破イベントを乗り切ることができた。
工場と矢間田さんは深刻なダメージを負ったけど、負傷者が出ることはなかった。
今は会話もままならないが、復旧工事が終われば矢間田さんのメンタルも元通りになるはず。
とにかく、けが人が出なかったのが一番。
終わりよければすべて良しである。
そして、とうとう私にとっての、Xデーである脱獄犯襲撃イベントが近づいてきた。
大きいイベントでいうと、次の次が脱獄犯襲撃イベントとなる。
だが、次に起こるイベントも、脱獄犯イベントも日付がはっきりしない。
二つのイベントは、行事がある日に起きたものではなく、平日に発生したためだ。
マンガ内では日数の経過が一日おきだったり、急に数か月吹っ飛ぶこともあった。
そのため、次の次ということは分かっても、それがいつ頃なのかまでは分からない。
そんな中、結界の状態も大分怪しくなってきた。
こうなってくると、イベント発生が結界の崩壊の前になるか、後になるか。難しいラインだ。
しかし今の所、大きな事件が起きたという情報はない。
全体の治安も良好。脱獄犯が大量に世に解き放たれるような前兆はない。
というわけで、ひとまずは次のイベントが発生するのを注視していく。
次のイベントは、ヒーローの女幼馴染みが海外からやってくるといったものだ。
概要はこうなる――。
突然、ヒーローの元に、海外から幼馴染みを名乗る女の子がやってくる。
しかし、ヒーローは何も覚えていない。そのことを告げるも、相手はお構いなし。
ガンガンくる。そしてヒーローの事を気に入る。
一方その頃ヒロインは、霊術師試験や修業で予定が埋まり、中々ヒーローと会えない。
ヒーローは幼馴染みの両親との関係もあり、訪問すれば無下に断ることも出来ず、ずるずると一緒にいる時間ができる。
ヒーローがいくら断っても、照れているという勘違いのもと、強引に迫られるという状態が続く。
そんな中、ヒロインが霊術師試験に合格。晴れて霊術師になる。
ヒロインは告白の返事をしようと、ヒーローの元へ向かう。
そこで、強引な幼馴染みに押し倒されたヒーローと合流。
そんな状態で、幼馴染みが自分はヒーローのことが好きだと語り、ヒロインはどうなのかと問うてくる。
そこで、ヒロインは自分も好きだと答える。
なら、ライバルね、と言う幼馴染み。
一歩も引かない幼馴染みと、ヒロインの間で衝突が始まる。
――という展開である。
このイベントに関しては、積極的に関わるつもりはない。
特に事故や事件に発展するものではないし、当該人物だけで解決できるものだからだ。
ただ、その次に起きるのが脱獄犯襲撃なので、イベントの発生だけは確認しておきたい。
そう考え、監視に努めていると、イベントの発生を確認した。
マンガで見た外見と全く同じ女の子がアキラ君に付きまとっているのを目撃したのだ。
今の所は、それだけで充分。
ナナちゃんとアキラ君なら、トラブルになることもないだろう。
そして、綾小路君の方はというと、こちらも地元から幼馴染みが押しかけていたようだ。
が、これも距離をおいて関わらない方向で行く。
命の危険も、いじめもないからだ。
もしかしたら、幼馴染みの性格が悪い可能性もあるが、その辺りは日高さんの力で乗り越えないと意味がないだろう。
というわけで全スルーだ。
ナナちゃんと日高さんの前に、それぞれ幼馴染みが現れたが、私は何もしない。
そう決めてから、数日後、双方で動きがあった。
様子を見る限り、二人とも無事に解決できたようだ。
そんなわけでイベントは終了。
残すは脱獄犯イベントのみとなった。
マンガのストーリーは、脱獄犯イベント後ももう少し続く。
が、私にとってのラストは次のイベントだ。
なんせ、マンガであれば、そこで雲上院礼香と取り巻きの二人は死亡する。
死んでしまうから、それ以降のストーリーに登場することはない。
私やレイちゃんにとってのラストシーンは、そこで間違いないのだ。
そして、ここ最近、結界の崩壊が進行し、妖王討伐の計画の決行が現実味を帯びてきた。
準備は最終段階に突入し、後は現地に移動するだけとなったみたいだ。
現段階では、脱獄犯襲撃も妖王討伐も、はっきりと日付が分からない。
どちらが先に来ても、おかしくない状態だ。
果たして、次に来るのはどちらになるのだろうか。
…………
――その結果は意外と早く判明した。
結界の定期調査の結果、とうとう崩壊が間近に迫ったという報告があったのだ。
とはいえ、この日のために各々が準備を整えていたため、混乱は少ない。
それは、これからの行動手順についてもそうだ。
妖王討伐には、十家を主軸とした高位霊術師が当たる。
私たち、雲上院グループ関係者は後方待機を命じられていた。
十家は北海道奪還に一切貢献できなかった。
そのため、荒れに荒れた。
結果、妖王だけは自分たちで倒そうと画策。
霊術師を統括する意思決定機関という立場を最大限利用し、自分たちが活躍できる状態に持って行ったのだ。
とはいえ、私たちはその決定に異存はない。
妖王なんて誰が倒してしまってもいいのだ。
ただ、ナナちゃんは慎重姿勢を崩さなかった。
できれば、十家が討伐作戦をする際に、私とレイちゃんに近くに居てほしいと、真剣な表情で頼み込んできたのだ。
そんな友人の頼みを無下に断る私たちではない。
そんなら行くか、ということで後方支援と後始末を申し出た。
要は、十家の皆さんには妖王討伐に専念しやすい環境を作りますよと言う謳い文句で、端っこでの参加許可を取り付けたのである。
しかし、そこでレイちゃんが無双。
四柱当主の龍宮清正と虎宮楓に直訴し、四柱当主が待機しているエリアまでの接近許可を得ることに成功したのだ。
十家の皆さんは渋ったが、龍宮清正と虎宮楓は大歓迎ムード。
側にいてくれるなんて、これほど心強いことはない、と非常に喜んでいた。
ただ、そうなると心配なこともある。
学校の方だ。
イベントの進行状態から予測すると、次に発生するのは脱獄犯襲撃イベント。
私たちが不在の時に、そのイベントが起きては困る。
色々手を打ってはいるが、心配なのだ。
というわけで、妖王討伐中に学校が占拠されないよう、母に学校の警備をお願いした。
が、断られた。どうやら、結界に行きたくて仕方がないみたいだ。
仕方ないので、レイちゃんにお願いする。
雲上院の部隊を割いて、学校警備に充ててもらった。
これで北海道へ行っている間に、脱獄犯が現れても対応できる。
性格が悪いとはいえ、同級生から死人が出るのは避けたいからね。
脱獄犯は校内に自然発生するわけではない。
必ず外から侵入してくる。
そこを雲上院の部隊で叩けば、絶対に被害をゼロに抑えられる。
そう自分を安心させた私は、レイちゃんとナナちゃんの三人で北海道へ向かった。
その後、何事もなく北海道到着し、結界があるエリアへ向かう。
この頃になると、結界までの道のりは街中を進むのと変わらなくなっていた。
建設ラッシュが進み、以前とは見違えた景色が広がっていた。
結界が近づいてくると、物々しい雰囲気となってくる。
交通規制が敷かれ、侵入に霊術師免許の提示が求められる。
そして、中心地に向かうにつれ、待機する霊術師の数が増えていった。
私たちは、結界への接近が許されていない。
そのため、四柱当主がいる待機エリアへ移動した。
降車した私とレイちゃんは、全身を霊装で包み、制服から戦闘服への早着替えを行った。
この早着替えは、自身の内部にある宇宙に資材を収納して置ける術を応用したものである。
どこでも動きやすい恰好になれるので、重宝している。
もしかすると、一番使用頻度が高い術かもしれない。
今回は、念のために戦闘服の上から全身に霊装を纏っておく。
これから戦うことになるかもしれない相手は妖王。
そのため、装備は最上の状態にしておいた。
私たちの準備が整った頃、龍宮清正と虎宮楓、それに加えてミカちゃんが出迎えてくれる。
いや、こういうのって私たちから挨拶に行くもんじゃないの?
「遠路ご苦労だった! 待ちかねたぞ」
「これで自陣の守りは完璧だな。十家は面子にこだわりすぎなのだ」
「みんな、いらっしゃいなのじゃ」
四柱当主の皆さんから歓迎される。
どうやら聖獣の皆さんはサイズの都合上、もう少し離れた場所で待機しているらしい。
ここには四柱当主しかいなかった。
「出迎え、ご苦労様です。状況はどうなっていますの?」
と、レイちゃんが平常運転で尋ねた。
まあ、レイちゃんは、そういう態度でいいのかも?
なんせ、雲上院グループが四柱の玄宮家を吸収しちゃったからね。
「結界に変化はない。事前に立てた作戦通りで問題なさそうだな」
「うむ。七海殿、よろしく頼む」
と、龍宮清正と虎宮楓が言う。
妖王討伐に当たって立てられた作戦はこうだ。
まず、迎え撃つ準備を完全に整える。
次に、ナナちゃんが崩壊寸前の結界に穴を開けて、壊れやすくする。
で、ナナちゃんが避難後、十家が主軸となって、結界から出てきた妖王を討つ。
という単純明快なもの。
万が一に備え、四柱当主たちは結界から少し離れたところで待機。
討伐に参加しない霊術師は、その更に後方で円状に防護を固めた状態で何層にも配置されている。
私たちは、四柱当主の側に居られたことで、意外に良いポジション取りとなった。
ここなら何かあった際に、素早い対応が可能だ。
「お、来たな。重役出勤じゃねえか」
と、そこにアキラ君が合流してくる。
「しょうがないでしょ。私たちって微妙な立場なんだから、あんまり早く来ると目を付けられちゃうじゃん」
そう反論しながら、ナナちゃんがアキラ君と拳を突き合わせた。
アキラ君は十家第一位の家なので、討伐に参加が決まっていた。
が、鷹羽雷蔵の計らいによって、こっちに配置換えされたのだ。
曰く、好きな子が危険地域におったら、気になって集中できんだろうという見解だ。
まあ、それはそうだろう、としか言いようがない。
アキラ君は当主ではない。
そのため、討伐作戦の範囲内で自由な行動が許された、というわけである。
「じいちゃんが、準備は整っているから、すぐに結界に穴を開けて欲しいってよ」
「うん、分かった」
ナナちゃんが、決心を固めた顔で強く頷く。
「頑張るのじゃぞ」
と、ミカちゃんがナナちゃんの手を握る。
「任せて。まあ、私が倒すわけじゃないから、気楽にいくよ」
そう言ったナナちゃんは、なぜか私とレイちゃんの方を見て笑う。
そして、迎えに来た高位霊術師と共に、結界へ向かった。
そして三〇分後、こちらへ戻ってくる。
「どう、うまくいった?」
と、私が尋ねると、サムズアップが返ってくる。
「穴を開けておいて、うまくいったという言葉でいいのか分かんないけどね。あと三〇分くらいで完全に壊れるようにしたつもり。後は中からの抵抗する力によるかな」
「そっか。とうとうなんだね」
私たちは、じっと結界がある洞窟を見守っていた。
もうすぐ、妖王が復活する。
――すると、突然それは起きた。
何の前触れもなく、眼前に男が現れたのだ。
まるで、今までもそこに居たかのように、立っている。
男は片腕を負傷しており、傷を押さえた状態で、こちらを睨んでいた。
その視線の先には私がいた。
憤怒の形相で、私を睨んでいる。
「……お前だ。全部、お前のせいだ」
「え、誰?」
私は、見覚えのない男に因縁を付けられて、困惑していた。




