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 ◆狐坂移蔵



 狐坂は予想外の展開に遭遇し、驚愕していた。


 まさか、護衛を配置していたとは……。


 なんと、二人の霊術師が工場の周囲で見回りを行っていたのだ。


 耐熱装備を纏ったそいつらが、途中で自爆妖怪に気づき、工場に入る前に一掃してしまった。


 奴らは探査能力にも優れ、温存していた配下も探し出して全て倒してしまった。


 お陰で被害拡大に失敗。工場を倒壊させて、生徒もろとも下敷きにする計画は破綻した。


 ――狐坂は迷った。


 配下の投入は途中で阻止された。


 しかし、工場で火災を引き起こすことには成功した。


 未だ、九白真緒は工場内。


 現状を維持していれば、いずれ倒せるかもしれない。


 ……どうする、このまま待機して見守るべきか。


 そして、決断する。


 諦めることを。


 事前に調査した結果、参加する生徒に五属性霊術師が二人いた。


 その二人が救助に加われば、対応はより迅速なものになる。


 精鋭軍を壊滅させた九白真緒に加えて、実力者が二人。


 それに工場を守る霊術師が二人。


 胃根の凶石を食らった今の自分であれば、九白真緒以外となら、いい勝負になるかもしれない。


 が、確実ではない。


 そもそも、配下をすべて失った今、これ以上被害を拡大することができない。


 それなら、自分がこの場に留まる意味もない。


 自分にとって大切なのは、王を迎えること。


 残念だが、撤退だ。


 そう決断した時、工場から飛び立ったヘリが、こちらへ近づいてくるのが見えた。


 ――ヘリの存在には気付いていた。


 工場火災から避難する重役が乗っているのだろうと思っていた。


 しかし、ヘリの軌道が変わる。


 なんと、こちらへ向けて急降下してきたのだ。


 墜落と言ってもおかしくない急角度で、狐坂がいる場所へ高速で迫る。


 操作不能に陥ったのか!?


 慌てた狐坂は、ダイブするようにして大きく身を投げ出した。 


 それと同時に、ヘリが狐坂の横を通り過ぎる。


 そして、一切勢いを殺さないまま地上に接触した。


 ヘリは大爆発を起こし、炎上。


 燃料に引火したのか、黒煙を上げて燃え盛っている。


 避難しようとしたが、動転して操縦に失敗したのだろうか。


 狐坂は激しく燃えるヘリを見ながら、ゆっくりと立ち上がった。


 その時――。


「ゆ、る、さ、ん、ぞ」


 燃え盛る炎の中から、妙にはっきりと女の声が聞こえた気がした。


 目を凝らすと人影が……。


 ――炎の中から女が出てくる


「お前か……」


「だ、誰だ」


 まるでこちらを知っているかのような口ぶりだった。


 女は狐坂の問いかけを無視し、手に持ったチェーンソーのスターターを引いて起動する。


 エンジンの駆動音と刃が回転する音が鳴る。


「私自身を破壊したのだから、お前自身を破壊して償ってもらう」


「な、なにを言っている?」


 意味が分からない言葉に、つい聞き返してしまう。


 ――が、女の返答は発砲だった。


 ベルトに刺したリボルバーを抜き、連続発砲しながら突進してくる。


 そして、チェーンソーを振りかぶった状態で接近。


 一切の躊躇なく、叩き落してきた。


「死を持って償え!」


 常軌を逸した言動に驚愕する。


 こちらが動揺していると、女がリボルバーを真上に投げた。


 そして一回転しながら腰に手を回し、何かを取り出す。


 ――手榴弾だった。


 翻ったコートの裏地にはホルダーが縫い付けてあり、手榴弾がビッシリと敷き詰めてあるのが見えた。


 女は手榴弾のピンを歯で抜き、こちらへ放り投げてきた。


 そして、ピンを吐き出すと同時に落下してきた銃をキャッチし、片手でリロードした。


 狐坂は、横へ飛んでかわす。数秒後、手榴弾が爆発。派手に灰煙を上げ、視界が濁る。


 そんな煙を突き破って、女がこちらに肉薄。


 チェーンソーを振り回してきた。


「な、なんなんだ、一体」


 狐坂は、突然の強襲に動揺しながらも、必死に攻撃をかわす。


 女はチェーンソーを操りながらも、リボルバーの引き金を引く。


 こちらの回避行動の延長線上を狙っての発砲だ。


 そして、自分の隙を埋めるために、手榴弾を放り投げてくる。


 や、やりづらい。攻撃範囲が広いのだ。近距離から中距離まで、抑えられている。


「キィイイイイエェエエエッ!」


 女の言語として成立していない奇声が木霊し、思考がさえぎられる。


 がむしゃらな攻撃と相まって、常人に見えない。まるでバーサーカーだ。


 しばらく、相対した結果、相手の攻撃に慣れてくる。


 女は、ほとんど霊術を使ってこなかった。


 つまり、致命打となる攻撃が少ない。


 奇抜な行動が目立つが、倒せる相手だ。


 低位や中位の妖怪であれば、苦戦するかもしれない。


 が、自分は王直属の部下。戦闘に特化していないとはいえ、それなりの力は有している。


 これなら、時間を掛ければ、勝利できるだろう。


 と、戦いの中で判断する。


 しかし、他に問題があった。


 音だ。


 ここで時間を掛ければかけるほど、工場内にいるあの女に気づかれる可能性が上がる。


 ヘリの爆発、発砲音、手榴弾、奇声。全て遠方まで届く。


 今は工場が混乱状態で察知されていないかもしれないが、いずれバレる。


 この場に長く留まるのは、得策ではない。


 いや、危険極まりない。


 こんなところで騒ぎが起きれば、雪山の狙撃に気づいたあの女が見逃すはずがないのだ。


 あの時の様に、気配を頼りに狙撃される恐れがある。


 死んでしまっては元も子もない。


 一刻も早く、撤退すべきだ。


 狐坂は慌てて逃げ出そうとする。


 が、チェーンソーの女が迫ってくるため、能力が使えない。


 凶石を食って力が増しても、能力を使う時に生じる隙は消すことができなかったためだ。


 まさか、こんなことで手こずるとは……。


 狐坂の心中を焦りの感情が支配していく。


 そんな時、工場でひと際大きな爆発が起きた。


 外観が大きく変形したのが、ここからでもハッキリと分かる。


 間違いなく、修復不可能なダメージを与えたようだ。


 その瞬間、眼前の女に異変が起きた。


 完全に動きが止まったのだ。


 狐坂のことを無視して背を向け、棒立ちで工場を凝視しはじめた。


「きゃぁああああああ!」


 ――そして悲鳴。


 チェーンソーと銃を取り落とし、その場にくずおれてしまった。


 一体どうなっている? 隙だらけだ。


 今なら、仕留められる。


(いや、待て。今までの奇行を鑑みれば、罠の可能性が高い)


 わざと隙を見せて攻撃させ、カウンターを狙うつもりなのだろう。


 ならば、手を出さなければいい。


 そもそも、自分は逃げ出そうとしていたのだ。


 狐坂は、すぐさま能力を使って逃走。


 追跡不可能な地点まで移動し、胸をなでおろす。


「失敗だ。顔も見られた……」


 工場襲撃の顛末は分からない。


 しかし、バーサーカー女が強襲してきたことを考えると、全員の避難に成功し、余裕があったと見るべきだろう。


 つまりは、失敗だ。


 それだけではない。今回は致命的なミスを犯した。


 自分の顔を見られてしまったのだ。


 しかも、ただ見られたわけではなく、工場襲撃の首謀者として認識されてしまった。


 あのチェーンソーの女が、どういった立ち位置の存在なのかは知らない。


 が、自分の外見が周知されてしまう可能性が出てしまった。


 工場に九白真緒がいる限り、目撃者である女を消すのも難しい。


 こうなってしまっては、何もできない。


 一人とはいえ、顔を見られてしまった。


 自分の事が周知されれば、警戒方法も変化する。


 今までの様に、遠方から様子を見れば安全という保障がなくなってしまうのだ。


「ここまでか……」


 残念だが、後は王の復活を待つしかない。


 元々これが最後の計画の予定だった。


 結果は、配下を全て失ったうえに成果なし。


 更には、顔まで見られるという結末になるとは思ってもみなかったが……。


 狐坂は、計画の失敗を受け入れ、残りの期間を潜伏してやり過ごすことを決定した。




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