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私は二人が無事なことに安堵する以前に、予想外の展開に突っ込んでいた。
そして、カッと兎与田さんの方を見る。
すると彼女は全てを諦めたかのような顔で、にっこり微笑んだ。
「霊術、身体強化」
投げやり!
面倒臭くなって最低限の言葉しか言わなくなってるし!
私は霊術について詳しくない。
それでも、テレビで見たことはある。
その時テレビで見た霊術師の能力は凄いものだった。
だけど、目の前の二人は、それをはるかに凌駕している。
私には、二人がテレビに出るような有名な霊術師を超える力を発揮できるとは思えなかった。
それは、近くで見ていた他の生徒も同じだった。
皆、リアクションに困っている……。
それでも兎与田さんは霊術で押し通すつもりみたいだけど……。
さすがにごり押しすぎない?
と、そんな時、新たな爆発が起きた。
それにより、前の集団が炎によって切り離されてしまう。
それを見た雲上院さんと九白さんが一切の躊躇なく、炎の中に飛び込んでいく。
そして、壁や天井の崩落から、生徒たちを助けていた。
た、頼もしいけど、動きが人外すぎる。
そう感じたのは助けられた生徒も同様のようで、何とも言えない表情をしていた。
「ふう、服が燃えるかと思ったよ」
「ですわね。さすが煌爛学園の制服。耐火性も優れていますね」
いや、燃えるから!
絶対、黒焦げになるから!
なんなら、髪の毛も全焼だから!
私の心の中のツッコミも、自然と強火になってしまう。
「多分、全身に水をかぶっていたんだよ」
などと、全く二人の方を見ないで解説する兎与田さんは、水の霊術で消火作業を行っていた。
そこに鷹羽君も合流。
二人で消火を進め、退路の確保に成功する。
そこで職員の方と先生が先頭に立ち、避難が始まった。
そうなると、雲上院さんと九白さんの頑強さについて話している場合ではない。
一刻も早く外に出ないと……。
私たちは、職員と教師の指示に従い、歩きはじめた。
こんな状況では、班行動など関係ない。
通路が所々破綻しているせいで、皆、密集状態となってしまう。
それでも、なんとか外に出ることが出来た。
そして、先生たちが全員の安否確認を行う。
結果、一部の生徒が居ないことが判明する。
きっと、まだ中に取り残されてしまっているのだろう。
大人たちが対応を協議していると、突然、綾小路君が工場へ向かって走り出した。
それに古畑君も続く。
しかし、そのことに気づいた先生たちが、羽交い絞めにして二人を止めた。
「まだ、あいつが、日高が中に居るんです!」
「行かせてください! 今なら通路が使えます!」
と、先生に抵抗し、訴えかける。
どうやら、日高さんがまだ中にいるみたいだ。
私は、あの二人と日高さんとはクラスが違う。
だけど、あの三人はテストの上位常連。
名前と顔だけはかろうじて知っていたため、誰なのか分かった。
しかし、あんな状態の工場に入ったら、助ける前に綾小路君たちが火災に巻き込まれるだけだろう。
綾小路君たちが暴れたせいで場が騒然とする中、さらに衝撃の展開があった。
なんと、逃げ遅れた生徒が助け出されたのだ。
耐熱服を着た二人組が、四人を担いだ状態で工場から出て来たのである。
きっと消防の人たちだ!
これで、全員が避難できたことになる。
私は、逃げ遅れた生徒が無事だったことに安堵した。
それは、綾小路君たちも同様だった。
救助された中に日高さんを見つけた綾小路君は、彼女の側へ駆けていった。
それに古畑君も続く。
二人は、日高さんの無事を喜びあっていた。
すると、後方から消防車と救急隊員の人が駆け付けた。
どうやら救助が到着したようだ。
早速消火作業が行われ、工場の火災が鎮静化していく。
これで、なんとかなりそうだ。
そう思ってほっとした瞬間、私はあることに気づいた。
今来たのが消防と救急隊なら、工場の中から現れた二人組は何だったのか。
あの時はまだ、消防も救急隊も到着していなかった。
よく考えれば、工場の中から消防の人が現れるはずがないのだ。
そう思って、件の二人を探すも見当たらない。どこにもいないのだ。
これは一体どういうことだろう?
◆日高千夏
ホームルーム中、社会見学で工場見学へ行くことが知らされた。
社会見学は校外の行事のため、班行動になる。
だけど、班決めは行われなかった。
担任の先生が、林間学校と同じ班で行くと決めてしまったためだ。
結果、私は瀬荷城さんたちと同じ班になった。
そして工場見学当日。
瀬荷城さんは、見学する工場が雲上院系列のものと知り、非常に不機嫌だった。
「なぜ、あの女の家の工場を見て回らないといけないの」と、口に出して不満を言う始末。
これには担任の先生も苦笑いをしていた。
だけど、苦笑で済まなかったのは、同じクラスの雲上院派の子たちだ。
あの人たちは、普段とても穏やかなのだけど、雲上院礼香さんのことになると、性格が変わる。
当然、瀬荷城さんの不満にも反応し、凄まじい圧をかけてきた。
最近、雲上院派の人たちは、以前にも増して圧というか気迫が凄い。
心なしか、体もムキムキになっている気がする。
そのせいもあって、雲上院派の人たちに囲まれた瀬荷城さんが小さく見えた。
彼女は反論もできずに、たじたじとなり逃げだしてしまう。
同じ班の私は、瀬荷城さんに加え、一緒に逃げた四谷さんと因幡さんを追いかけることとなってしまった。
雲上院派の人たちは、「あのような者たちに構っていないで、私たちとまわりましょう」と、誘ってくれたけど、そうもいかない。先生に見つかったら怒られちゃうよ。
瀬荷城さんたちは、職員が利用する休憩所にいた。
勝手に自販機を利用し、休憩エリアで寛いでいたのだ。
私が見学に戻ろうと言っても、「そんな価値はない」と言って、動こうとしない。
そんな時、地震が起きた。
だけど、最近は地震が頻発しているので、誰もパニックになることはなかった。
けど、その後に異変が起きた。
なんと、爆発が起きたのだ。爆発は一度ではなく、何度も起きた。
そのせいで、工場内はサイレンが鳴り響き、スプリンクラーが作動。
水を浴びた瀬荷城さんたちは、パニックになって駆け出してしまう。
地震ではなんともなかったのに、ちょっと濡れただけで大げさな反応だな、と思ってしまったけど、放っておくわけにもいかない。
私は、また瀬荷城さんたちを追いかけた。
しかし、これがまずかった。
先頭を走っていた瀬荷城さんは、本当に混乱していたようで、行き先を考えずに走っていたのだ。
結果、爆発がした方へ向かってしまう。
気が付いた時には、辺り一面火の海となっていた。
そして、目の前で隔壁が閉じた。次いで、消火用のガスが噴射される。
まずい! 消火用ということは、酸素が一時的に無くなるかもしれない。
私はとっさに息を止めようとした。
しかし、私の心配は杞憂に終わった。
地震の影響で隔壁が最後まで閉じていなかったのだ。
お陰でガスが充満する事はなかった。が、火も消えなかった。
結果、炎が勢いよく燃え広がり、その影響でスプリンクラーが停止。
周囲に煙が充満し始める。
本来、隔壁には人が通れる小さな扉がついている。
だが、隔壁が地震で歪んで閉じてしまったため、その扉も開閉不可能となっていた。
瀬荷城さんたちは隔壁が閉じ切っていない隙間から抜け出そうとしていたが狭すぎて通れない。
――完全に閉じ込められてしまった。
ただし、隙間があるので煙が充満するまで時間がかかるはず。
そう思っていたが、甘かった。
意識が朦朧とし始めたのだ。
目の前で激しく動いていた瀬荷城さんたちからバタバタと倒れ始める。
次は私か――。
壁に背を預け、座り込む。
周囲は炎に囲まれ、煙のせいで段々と意識が遠のいていく。
もう駄目だ、そう思った瞬間、隔壁に動きがあった。
ギギギと、軋むような音を立て、ジワジワと隔壁が開いていく。
明らかに、意図していない力が加えられ、強引に動かされている。
隙間が大きくなるにつれ、扉の向こうにいる人影がはっきりと見える様になる。
見えたのは、耐熱服を着た二人組だった。
その二人が隔壁を押し広げて、開放した。
助かった……。きっと消防が間に合ったんだ。
私は心の底から安堵した。
二人は薪を拾うような粗雑さで瀬荷城さんたちを拾って放り投げる。
そして、サンドイッチでも作るかのように、横になった体を重ねた。
何をするのかと思ったら、そのまま縛り上げてしまう。
――え、雑。
私は驚いた。消防の救助方法って、あんな感じなんだ。
初めて見たため、驚きを隠せない。
そして、一人が背負子に縛った三人を背負い、駆けていく。
薪を背負うような形で横になった三人を重ねたせいか、駆けていく途中で瀬荷城さんたちの頭が通路にコンコンと接触している。
……あんな雑でいいの?
と、衝撃を受けていると、残った一人が私の方に近づいてきた。
消防の人の耐熱装備は、炎の眩しさから目を守るためか、ゴーグル部分がサングラス状になっていた。
だけど、薄っすらと中の瞳が見える。
私を見つめる両目を見て、突然既視感を覚えた。
この目は、どこかで見たことがある。
そう感じたのだ。
その時も、今の様に意識が朦朧としていたような……。
私は、そこまで考えたところで気を失ってしまった。
次に目が覚めた時には、工場の外で横になっていた。
側には綾小路君と古畑君がおり、救急隊員の人が脈を測っていた。
どうやら私は助かったようだ。




