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 ◆昭原百合恵



 というわけで、今回も私が雲上院さんの班に入ることが決まった。


 私は昭原百合恵。雲上院派に属していない一般生徒だ。


 というわけで、ってどういうわけよって思うかもしれないけど、そうなった。


 本日、社会見学として工場を訪れるのだが、その時に班行動になる。


 班は四人一組。そして、雲上院さんたちは、三人組。


 雲上院派の人が一人加わることになると揉めるので、無関係な人が選ばれた。


 それが私である。


 前回はジャンケンで勝ち取ったポジションだったが、今回は雲上院さんサイドからの指名だった。


 その理由は、以前の林間学校で打ち解けたし、いいんじゃないか、というような話だったと思う。


 それに加え、これ以上目撃者を増やすのは得策ではないとも言われた。


 一体、何の目撃者だろう。


 よく分からないけど、雲上院さんたちと一緒に行動できるなら何でもいい。


 というわけで、バスで現地へ向かう。


 雲上院さんと九白さんは、急用があって現地で合流するらしい。


 そんなわけで、バス内は兎与田さんと二人きり。


 以前の私であれば、怖くて固まってしまう状況だっただろう。


 だが、林間学校での経験を経て、兎与田さんとは普通に会話できるようになっていた。


 初めこそ緊張したが、兎与田さんはどちらかというと私たち寄り。


 高貴な家柄ではない。そのせいもあって、普通に会話が成立した。


 後、鷹羽君のことを持ち出すと、途端に動揺するので御しやすい。


 幸せそうに照れる兎与田さんは眼福そのもの。


 お陰で、意外に楽しいバス移動となった。


 そして、現地到着。そこで雲上院さんと九白さんとも合流。


 工場見学へ向かうこととなった。


 なんでも、この工場は霊薬という物を作っているらしい。


 かなりお高い上に、用途が特殊なため、私には縁のないものだ。


 だけど、三人は霊術師。霊薬についても詳しかった。


 そんな三人の解説を聞きながら、制作工程を見学する。


 今回、私の隣はずっと兎与田さんだった。


 前回ご一緒させてもらった林間学校の際に、三人とは仲良くなれた。


 だから隣が誰であっても会話に困ることはない。


 兎与田さんと一緒に行動することに何の不満もないし、光栄ですらある。


 ただ、九白さんとあまり話せないのは少し寂しい。


 だけど、やっぱり彼女は雲上院さんの隣にいるべきだ。


 ――雲上院さんの隣は、九白さん。


 それは、クラス内どころか、雲上院さんを知る人たち全ての総意と言っても過言ではない。


 当然私も、その意見に賛成だ。


 二人が一緒にいる姿は、それが一番自然に思えるほどである。


 今の二人は、まるでダンスを踊っているかのように息ぴったり。


 一挙手一投足が、完全にシンクロしている。


 やっぱり相性抜群なんだな。と思っていたのだが、兎与田さんはそうは思わなかったようだ。


 行進のように動きを合わせて動く二人を見て、なぜか冷や汗を流している。


「どうかしたの?」と、尋ねてみたけど、「もう諦めたから、いいんだ」と言う。


 兎与田さんは遠くを見つめて、フフッと自嘲気味に笑っていた。


 そんな彼女を「よく分からないけど、元気出してね」と励ましつつ、工場を見て回る。


 内部は雲上院グループが監修した最新設備。


 作っているものに関してはよく分からないけど、効率化され一糸乱れぬ動きの作業風景は、一種の気持ち良さがある。


 そんなことを考えながら、様々な場所を見学して回っていた。


 と、その時、地震が起きた。


 だけど、私を含め、生徒に動揺はなかった。


 その理由は、最近の発生頻度が関係していた。


 実は今年に入ってから、全国的に地震が頻発していた。


 そのため、皆に驚きは少なく、対応も慣れたもの。


 今回の揺れは、いつもより大きくて少しびっくりしたけど、その程度の反応だ。


 だけど、地震のせいで設備が緊急停止してしまったみたい。


 職員の人があわただしく動き回っている。


 その風景を見た教師陣は、見学を続行するか関係者と話し合っていた。


 そんな時、大きな音と振動が起きた。


 だけど、余震だろうと思った私たちの反応は薄い。


 が、そこから大変な事態に発展してしまう。


 なんと、揺れと音が止むことが無くなり、連続で発生し続けたのだ。


 これには皆びっくり。教師陣も何事かと混乱していた。


 職員の人たちも事態を把握していないようで、走り回っている。


 その頃になって、その場に居た全員が音と揺れの原因が爆発だと気づき始める。


 なぜ分かったかというと、音と振動がだんだん近づいてきていたからだ。


 そして、それは起きた。


 なんと壁と天井が崩れて倒れてきたのだ。


「きゃぁあ!」


 突然の事に、私は身を固くして悲鳴を上げることしかできなかった。


 すると、雲上院さんと九白さんが私を突き飛ばした。


 身を挺して庇ってくれたのだ。


 私の代わりに、雲上院さんと九白さんの頭上に瓦礫が降り注ぐ。


 眼前が崩れた瓦礫で埋まり、壁となる。


 二人の姿が完全に見えなくなってしまった。


「ぁぁ……」


 倒れた状態から、のろのろと起き上がった私は絶望した。


 私を庇ったせいで、二人が大変なことに。


 ――ごめんなさい。


 呆然と立ち尽くした私は、心の中で二人に謝った。


 が、次の瞬間、のれんをくぐる様な軽い動作で、雲上院さんと九白さんが瓦礫の下から出てきた。


 しかも、傷一つない。


 表情も変化なし。真顔だ。


「ふ、二人とも大丈夫なの!?」


 私は二人が無事なことに喜び、自然と涙があふれていた。


 しかし、二人はキョトンとした顔のまま無反応だった。


 そんな二人に変わって、兎与田さんが慌てた様子で口を開く。


「あ、大丈夫大丈夫。二人は霊術師だから、身体強化でなんとかなるんだよ。実際、本物でも、あの程度なら無傷だしなぁ……」


 と、兎与田さんが言う。


 だけど、どこか目が泳いでいる。きっと彼女も突然の事に混乱したのだろう。


 あと、本物ってなんだろう。


「いやあ、びっくりしたね」


「そうですわね。こういう経験は久しぶりですわ」


 などと軽い調子で会話しながら、雲上院さんと九白さんがこちらへ合流しようとしてくる。


 しかしそこで、またもや大変な事が起きた。


 今度は天井の支柱部品が断裂して落ちてきたのだ。


 自動販売機ほどの大きさのコンクリ塊が二つ、雲上院さんと九白さんの頭上に迫る。


 あんなものが直撃したら、いくらなんでも死んでしまう。


「きゃぁああああ!」


 私は悲惨な末路を想像し、思わず悲鳴を上げた。


「おっと」


「大分傷んでいるようですね」


 しかし、二人は平常運転。


 九白さんは、コンクリ塊を額でトラップした後、左へ流すようにヘディング。


 雲上院さんは、コンクリ塊を胸でトラップした後、リフティングの要領で太ももを使って右に流す。


 といった感じに、降りかかった巨大なコンクリ塊を両手を使わずに端に寄せた。


「折れるから! 骨が!」


 ついに私は声に出して叫んでいた。


 大きさから逆算すると、あのサイズのコンクリ塊であれば、重さは約三トン。


 いや、断面から鉄筋がはみ出ていたし、もっと重いかもしれない。


 それをヘディングや胸トラップしようしたら、押しつぶされるて。


 どう考えてもおかしいって!


 私はそのことについて説明を求める意味で、兎与田の方に視線を送った。


「ん~、霊術霊術。霊気で障壁を張ったんだよ?」


 と、兎与田さんが棒読み気味に言う。


 なんか、もう説得するのを諦めたかのような態度だ。


 一体どうなっているの?


 と、私が疑問の渦に呑み込まれた時、今度は爆発が起きた。


 崩れた壁の間から、突然炎の塊が噴き出したのだ。


 竜の口から吐き出されたかのような勢いを有した火炎が、あっという間に九白さんと雲上院さんを包み込んだ。


 目の前が真っ赤に染まり、二人の姿が完全に見えなくなる。


「きゃぁあああ!」


 目の前で炎に包まれた二人を見て、私は絶叫した。


 数秒後、二人は路上のミスト冷房装置を浴びたかのようなリアクションで、炎の中から姿を現した。


 当然、無傷で真顔だった。


「いやあ、凄い炎だったね」


「ええ、出火原因は何でしょうか。消火器を探しておいた方が良いかもしれません」


 と、何事もなかったかのように平常運転。


 いや、おかしいて。


 普通なら、爆風にあおられて吹き飛ぶから!


 炎に巻き込まれたんだから、重傷を負うから!


「いくら何でもおかしいでしょ!」


 私は二人が無事なことに安堵する以前に、予想外の展開に突っ込んでいた。




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