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 ◆狐坂移蔵



 工場撤退後に、九白真緒の生存を確認した。


 全戦力を投入した工場襲撃は失敗に終わったということだ。


 残った配下は一体。別の任につかせていた個体だけ。


 戦闘能力は皆無で脆弱な個体だが、強力な潜伏能力と偵察能力に目覚めた一体だ。


 その配下を結界の監視につかせていた。


 工場に向かわせなかったから、生き残ったのだ。


 やることもなくなり、潜伏して王の復活を待つ日々。


 いや、最後まで何かしらあがくべきだったのかもしれない。


 だが、全ての計画を打ち破られた狐坂は、完全に意欲を失っていた。


 そして、とうとうその配下から連絡があった。


 結界の崩壊が進み、周囲の警戒が厳戒態勢へ移行した、と。


 王の復活が近いのだ。


 予想していたより、かなり早い。


 自身が準備していた時限式の門が開くのは、まだ先。


 できれば、復活時に大群を率いてお迎えしたかったが、そう上手くはいかなかった。


 しかし、喜ばしいことに変わりはない。


 高揚した狐坂は喜び勇んで、結界へ向かった。


 しかし、結界に近づくにつれ警備が厳重になっていく。


 やむなく、ギリギリまで近づいた地点で接近を断念。


 遠方から、王の復活を待つことにする。


 昂ぶる気持ちを抑え、ひたすら待つ。


 ただ待つだけではなく、配下の能力によって周囲の音声を拾っていた。


 すると、ひと際大きな地震が起きた。きっと復活の時がきたのだ。


 今までの地震も王の力の余波だったに違いない。


 強烈な揺れに、霊術師たちが動揺する。


 地震が収まった時、懐かしさを覚える雄々しき声が聞こえた。


 そして王が人の姿で洞窟から現れた。


 とうとうこの日が来た。


 狐坂は歓喜する。


「なぜ迎えが誰もいない」


 王が周囲を見渡して呟く。


 そんな王の姿を見て、待ち構えていた霊術師たちが口を開く。


「俺たちが見えないのか。大歓迎だろうが」


「貴様を迎撃する準備は万全。妖王、お前をここで討つ!」


「者ども、行くぞ!」


 霊術師たちが雄叫びを上げ、攻撃を開始した。


 しかし、王に動揺無し。平静かつ威厳のある振る舞いで霊術師たちを睥睨する。


「我が結界の中で何もしなかったと思うか。十全に蓄えた力、解き放ってくれよう」


 そう言った王が内に秘めた力を解き放ち、本来の姿へ戻っていく。


 その余りにも強大な御姿の前に、霊術師たちは完全に無力。


 ただただ、逃げ惑う。そこから一方的な蹂躙が始まった。


 戦闘は終始、王の優勢で進む。


 どうやら結界内で力を増したらしく、その場にいる霊術師たちでは歯が立たないようだった。


 これなら、すぐに決着がつくだろう。


 邪魔になると判断した狐坂は、戦いの行く末を見守った。


 そして、霊術師たちが全滅。全員行動不能に陥り、虫の息だ。


 王の完全勝利である。


 そのことを確認した狐坂は、合流しようと王の元へ向かった。


 今の王の御姿は、余りに巨大だ。


 そのため、接近しすぎると認識されない恐れがある。


 狐坂は、ある程度離れた位置に移動し、王に気づいてもらおうとした。


 しかし、次の瞬間、強烈な閃光が辺りを包んだ。


 余りの眩しさに、目元を手で覆う。


 まぶたの裏で、光が消失したことを感じ取り、恐る恐る目を開ける。


 すると、そこに王はいなかった。


 消えていたのだ。


 一体何が起きた。


 狐坂は現状の把握に努めようと、周囲を見渡す。


 そして理解する。王が死んだのだと。


 裏付ける証拠は、眼前の巨大な凶石。あの大きさは王のもので間違いない。


 どうしてこんなことに……。


 狐坂が呆然としていると、人影が見えた。


 現れたのは、あの女だった。


 ――九白真緒だ。


 狐坂は一瞬で理解した。


 奴が一撃で王を倒してしまったのだ、と。


 王は霊術師たちとの戦闘を終え、一瞬気が抜けていた。その隙を突かれた。


 あの女からすれば、単に攻撃を仕掛けただけだろうが、結果としてはそうなった。


 その場は落ち着きを取り戻し、生存者の救助作業が行われていた。


 完全に事後処理の状態だ。


 そこで、はっと我に返った狐坂は、王の凶石を回収して脱出。


 周りが王の討伐成功と救助に気を取られていたせいで、成功した行動だった。


 安全な場所まで移動するも、気持ちが安定しない。


 どうすればいいか分からないためだ。


 王の配下は、自分を除いた全てが死滅。


 北海道を占拠していた妖怪たちも、ほぼ全滅。


 頼みの綱であった王も倒されてしまった。


 何とかしたい。この状況を打破したい、という気持ちはあった。


 だが、王を倒した相手を自分が倒せるはずもない。


 完全な手詰まりだった。


 それに加え、咄嗟に取った行動のせいで、足がついてしまった。


 王の凶石だ。動転して回収してしまったが、その際に顔を見られた。


 工場の件を加えると、二度目の失態。


 このまま事態が落ち着けば、追手を差し向けられるだろう。


 解決策が思いつかなかった狐坂は、一旦胃根の隠し場所に身を隠した。


 凶石が収納されている場所は毒が撒かれているが、その手前なら問題ない。


 そこで王に献上する予定で半分残していた凶石の山に視線が行く。


 最早、これの使い道もなくなってしまった。


 ならば、自分で消費するか。自棄になりつつも、全ての凶石を食いつくした。


 自分の力は戦闘向きではない。だから、いくら力を増しても、大量の霊術師を相手どることなど不可能。


 ましてや、九白真緒を倒すことなど、夢のまた夢。


 意味のある行動とは思えなかったが、冷静さが欠片も残っていなかった。


 凶石を貪りつくすと、望外な力が体に漲っていることを自覚する。


 あと少し。あとほんの少し力が増せば、自身の能力をもっと強化できるという確信を得られたほどだ。


 ならばこれも、と王の凶石を食らった。


 すると、凄まじい力がその身に宿るのを感じる。


 予測していた遥か上をいく力が手に入ったのだ。


 結果、能力の拡張も想定外の領域に到達した。


 自分が有する空間移動能力の派生として、時間を移動できるようになったことを確信する。


 これならやれる。


 やりなおせる!


 狐坂に一筋の希望の光が灯る。


 ただし、時間の移動は本来の能力の使用方法とは異なる。


 増した力を使って、その現象を強引に引き起こすため、体への負荷が強烈なものとなる。


 具体的には、使用のたびに魂が削れ、回復しない。


 何度も使えば命を落とす。


 時間を移動している間も絶えず負荷が掛かり、魂が削れる。


 使い方を間違えれば、一瞬で絶命してしまう危険な力だった。


 しかし、現状を打開するためにはやるしかない。


 自分への被害を最小限に食い止めるなら、王が目覚める少し前に戻るのが妥当に思えた。


 意を決した狐坂は力を使い、過去へ向かった。


 気が付くと、隣に監視タイプの配下。


 どうやら、結界の様子を窺っていた時に戻って来られたようだ。


 己の能力であったが、本当に過去に戻れたことに驚く。


 それに加えてもう一つ驚くことがあった。


 力が減っていないのだ。


 今は王が死ぬ前。


 つまり、王の凶石も、王に献上予定だった凶石も残っている。


 自身が食らう前の過去に戻ったのだから当然だ。


 それなのに、狐坂の力は過去に戻る前と変わっていない。


 王に献上予定だった凶石と、王の凶石を食らった状態のままだったのだ。


 ――自分が現象の中心にいるからか……。


 時間移動によっておこる変化、その中心であり芯が自分自身。


 便宜上、過去に戻る、時間を移動するという言葉を使ってはいるが、実際には過去を作り変えたと表現した方が近いのかもしれない。


 厳密な時間移動とは、若干趣が異なる。


 莫大な力を使って時間に干渉し、望む形に変形させた。


 自分が引き起こした変遷においては、理の埒外へ出たも同義。


 凶石は取り込んで吸収し、自分の一部となった。


 だから、過去に移動しても影響を受けない。


 ただ単に戻ったのではなく、作り変えたのだから自分自身はそのまま。


 そういうことなのだろう。


 ……しかし、ここからどうするか。


 今のままでは九白真緒には勝てない。


 ならば、王を連れて一旦逃げる必要がある。


 放置しておくと、しばらくすれば王が目覚め、外に出た後に大規模戦闘に発展する。


 そうなると、九白真緒の接近を許すことになる。


 ――つまり、洞窟の中だ。


 内部で隠れて待ち、王と合流するしかない。


 力が増した今なら、それも叶う。


 狐坂は空間移動能力を使い、洞窟まで接近。


 更には内部への侵入を果たす。


 内部は以前訪れた時の面影がないほど様変わりしていた。


 堅牢に整備され、隠れるような場所がない。


 が、警備兵たちは結界に釘付けとなっており、狐坂に気づくことはなかった。


 結界のひび割れが拡大し、今にも壊れそうだったためだ。


 そして、結界が壊れる。


 そのことを外の本隊に知らせるため、警備兵が一斉に退避していく。


 結界が完全に消失し、黒煙の中から人の姿となった王が現れた。


 狐坂はすかさず接近。王に触れ、空間移動能力を使って、その場を脱出した。


「どういうつもりだ」


「無礼をお許しください。ですが、こちらをご覧ください」


 と、凶石の山を見せる。


 移動した先は、胃根の隠し場所だった。


 事情を説明せずに問答無用でやったことに叱責されるがかわす。


「おお、これは凄いな」


「どうぞ、お納めください」


「いいだろう」


 と、王が凶石の山に手をかざす。


 すると手のひらに口が現れる。


 その口が開くと、全ての凶石をあっという間に吸引してしまった。


 王は凶石を吸収し、ご機嫌となっていた。そこで解毒剤も飲ませる。


 これで勝てるはず。戦闘能力に特化した王を強化したのだ。


 今の王なら、きっとあの女を倒せる。


 狐坂は九白真緒の顔が映った画像を見せ、説明した。


「王よ、どうか、この者を倒してください。この女は、後方に配置されていますが、あの場に集まった中で指折りの実力者。因縁のある相手なのです」


「よかろう。石を献上した褒美として、お前の願い聞き届けてやる。まずはお前の憂いから晴らしてやろう」


「ありがたき幸せ」


「それで、他の者はどうした」


「……申し上げにくいのですが、全滅です。王への報告を任された私だけが生き残りました。そして、その仇が先ほどの女です」


「そういうことか。いいだろう。我をあの場に戻せ」


「御意」


 狐坂はうやうやしく頭を垂れた後、王に触れて移動する。


 移動した先は、洞窟の外だった。


 その場は、王が消えたことにより騒然となっていた。


 霊術師たちは、王の捜索のために散開。


 残された者は少数となっていた。


 そんなところへ突如、王が現れたため、霊術師たちは混乱していた。


「控えよ。王の御前だ」


 王が腕を振るう。


 すると、黒煙状の瘴気が発生。混乱する霊術師たちを次々と昏倒させた。


 そこに九白真緒が現れた。


 どうやら、消えた王の調査に協力していたようだった。


「あの女です。ご注意を」


「……子供ではないか。狐坂よ、我を愚弄するつもりか?」


 どうやら顔の画像だけを見せたことが誤解を生んだようだ。


 狐坂は慌てて口を開く。


「ッ……、決してそのようなことは……」


 王は、九白真緒の姿を見て侮った。


「我の力を、過小に評しているとしか思えん」


「し、しかし、あの女が精鋭軍を全滅させました」


「……いいだろう。そこで、しっかりと眼に焼き付けよ」


 そう言って王が前に出る。


「人の子よ。我が妖王だ。王に拝謁できることを光栄に思え」


 そしてあの女たちに名乗りを上げ、正体を知らせてしまう


 余裕をつらぬいた態度。


 その行動に、狐坂は不安を覚えた。相手の力を見誤っていないかと。




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