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「来たね……」
マンガのイベントでは、この地震が爆発事故に繋がる。
マンガのストーリー展開としては――。
地震がきっかけで爆発が発生。初期対応に失敗し、避難失敗。
消防に連絡するも、他の火災へ向かっていて対応が遅れると返答が来る。
地震の発生で同時多発的に火災が発生し、消防の対応限界を超えてしまったためだ。
そこで、霊術を使えるヒロインとヒーローが救助に向かう。
二人で協力し、事故に巻き込まれた人たちを助け出すという展開だ。
出火原因こそ、以前起きた倉庫の火災と同じだが、今回は地震の規模が違う。
そのため、ヒロインとヒーローが救助に向かわないと、対応できないという環境が構築されてしまうわけである。
「地震で異常が出てないか、見てまわろう」
「分かりましたわ」
私たちは早速工場へ入り、調査を開始する。
しかし、特に問題はなかった。
むしろ安全装置が起動し、事故を未然に防いでいた。
内部では、職員があわただしく動き回っている。
地震で機械が停止したためだ。
職員たちは、スムーズな段取りで安全確認を終え、順次再起動を行っていた。
そんな中を防火用のフル装備でウロウロしているせいで、注目を買ってしまう。
しかし、火災が発生していれば、私たちが即動ける状態なので、このまま押し通す。
そう考えて全体を見て回るも、ボヤすら発生していなかった。
危険対応もしっかりしていて、事故に発展する気配はなし。
どうやら爆発事故イベントは、見学場所が変わったために起きなかったようだ。
「どこにも異常はないみたいだね」
私が大丈夫と判定を下した瞬間、破裂するような大音響が轟く。
――爆発音だ。
顔を見合わせた私とレイちゃんは、音が聞こえた方へ向かった。
すると、自然と外へ向かうルートとなる。
どうやら爆発音は、外に近いところで鳴っている様子。
しかし、爆発を起こすような機材は別途の耐火処理が施された工場の中心に近いエリアに密集している。
なぜ外から音が?
疑問を覚え、音の原因が思いつかないまま走る。
その間も、断続的に爆発音が聞こえてくる。
どうやら、爆発は一回だけではなかったようだ。
しかも、音の鳴る方向が集中していない。絶妙に散っている。
これでは場所が特定できない。一体どうなっているんだろう。
迷ったが、初めに音が聞こえた方へ向かうことにする。
一番距離が近かったためだ。
工場の外に出て、視線を走らせる。
すると、敷地を囲う壁に穴が開いていることに気づく。
そこから大量の妖怪が流れ込んで来ていた。
それらの妖怪が体当たりをすると爆発。
工場の外壁を破壊し、内部へと侵入していく。
そして、次の個体が衝突し、爆発。
と、爆発が連鎖していく。
爆発の結果、至る所で炎が燃え広がり、スプリンクラーが作動する。
しかし、妖怪の数が多すぎた。
爆発と火が燃え移る勢いが、スプリンクラーでの消火を上回ったのだ。
中には隔壁で封鎖して、ガスでの消火も始まっている場所もあった。
が、隔壁閉鎖は人が通れなくなる。そのため、限られたエリアでしか作動していないようだ。
「なんでこんなことに……」
爆発原因が全く違う。
マンガでは工場内での事故が原因だったのに。
と、思考が現状と乖離し始めて、はっと我に返る。
今はそんな事より、被害を抑えないと。
私はすぐさま霊装を取りだし、突進する妖怪へ向けて霊気放出を行った。
妖怪は低位の弱い個体らしく、霊気が軽く触れただけで消しとんだ。
しかし、その後が問題だった。
なんと妖怪は倒されると爆発したのだ。
これでは迂闊に倒せない。
下手なところで倒せば、それが新たな出火原因となってしまう。
そのことに気づいたのは私だけでなく、レイちゃんも同様だった。
お互い、思い切った行動を取れず、固まってしまう。
その間も、妖怪たちはどんどん工場の中へと入り込んで行ってしまう。
……どうすれば。
◆狐坂移蔵
狐坂は、懊悩していた。
まさか全て失敗するとは……。
凶石を食わせ、暗殺に適した特殊能力に目覚めた妖怪は三体。
姿を消せる個体、人を操れる個体、遠距離攻撃が出来る個体。
どの特性も暗殺に特化し、申し分ない力を有していた。
しかし、そのどれもが、うまくいかなかった。
相手にかすり傷ひとつ負わせることもできず、全て処理されてしまったのだ。
残ったのは単に強化された低位個体のみ。
数だけは大量にいるが、迷宮に待機していた精鋭軍を一人で倒した相手には、何の意味もない。
しかし、今から新たな個体を作ることは難しかった。
複数の発電所を襲ったせいで、警備が強化されたのだ。
この頃には、今までの様に簡単に凶石を手に入れることが出来なくなってしまっていた。
それに加え、もう一つ理由がある。
それは王の目覚めの時が近づいているということだ。
実は、能力に目覚めた個体はもう一体存在する。
しかし、その能力は戦闘向きではなく、索敵に特化したものだった。
そのため、今まで結界の監視を行わせていた。
その妖怪からの報告で、結界を監視している霊術師たちに大きな動きがあったことが分かっている。
監視を行っている霊術師たちの間では、結界の崩壊が間近に迫っているという情報が出回っていたのだ。
つまり、今から戦力を立て直していたのでは、王の復活に間に合わない。
あれだけ時間と労力を掛けて、特殊能力に目覚めたのは、たった四体。
そのことを考えると、今からの戦力補充は現実的ではない。
当初の目的では、王の復活前に危険分子となりえる九白真緒を殺す計画だった。
計画通りに事を進めるのであれば、残された力で、あの女を処理しなくてはならない。
今の状態で、あの女を討てる方法はないかと、学園の行事予定を確認する。
そこで、近々工場見学があることを知る。
これは使えるかもしれない。
今までの失敗は、相手の能力の高さが原因だった。
ならば、相手の能力を下げるように工作すればいい。
つまり、足手まといを作ってしまえばいいのだ。
それには、この工場見学が最適。
場所は都心から離れているうえに、周囲に民家がない。
つまり、災害が起きた時に対応に時間がかかる。
あの女なら、率先して生徒の救助に参加するはず。
そこを狙う。爆発に巻き込み、施設もろとも下敷きにしてしまえばいいのだ。
奴がいくら強くても、身体構造は人間と同じのはず。
身動きが取れず、呼吸できない状況にすれば死ぬに違いない。
そう考えた狐坂は、残された全ての配下を自爆するように改造した。
現存する配下は、あの女に相対させても、一瞬で処理されてしまうような強さしか持っていない。
それならば自らの命を消費して、少しでも力の底上げを行うことが、最適な利用法だろう。
――そして準備を整え、当日を迎える。




