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32話.魔人

『クオレスが属性を偽っていた理由、ですか? いやー、すみません! あたし、クオレスルートの後半は結構読み飛ばしちゃったんですよねえ!』

「読み飛ばした……!? な、何やってるのよあなたは!!」

『しょ、しょうがないじゃないですかあ! クオレス攻略したのあとの方だったから結構飽きちゃってましたもん! この世界に転生するってわかってたら読み飛ばしてませんよ!』


 それを聞いて怒りや呆れを通り越して脱力する。


「ありえない……よりにもよってクオレスとの関わりが一番深いところを……私なら余さず全て見るのに……」

『あたしジュノさんと違ってクオレス推しじゃありませんし……。あ、でもユアナちゃんとのラブシーンはしっかり読みましたよ!』

「そこは読まなくていいのよ!」


 亡霊から聞けばわかると思っていたのに、肝心なところでダメなんだから……。

 クオレス本人に聞いたって私に教えてくれるわけ無いでしょうし。


『いやあ……でもこればかりはしょうがないですって。後半の展開、みんな魔人の手先だかに利用されて闇堕ちしてユアナちゃんに救われる展開ばっかりで似たり寄ったりでしたもん。そりゃ読み飛ばしますよ』

「や、やみおち? 魔人の手先……?」


 なんだか不穏に感じる単語の数々に反応してしまう。


『あー、別に闇属性ってわけじゃないみたいだから闇堕ちじゃなくて悪堕ちとか魔人堕ちって言った方がいいのかな? まあ心の闇がどうのとか言ってた気もしますし、闇堕ちでいっか!』

「名称なんてどうでもいいのだけど……とにかく、そのやみおちってなんなの?」

『んーと、悪い心に染められて別人化するって感じですかね。ビジュアルも変化するんですよ! レイファード様は銀髪赤眼のエルフ耳牙付き黒マントの吸血鬼スタイルになってほんっとかっこいいんです!』


 ようするに悪人化するってことよね? なんでそんなに嬉しそうに語るのよ……。


「クオレスもそんな変化をするの?」

『それがクオレスだけは闇堕ちしなかったんですよ! 黒いもやもやに包まれるシーンが出てきたから、また魔人の手先の仕業かーこれから闇堕ちするんだろうなーって思って、早くビジュアル変化が見たくてサクッと飛ばしたら、すんでのところで闇堕ちキャンセルしちゃったみたいでそのままシーンが終わっちゃったんです! そこが拍子抜けだったんですよねー』


 詳細はわからないけど、クオレスだけは悪い力に屈しなかったということ?

 流石クオレスね。他の男とは格が違うわ。


「魔人の手先、とかいうのがクオレス達を唆そうとしたのよね。そいつらってなんなの?」


 魔人を信仰するような危ない連中でもいるのかしら。


『魔人が昔作った存在で、魔物のすっごいバージョンみたいな感じですかね。手先は魔人の封印を解くために攻略対象達が抱える心の闇を利用しようとしてくるんです』

「ちょっと待って。魔人の封印……? 魔人ってこの国から消えたわけではないの!?」

『どこかにいるみたいなんですけど……登場はしてくれなかったんですよね。隠しキャラとして出てくるかなーと思ったんですけど、別に隠しルートなんて無かったみたいですし……』

「なに残念そうに言ってるのよ!? そんなものが出てきたら国家滅亡の危機よ!」


 軽いノリで話されてしまうから実感がわかないけど、もしかして私、今とんでもない国家機密を聞かされているんじゃ……?


 魔人は本当は討伐出来ずに、何処かに封印することにした……ということよね。

 討伐した……という事になっているのは数十年も前の話だから、封印はその時期にしたのでしょう。

 クオレスは関係無さそうね。


「こんな話……なんで今まで教えてくれなかったの? クオレスの属性のことも黙っていたし……」

『封印属性のことは、婚約者のジュノさんなら流石に知ってるだろうって最初は思ってたんですよ。でもほら、ジュノさんがクオレスにユアナちゃん宛ての手紙のことで責めた時、クオレスのこと剣属性って言ってたでしょ? その時に、あ、ジュノさんも知らないんだなーってわかったんですけど……あの時の不安定なジュノさんに言ったらクオレスへの不信感が跳ね上がるだけになりそうで、言っちゃまずいかなーってなってそのまま……』

「言う機会を逃していた……と言いたいのね」

『あと魔人関連の話はジュノさんが退場した後から本格的に出てくるんで、ジュノさんの破滅とは特に関係無いかなって』

「たしかに私とは関係無さそうだけど……。手先とやらがクオレスにまで手を出そうとするなら、警戒しないわけにはいかないでしょう。今回も同じように防げるとは限らないのだし」

『クオレスを魔人の手先から守るってことですか。いいですね、それ! 正義サイドっぽいじゃないですか!』


 とはいえ、私に守る力なんて無さそうだけど……。

 ……やっぱり略奪女じゃないと、だめなのかしら。




 翌日もロウエンが私のもとへやって来た。


「では今日こそ教えてもらおうか! ユアナに関する情報を!」


 その偉そうな催促に応じ、私は亡霊から聞いた情報を伝える。


「まず、そうね……。ユアナさんは動物が好きらしいわ」

「ほう。具体的には何の肉だ?」

「食用じゃないわよ。動物と戯れるのが好きっていう意味で……あ、でも肉串が好きとは言っていたわね」

『そういえばこの前そう言っていましたねえ』

「つまり戯れた獣を食うわけだな! ふっ……捕獲も解体も俺の得意分野だ。勝ったな!」

「繋げるんじゃない! 仲良くしていた動物を解体されて喜ぶ女が何処にいるっていうのよ!?」


 この男大丈夫?

 不安に思いつつも、気を取り直して他の情報も伝える。


「あとは……子供も好きだとか」

「つまり俺と子作りをしたいという事か……!? ふっ、気の早いヤツめっ」

「気が早いのはあなたよ!! 顔を赤らめながら言うんじゃない気持ち悪い!」


 ……本当にこれで上手くいくのかしら?

 もはや不安しか無いのだけど。


『ううーん。ユアナちゃんがロウエンを攻略する手順はわかっても、ロウエンがユアナちゃんを攻略する手順はさっぱりわかんないんだよなあ……』


 亡霊も私達の頭上で不安気な顔をしていた。


『ロウエンルートはとりあえずロウエンがいるところにばっかり行けば順調に進むんですけど、それってプレイヤーが……というかユアナちゃん自身がロウエンに興味持ってないと無理ですよね』


 だったらこの男の方から略奪女に近づいていけばいいんじゃない?

 ……それだと女を追いかけ回す危ない男になりかねないわね。

 あの略奪女ならそんな仕打ちを受けても嫌いになったりしないでしょうけど……隣にいる友人女が余計に警戒するんじゃないかしら。


 ……つまり友人女さえいなくなればいいわけね。


「わかったわ。まずはトワルテ様を排除しましょう」

『おい』

「確かにあの女は邪魔だな!」

『いやダメでしょ! ジュノさんのせいで物騒な流れになってるんですけど!?』

「なにも卑劣な手段を使うとは言っていないわ。トワルテ様を力でねじ伏せるなりして屈服させて、ユアナさんに近づくのを認めさせればいいのよ」


 誰の命も奪わない平和的解決方法! 我ながら素晴らしい策ね!


『あー、それならロウエンルートでも似たような展開があったからいいかもしれませんけど……』

「力で解決か……! ふっ、野蛮な気がしなくもないが悪くない考えだな! 格の違いというものを見せつけてやろう!」

『ああ、すっかり乗り気になっちゃったよ……。この二人、引き合わせちゃダメな組み合わせだったのかもしれない……』




 ロウエンがそう意気込んでから数日後、私とロウエンは訓練服に身を包んで修練場に立っていた。

 ……なんで私まで。


「あの爆速怪力女は強い!! 強すぎる! よって、非常に不本意ではあるが今の俺には特訓が必要なのだ!」


 この男はこの数日で既に何度もあの女の友人女――トワルテに挑み、全敗してしまっているらしい。


「私じゃトワルテ様の代わりなんて務まらないわよ」

「心配無用だ! この煙を吸えばいい」


 ロウエンは片手から煙の玉を作り出す。

 それを目にした私は、略奪女と共に賊達に捕らえられた時のことを思い出した。


「その煙……ユアナさんが吸わされて意識を失ったものじゃ?」

「あれとは違う効果の煙だ。この煙を吸い込むと、まさに砂煙を巻き上げる馬の如く疾走することが出来るようになるのだ。あの爆速女には及ばないが、自分より素早い者を相手取る練習にはなるだろう」

「それなら、まあ……いいかしら」


 私はロウエンに促されるままにその煙を吸い込む。

 うう……珍妙な草を燃やしたような変な匂い。


「では走ってみろ! まずこの修練場を一周だ!」

「わ、わかったわよ……」


 協力すると言った手前、仕方なく走り出す。


「……っきゃああっ!?」


 私の足は勝手に加速していき、自分でも制御出来ない程の速度になっていく。

 なにこれ、どうすればいいの!?

 そうこうしている内に壁が目の前に迫ってくる。曲がることも止まることも出来ない!


「ぶ、ぶつかるーーーっ!!」

「世話の焼けるヤツめ。【障壁煙】!」


 ロウエンの魔法によって壁の前にもこもことした煙が出現し、私の体を雲のように包み込んだ。


 あ、あぶなかった……。


「全く。慣れるまで時間がかかりそうだな、お前は」


 やれやれと呆れた様子で私を見るロウエン。

 世話が焼けるのはどっちよ。頼ってきているのはそっちのくせに……。

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