29話.彼の属性
『ジュノさんってばひどいですよ! クオレスから嫌われるためなら自分の身の破滅を招くようなことでもしようって考えてたでしょ!』
「ああもう、悪かったってば。あなたの存在を忘れていたわ」
クオレスとのやり取りがあった翌日、私は教室で亡霊から怒られていた。
『あたしのこともですけど、ジュノさんはもうちょっと自分自身が幸せになれる方向性で頑張ってくださいよ! クオレスから嫌われたってそんなの全然幸せじゃないでしょ!』
「私自身の幸せなんて、クオレスから愛してもらうことしか……」
『もっといっぱいあるでしょ! 美味しいもの食べたいとか、ファンタジー世界の名所巡りしてみたいとか、レイファード様のお姿をもっと拝みたいとか!』
「それってあなたの願望じゃない」
私は適当にあしらいながらも、亡霊の境遇に少し同情してしまっていた。
そっか。亡霊にもやりたいことがたくさんあるのね。
私から離れられないせいで、何一つ満足に出来ていないけど。
……もう少し、亡霊の望みを聞いてやったほうがいいかしら。
その時不意に、扉が乱暴に叩かれる音が鳴った。
『えっ!? この部屋に来客? 珍しいですね!』
「誰かしら……」
扉を開けてみると、そこには。
「ふっ! 俺が来てやったぞ!」
閉めた。
『ロウエンでしたね』
「何しに来たんだか……」
そのまま放置していると先ほど以上に激しい音が連続して鳴り響いた。
仕方なく再び扉を開ける。
「やめなさいよ! 壊れたらどうしてくれるの!?」
「俺をもてなさんお前が悪いのだ!!」
貴族顔負けの尊大な態度。
魔力持ちとして同じ平民から持て囃された結果がこれなのかしら……。
ロウエン。
私にとっては拉致監禁犯という最悪な印象しかない男。
「よくも私の前に顔を出せたわね。私にしたことを忘れたとは言わせないわよ」
「ふん! お互い様だろう。俺達が苦労して捕獲した魔物を勝手に連れ出しおって!」
「あんなもの捕獲するんじゃないわよ! 町にでも放つつもりだったの!?」
「そんなわけなかろう! あれは聖女の力量を測る為に用意したのだ。その目的は果たせなかったが……まあいいだろう」
魔物があの部屋に出てきた時、既に略奪女は疲れきっていたものね。
この男と戦闘でもしていたのかしら。
ロウエンは部屋にずかずかと入ってきては勢いよくソファに座り込んだ。
「ちょっと! なにくつろいでるのよ!?」
「用件がある!」
「聞くわけないでしょう! 帰って!」
『ジュノとロウエンの絡みって新鮮だなあ……』
能天気に見ているだけの亡霊が恨めしい。
「用件というのはだな、あの聖女……ユ、ユアナについてなのだが、お前……ユアナと親しいそうだな?」
「いえ全然全く親しくありませんけど」
「友人のお前であれば、ユアナの好きな物なども……知っているのではないか?」
先ほどまでのふてぶてしさは何処へやら、急に落ち着きの無い態度になるロウエン。
こいつ、もしかしてもう略奪女に惚れたの?
『ロウエンはどのルートでも絶対ユアナちゃんに惚れていますもんね。学園に入る決心した理由の一つがそれだったくらいですし』
何があったかのは知らないし興味も無いけど、そういう流れが既にあったのね。
「そういうことでしたらトワルテ様に相談してみては? 私よりずっとユアナさんと親しいですし、いろんなことをご存知かと思いますよ」
「あいつは駄目だ!! 俺をユアナに近づけさせもせん!」
『トワルテはロウエンのことだけは完全に警戒しちゃってますからねー』
そりゃまあ警戒するわよね。
『応援してあげたらどうですか? ユアナちゃんが他の誰かとくっつけばクオレスが取られる心配は無くなるわけですし』
たしかにあの二人が結ばれる可能性は消えるでしょうけど……。
どのみちクオレスの心は既にあの女のところにあるじゃない。
今更あがいてどうなるというの。
……だけど。
このまま取られてしまうのはやっぱり、嫌……。
それよりは略奪女が他の男と結ばれるように仕向けて、早々に諦めさせてしまいたい。
諦めたところでその気持ちが私に向くことは無いでしょうけど。
「……わかったわ。地に頭をつけてこれまでの非礼を詫びれば協力してあげなくもないわよ」
「何故俺がそのようなことをせねばいかんのだ!」
「しなさいよ!! 本来なら貴族令嬢を誘拐した時点で首をはねられていてもおかしくないのよ!?」
「ふん、仕方のない奴だな。では情報交換だ。こちらもお前にとって有益な情報をくれてやろう」
こいつ、謝る気が無さすぎる……。
「有益な情報って何よ」
「お前、あのクオレスとかいう男が好きなのだろう?」
「そうだけど……よくご存知ね」
「この前の試験とやらの模擬戦で食い入るように見ていたからな! 独り言までさえずりおって、よほどのめり込んでいたと見える!」
「なっ……見ていたの!?」
「ふはは! 俺は煙のように現れ煙のように去る男だからな!」
今さっき騒がしい登場をしたくせに何をほざいているんだか。
そもそも、あの時も学園内に侵入していたの? 衛兵どもは仕事出来ていないわね……。
「有益な情報というのはその男に関する情報だ! どうだ、聞きたかろう?」
「好きなことは間違いないのだけど……クオレス様は私の婚約者よ? つい最近会ったばかりのあなたが私より何を知っているというのかしら」
「なっ、なにい!? 婚約者だと!?」
そんなことも知らなかったくせに、情報交換って……。
「やっぱりこちらは何も得られなさそうね。どうぞお引き取り下さい」
『ええっ、それでいいんですかジュノさん!』
「ま、待て! 婚約者だからといって全てのことを知っているわけではなかろう! 俺は奴が周囲から隠している……いや、偽っている事を知っているぞ!」
クオレスが、偽っている事……?
『あっ、それって……』
亡霊も心当たりがあるの?
だとしたら、本当に……?
心臓が嫌に脈打つ。
彼はそのような事をしない真っ直ぐな人だと思っていたのに。
「あの男は、自分の属性を偽っている! 剣属性だというのは真っ赤な嘘だ!」
『ああーっ、言っちゃったよー! あたしから言おうとしてタイミング迷ってるとこだったのにー!』
「どうだ! なんの属性か知りたくなったろう?」
『こうなっちゃったらもう話すしかありませんね。……クオレスはね、封印属性なんですよ』
「封印属性……!?」
「なにい!? それも知っていたというのか!?」
理解が追い付かない。
封印属性って、貴族不適合者達の魔力を封じる時によく使われている属性よね?
何故その属性を隠す必要があるの?
私はクオレスが戦っていた時の光景を思い出す。
クオレスは大量の剣を召喚して戦っていた。
あれは、封印していた物質を取り出していただけということ?
もしかして無詠唱で魔法を使っていたのも、属性を隠す為?
剣属性も封印属性も希少属性のようだから、偽るのは難しいことでは無いのかもしれないけど、どうしてそんなことを……?
「あなたは何故そのことに気づいたの?」
「ふっ、これを見ろ!」
そう言ってロウエンは厚手の布に包まれた得物を取り出す。
布を開くと、そこには見覚えのある剣があった。
「まさかこれって、クオレスが出していた魔剣……?」
「いかにも。これはヤツらが俺達のアジトに侵入して来た時、ヤツが出したものを一本くすねてやったのだ!」
「なっ……! 返しなさいよ!」
なんて手癖の悪い男なの! クオレスの物を奪うだなんて!
しかし私の反応など意にも返さずロウエンは説明を続ける。
「この剣が己の魔力で作り出した魔剣ならすぐに消えるはずであろう? それなのにこれは俺の手元からいつまでたっても消えなかった。そこで鑑定士に識別してもらった結果、名のある職人が作った本物の魔剣だとわかったのだ。既製品を呼び出せる属性なんぞ他にそう無かろう」
『クオレスは本当は剣以外のものも出せるけど、あえて剣だけを出すことで剣属性としてふるまっているんですよね。あ、でもたまにこっそり爆弾とか出して戦っているみたいですよ』
本当に封印属性なのね……。
同時に二人から言われてしまっては、もう疑いようが無かった。
婚約者である私にも、ずっと偽っていただなんて。
……私、本当に彼から信頼も何もされていないのね。
「情報提供ありがとう。こちらもあなたに協力しましょう」
「む、良いのか? お前も知っていた情報しか出せていないと思うが」
「いいえ。有益な情報だったわ」
詳しいことは後で亡霊に聞くとしましょう。
私はロウエンの恋を応援してやることにした。




