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恋愛短編集  作者: 夢呂
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9/16

きっかけ

それはほんの一瞬、目についたんだ。


「そのアザ…どうしたの?」


ぼくのその言葉に、彼女は腕を後ろに隠した。そして、苦笑いを浮かべ「なんでもないの」とウソをついた。


ウソだって分かるよ、そんなの。

だって君と知り合ってもう一年だよ?


そう口にしようとして、やめた。

これ以上は踏み込んでこないでと、彼女の表情(かお)が言っていたから。



――――バイト先の居酒屋で知り合って、早一年。


だいたい同じシフトで、休憩時間も同じ。

ここでは誰よりも君と、同じ時間を過ごしてきた。


バイト仲間の中では一番親しいと思ってたんだ。


それなのにぼくは、君のことを――――なにも知らなかった。


知っていることといえば―――名前、逢坂しおり。

地元の短大に通う、二年生。


笑うと口元にえくぼができる。

いつも穏やかで、誰にでも優しい。

ぼくのつまらない話を、楽しそうに聞いてくれる。


・・・だけど、自分の話はしない。


(彼氏・・・いたのか?)

それも、DVの。

咄嗟にアザを隠した理由が、ぼくにはそれしか浮かばなかった。


そして――――そう考えたらショックだった。


それは、彼女がDVに傷付いているということにショックだったのか。それに今まで気づかなかった自分にショックだったのか。

それともー―――彼女に彼氏(オトコ)がいたということがショックだったのか。


自分のこの感情が、どれに引っ掛かっているのかまだ分からなかったけど、ショックなのは確かだった。



それが、――――君のことをもっと知りたいと思ったきっかけ。


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