イエロードッグ
「ほっとけよ!」
彼と初めて会った日を、覚えてる。
社会を恨んでた。この世の中を恨んでた。
周りは敵しかいない。
自分に、味方なんて一人も居ないんだと決めつけて。
近付くものには噛みついてかかる彼に、クラスのみんなはいつしか、触れないようになった。
「小雪」
「ん?」
「ありがとな、」
「え?どうしたの改まって、」
ふはっとつい、笑いがもれてしまった。
だってあの、一匹狼だった屋良くんがお礼なんか言うから。
「小雪がいてくれたから、俺…いまここにいる」
ねぇ、屋良くん。
それは、私も同じなんだよ。
貴方がそうやって、前を向いてくれたから。
私も今、ここにいられるんだよ。
ただ、……ひとつ。
ひとつだけ、ね。
想定外だったのは―――――。
私が君にー――担任教師以上の感情を抱いてしまったこと。
君は私の生徒で。
私は君の担任教師で。
それ以上でも、それ以下でもない……はずだったのに。
卒業式の後。
誰もいなくなった薄暗い教室。
君とここにいられる最後の時間。
絶対泣かないって決めてた。
泣いてしまったら、まるでお別れみたいだから。
泣かないって、決めてたの。
「小雪…、泣くなよ…」
私の頬に屋良くんが流れるように指を滑らせる。
「最後くらい、“先生”って…、つけなさいよ」
「やだ」
屋良くんは私を呼び捨てにしていた。
絶対“先生”って呼んでくれなかった。
「だって小雪は、“小雪”だから」
屋良くんの瞳が、私をとらえる。
「なぁ。もう“先生”じゃない“小雪”になれよ。」
「屋良く…んっ」
私たちの世界はこれから……――――。




