10/16
決別
やめないといけない。
そんなの分かってる。
頭では分かってるのに、顔を見たら…――――麻痺してしまうんだ。
小会議室。
昼休みの社内。
私は、呼び出して待っていた。
(今日こそ、言わないと…―――ー)
「お疲れ」
カチャリと扉が開き、人懐こい笑顔を見せる。
その笑顔に、きゅんとしてしまう。
「佐々木さん、いえ…ーーー部長」
声が、震えた。
「ん、どうした?」
ああ…――――その優しい声。
微笑むと下がる目尻。
こんな場面にまで、好きだなって思ってしまう自分が憎い。
「…別れたいです」
か細い私の声は、彼の耳に届いただろうか?
そう思ってうつ向いていた顔をそっと上げると、彼は少しだけ悲しそうな目をして言った。
「急に、どうした?」
急じゃない。
はじめからこの日が来るのは分かってた。
貴方とこの関係を始めてしまったあの日から。
別れたくない。
むしろ、奥さんと別れてくださいよ。
ねぇ、部長。
私だけの貴方でいて欲しかった。
誰よりも先に、私を選んで欲しかったのに。
出逢ったのが遅かったせいで。
私はあなたの一番にはなれない。
「美咲…」
名前を呼ばないで。
特別みたいに…呼ばないで。
涙を堪えて、私は笑う。
「私、もう不倫はやめときます。」
泣くな。笑え。
今だけ。
この時だけでいいから。




