ふいうち
「あの・・・?」
戸惑う瞳で、君が僕を見つめる。
いつも遠くから眺めているだけで。
それだけで幸せだった君が、今、目の前に。
どうしてこうなったのか…―――呼び止めた張本人である自分でも、正直よく分かっていない。
放課後。
帰りがけ。
渡り廊下に二人きり。
偶々が重なって、それを勝手に“運命だ”と錯覚したのかもしれない。
「何か用…かな?」
長く美しい黒髪が風に靡いて、そんな彼女に見惚れていた僕は再び現実に引き戻された。
「あぁ、すみません。急に呼び止めたりして」
同じ学年なのに、緊張し過ぎてつい敬語になってしまった。でも、この状況でまともに声が出たことについては、自分を褒めてやりたい。
彼女が、自分に相応しいかどうかなんて、分かってるつもりだった。
相手はこの学校一の美少女で。
しかも、絶対に彼氏は作らないと有名で。
サッカー部の三上先輩も、同じクラスの池田くんも―――所謂イケメンで、モテている男子たちが彼女にアタックしてことごとくフラれている。
そんな話を聞いていたから…―――だからこそ、言えたのかもしれない。
「君のことが好きです。」
クラスにいてもいなくても気付かれないような、冴えない僕が…君に好きになってもらえる確率はほとんどゼロに近い。いや、ゼロだろう。
(叶うなんて、思ってない。だから、)
だから…せめて吹っ切れるように。
記念に、この気持ちを伝えて、バッサリフラれよう。
彼女に、僕の告白は届いた。
その証拠に、彼女は表情を変えた。
(ああ、やっぱり…)
彼女のもの足りなそうな表情を見れば、皆まで言われなくとも分かる。
きっと、“こんなやつの告白なんて聞いてるだけ時間の無駄だ”とか、“こんなやつが、身の程知らずも甚だしい”とか、―――そう思っているんだ。
「で?」
彼女は形の良い耳に、長い髪をかけながら言った。
その一文字は、驚くほど威圧感のあるものだった。
「え?いや、だから…あの、」
まさかの疑問符に、僕はみっともないほど狼狽えていた。
何故なら、僕の気持ちに続きはない。
“君が好き”以上に伝えることは何もないのだ。
(なのにその続きを、告わせようとするなんて…)
どうせ断られるのに“付き合ってくれ”などと、言えるわけがない。
(だからむしろ、ここは君から…―――)
「フッてくれませんか?」
現実は実に残酷だと思いながら、僕は覚悟を決めてそう言った。
「ふ…っ」
思いがけないことに彼女が笑った。
まるで堪えられないと言ったように笑顔をこぼしたのだ。
それは普段見たことがないほど無邪気で、息をするのを忘れるほど可愛いかった。
こんな時でも見惚れている僕に、彼女は悪戯な笑みを浮かべて言った。
「・・・嫌です、って言ったら?」




