↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染ばかり優先する婚約者はいりません。私は辺境伯と静かに暮らします  作者: ローナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
43/50

二つの会場

披露宴は、教会に隣接する広場で、盛大に催された。長机には、村の料理人たちが腕によりをかけた、羊肉の串焼きや、蜂蜜の焼き菓子、季節の野菜を使った料理が、所狭しと並べられていた。


「乾杯の音頭を」


村長の呼びかけに、皆が杯を掲げた。


「本日は、ヴォルグレイブ卿とエレノア様の、輝かしい門出を祝う、めでたい日です。お二人の未来に、そして、この土地の末永い繁栄に、乾杯!」


「乾杯!」


会場中に、朗らかな声が響き渡った。


宴が始まると、村人たちは、次々と、二人のもとへ祝いの言葉をかけにやってきた。あの隣村の家畜小屋の一件で出会った村長も、遠方からわざわざ足を運んでくれていた。


「あのときの出会いが、まさか、こんな形で実を結ぶとは。エレノア様には、心から感謝しております」


「私も、あの日のことを、よく覚えています。皆さんとの出会いが、今の私を作ってくれました」


子どもたちは、花輪を作って、二人の首にかけてくれた。


「エレノア様、これ、僕たちが作ったんです」


「まあ、ありがとう。とても素敵だわ」


エレノアがそう答えると、子どもたちは、はにかみながらも、誇らしげな笑顔を見せた。


宴もたけなわになった頃、トビアスが、少し緊張した面持ちで、皆の前に進み出た。


「僭越ながら、一言、ご挨拶させていただきます」


会場が、静かになる。


「エレノアさんが、この屋敷に来てくださってから、僕の人生は、大きく変わりました。数字の読み方も、人との向き合い方も、すべて、エレノアさんに教わったことです。旦那様、エレノアさん、本当に、おめでとうございます」


その言葉に、エレノアは、静かに目を潤ませた。ガレスも、感慨深げに頷いている。


「トビアス、こちらこそ、ありがとう。あなたがいなければ、私一人では、この土地の仕事を、ここまで整えることはできませんでした」


エレノアの言葉に、トビアスは、涙を堪えながら、深々と頭を下げた。


続いて、レジーナも、杯を手に、静かに立ち上がった。


「ガレス。あなたの父君、母君が、今日という日を見られたなら、どれほど喜んだことでしょう。エレノアさん、この子を、これからもよろしくお願いします」


その言葉に、ガレスは、目頭を熱くしながら、深く頭を下げた。


「レジーナ、これまで、本当にありがとうございました。あなたがいなければ、私は、こうしてエレノアと出会うことも、幸せになる道を選ぶこともできなかったでしょう」


「大げさですよ。……でも、そう言ってもらえると、長年、この屋敷を守ってきた甲斐があるというものです」


レジーナは、そう言いながら、目元を拭った。その姿を見て、エレノアもガレスも、思わず笑みをこぼした。


宴が進むにつれ、王都からの参列者たちも、村の温かい雰囲気に、すっかり打ち解けていった。かつて、社交界で好奇の視線を向けてきた者たちも、今は、心からの祝福を口にしている。


セドリックが、少し照れくさそうに、二人のもとへやってきた。


「エレノア、ガレス卿。改めて、おめでとう。……正直、こんなに温かい結婚式は、王都では、なかなかお目にかかれない」


「セドリック様も、ぜひ、ゆっくり楽しんでいってください」


「ああ。……エレノアが、こうして心から笑っている姿を見られて、僕も、肩の荷が下りた気がする」


その言葉に、エレノアは、静かに頷いた。過去の因縁を、完全に手放した者同士の、穏やかな会話だった。


「こんなに温かい結婚式は、初めてです」


顔見知りの令嬢が、そう感嘆の声を漏らした。


「王都の格式ばった式とは、まるで違いますね。でも、これほど幸せそうな花嫁を見たのは、久しぶりです」


その言葉に、エレノアは、静かに微笑んだ。


日が傾き始めると、予定通り、宴の後半は、村人たちが準備してくれた納屋へと、場所を移した。灯された明かりの中、色とりどりの飾りが、幻想的な雰囲気を醸し出していた。天井から吊るされた子どもたちの紙細工の花が、灯火に照らされて、優しく揺れている。


「本当に、雨に備えて良かったですね」


トビアスが、誇らしげに、会場を見渡しながら言った。


「ええ。こうして、昼と夜、二つの美しい会場を、皆で作り上げられたことが、何よりの喜びです」


エレノアの言葉に、トビアスは、満足げに頷いた。


「見事な会場ですね」


王都から来た客人の一人が、感心したように言った。


「村の皆で、心を込めて作りました」


エレノアがそう答えると、客人は、深く頷いた。


「これほどの心遣いが、あなた方への祝福を、何よりも雄弁に物語っていますね」


夜が更けるにつれ、音楽が奏でられ、人々は、思い思いに踊りの輪に加わった。村の楽師たちが奏でる、素朴だが心温まる旋律が、納屋いっぱいに響き渡る。エレノアとガレスも、皆に見守られながら、最初の一曲を、静かに踊った。


「まるで、あの春祭りのようですね」


エレノアがそう囁くと、ガレスは、優しく笑った。


「あのときと同じ相手と、こうしてまた踊れることが、何よりの幸せです」


一曲が終わると、次々と、他の村人たちも踊りの輪に加わり、会場は、これまでにない賑わいを見せた。父も、村の女性に誘われ、慣れない手つきながらも、楽しそうに踊りに参加していた。その様子を見て、エレノアは、思わず笑いがこぼれた。


「お父様が、あんなに楽しそうにしているところ、初めて見ました」


「良い光景ですね。……こういう素朴な楽しみを、案外、皆が求めているのかもしれません」


ガレスの言葉に、エレノアも頷いた。王都の格式ばった社交とは違う、飾らない喜びが、会場いっぱいに満ちていた。


夜遅くまで続いた宴は、最後には、村人たちの温かい歌声で締めくくられた。古くから伝わる、収穫を祝う歌だという。素朴な旋律に、皆の声が重なり合い、会場全体が、一つの大きな家族のような、温かい一体感に包まれた。エレノアは、その歌声に包まれながら、これまでの長い道のりと、これから始まる新しい人生の両方を、静かに噛み締めていた。


すべての祝宴が終わり、二人きりになった夜、エレノアは、窓の外に広がる、満天の星空を見上げた。


昼間の喧騒が嘘のように、屋敷には、静かな夜が訪れていた。エレノアは、手にしていた花輪を、そっと窓辺に置いた。子どもたちが心を込めて作ってくれた花輪は、まだ、かすかに、野の花の香りを放っていた。


「今日は、本当に、色々な人の顔が見られました」


エレノアがそう言うと、ガレスは、優しく頷いた。


「あなたが、これまでこの土地で築いてきたものが、今日という日に、すべて形になって表れていました」


「あなたのおかげでもあります。あなたが、最初に私を、実務者として迎え入れてくださったから、今の私がいます」


その言葉に、ガレスは、静かに首を振った。


「あなたは、いつも、周りの誰かの功績だと言いますね。でも、今日この場に集まった人々の笑顔は、あなた自身が、一つ一つ、丁寧に築き上げてきたものです」


「今日という日を、一生忘れません」


「私もです。……これからも、共に、たくさんの日々を積み重ねていきましょう」


その言葉に、エレノアは、深く頷いた。長い我慢の日々を経て、ようやく辿り着いた、この上ない幸福の夜だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。