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第2話 外堀はもう、埋まっている

前書きって何書けば良いんだろう。とりあえず第2話スタート!!

翌朝。

「……拓海」

「ん?」

「今日、放課後空いてる?」

琴葉は、俺の隣を歩きながらそう尋ねてきた。

「いや、今日は佐藤と――」

「佐藤くん?」

琴葉がこちらを向く。

「うん。昨日、ゲームする約束してたんだよ」

「そっか」

琴葉は、少しだけ寂しそうな顔をした。

……その顔をされると、なんとなく罪悪感が湧いてくる。

「まあ、でも別に今日じゃなくてもいいけどな」

「本当?」

琴葉の表情が、一瞬で明るくなった。

「うん。佐藤には俺から――」

その時、俺のスマホが震えた。

佐藤からのメッセージだった。

『悪い、今日無理になった!』

『また今度な!』

『水城と仲良く帰れよ!』

「…………」

俺は、無言で画面を見つめた。

「どうしたの?」

琴葉が俺の顔を覗き込む。

「……佐藤が今日、無理になった」

「そっか」

琴葉は、にっこりと笑った。

「じゃあ、今日は私と一緒に帰れるね」

「……そうだな」

「やったぁ」

琴葉は、嬉しそうに笑った。

その笑顔を見て、俺は小さくため息をつく。

まあ、いいか。

そう思った。

佐藤との約束はなくなった。

琴葉と帰るくらいなら、別に問題はない。

……昨日までも、ずっとそうしてきたんだから。

ただ。

この時の俺は、まだ知らなかった。

佐藤がゲームを断った理由を。


教室に着くと、佐藤はいつも通り自分の席に座っていた。

「お前、今日無理ってどういうことだよ」

俺が近づくなり、そう問い詰めると。

「ん? ああ、今日のこと?」

佐藤は、何でもないように笑った。

「水城に頼まれたんだよ」

「……は?」

「『今日は拓海と二人きりで帰りたいから、協力してくれる?』って」

「お前、それで断ったのか?」

「いや?」

佐藤は当然のように答えた。

「普通に協力するだろ」

「なんでだよ!?」

「だってお前、水城のこと好きなんだろ?」

「好きじゃねえよ!」

俺が叫ぶと、佐藤は不思議そうな顔をした。

「え?」

「だから、好きじゃないって」

「いやいやいや」

佐藤は、俺の肩を叩いた。

「お前、水城に告白されたんだろ?」

「そうだよ」

「それで?」

「断った」

「……」

佐藤はしばらく黙り込んだ。

「お前、正気?」

「なんでみんな同じこと言うんだよ!?」

「いや、だって水城だぞ?」

「それがなんだよ!」

「学年トップクラスの美人で、成績優秀、運動神経抜群、料理もできて、お前のことが好きなんだろ?」

「……」

「なんで断るんだよ!?」

「俺が聞きたい!」

俺がそう叫ぶと、佐藤は深くため息をついた。

「拓海」

「なんだよ」

「お前さ」

佐藤は、少し真剣な顔になった。

「もしかして、自分がモテてるって自覚ない?」

「は?」

「水城が、お前以外の男にあんな距離感で接してると思うか?」

「……」

思わない。

琴葉は誰にでも優しい。

だが、俺に対しては明らかに距離が近い。

毎朝家まで迎えに来る。

俺の弁当を作る。

俺が女子と話していると、いつの間にか隣にいる。

それを、俺はずっと

幼馴染だからだと思っていた。

「つまりだな」

佐藤が俺の肩に手を置く。

「お前らはもう、周りから見たらカップルなんだよ」

「違う!」

「でも、水城はお前のことが好き」

「それは……」

「お前も水城のことを大切にしてる」

「幼馴染だからな」

「毎日一緒に登校してる」

「幼馴染だから!」

「弁当も作ってもらってる」

「それは……」

「家にも来てもらってる」

「昨日からだ!」

「放課後も一緒に帰る」

「今日からだ!」

佐藤は、満足そうに頷いた。

「はい、カップル」

「どこが!?」

その時。

「拓海くん」

背後から声がした。

振り返ると、琴葉の友達である山本さんが立っていた。

「ちょっといい?」

「何?」

「琴葉から伝言」

「伝言?」

「今日、放課後に駅前のカフェに行くからって」

「……は?」

「二人分、予約してあるみたい」

「予約!?」

「うん」

「俺、聞いてないんだけど!?」

山本さんは、きょとんとした顔をした。

「でも、もう予約してあるみたいだよ?」

「だから、そういう問題じゃなくて!」

「拓海くん」

「何?」

「琴葉、すごく楽しみにしてたから」

「……」

「断らないであげてね?」

「いや、でも……」

「お願い」

山本さんは、申し訳なさそうに手を合わせた。

「琴葉、昨日の告白のあとも、全然落ち込んでなかったけど」

「……」

「ずっと拓海くんの話をしてたから」

「何を?」

「『どうしたら拓海に好きになってもらえるかな』って」

俺は頭を抱えた。

「……分かったよ」

「本当?」

「行くよ」

「ありがとう!」

山本さんは嬉しそうに笑った。

そして、俺に背を向ける。

「琴葉に報告してくるね」

「何を!?」

「拓海くんが喜んでたって」

「喜んでねえよ!?」

俺の叫びは、誰にも届かなかった。


放課後。

俺は琴葉と駅前のカフェに来ていた。

「ねえ、拓海」

「なんだよ」

「今日、楽しい?」

「まあな」

「本当?」

「嘘ついてどうするんだよ」

俺がそう答えると、琴葉は嬉しそうに笑った。

「よかった」

「なあ、琴葉」

「なに?」

「お前、昨日から何をしてるんだ?」

「何って?」

「俺の周りのやつらに、俺たちが付き合ってるみたいに思わせたり」

「うん」

「俺の予定を勝手に決めたり」

「うん」

「俺の友達に頼んで、俺との約束をキャンセルさせたり」

「うん」

「認めるのかよ!?」

琴葉は、少しも悪びれた様子がなかった。

「だって、拓海が私を好きになってくれるためには、環境から変える必要があるでしょ?」

「環境?」

「うん」

琴葉は、テーブルの上に指を置いた。

「まず、拓海の周りにいる人たちに、私が拓海の隣にいるのが当たり前だと思ってもらうの」

「それが外堀を埋めるってことか?」

「そう」

「でも、そんなことしても俺の気持ちは変わらないぞ」

「うん」

琴葉は、笑った。

「今はね」

「……」

「でも、毎日私と一緒にいて」

「……」

「毎日私のことを考えて」

「……」

「毎日私が隣にいることが当たり前になったら?」

琴葉は、俺の目をまっすぐ見つめた。

「いつか、拓海の方から私を求めてくれるかもしれないでしょ?」

「……」

「だから、気長に待つの」

琴葉は、優しく笑った。

その笑顔は、いつもの琴葉と変わらなかった。

だが、

「でも、まだ始まったばかりだよ?」

「……まだ?」

「うん」

琴葉は、楽しそうに指を折った。

「まずは家族」

「母さんはもうお前の味方だな」

「うん」

「次に友達」

「佐藤くんも、山本さんも協力してくれるよ」

「……」

「それから、学校」

「学校?」

琴葉は、意味ありげに笑った。

「明日、楽しみにしててね」

「何をするつもりだ?」

「秘密♡」

その笑顔を見て、俺は確信した。

嫌な予感しかしない。


翌日。

一時間目の授業が終わった直後だった。

「柊」

担任の先生に呼ばれた。

「はい?」

「少し話がある」

「俺、何かしました?」

「いや、そういうわけではない」

先生は、なぜか真剣な顔をしていた。

「実はな」

「はい」

「水城から相談を受けた」

俺は固まった。

「……何を?」

「お前が、あまりにも鈍感だと」

「先生?」

「私も最初はどうかと思ったんだが」

先生は腕を組んだ。

「水城は、本当にお前のことが好きなんだろう?」

「……まあ」

「なら、もう少し考えてやってもいいんじゃないか?」

「何をですか?」

「交際を」

「先生!?」

思わず立ち上がった。

「いや、待ってください! なんで先生が俺に交際を勧めるんですか!?」

「水城がな」

「琴葉が?」

「『拓海くんに、もう少し私の気持ちを分かってもらいたいんです』と」

「……」

「それで、私からも少し話してほしいと」

「先生」

「なんだ?」

「琴葉に頼まれたんですか?」

先生は黙り込んだ。

「……」

「先生?」

「……まあ、少し」

「少しじゃないですよ!?」

「まあまあ」

先生は、なぜか優しい笑顔を浮かべた。

「水城はいい子だぞ」

「それは知ってます!」

「成績もいい」

「知ってます!」

「料理もできる」

「知ってます!」

「お前のことが好きだ」

「それも知ってます!」

「なら――」

「でも付き合うとは言ってません!」

教室中に、俺の声が響いた。

その瞬間。

「拓海〜?」

教室の入り口から声がした。

琴葉だった。

「……お前」

「先生とのお話、終わった?」

「お前が先生に何を言った!?」

「別に?」

琴葉は、いつもの笑顔で答えた。

「拓海のことを相談しただけだよ」

「何を相談したんだよ!」

「『どうしたら拓海が私を好きになってくれるでしょうか』って」

「それでなんで先生が俺に交際を勧めるんだよ!?」

琴葉は首を傾げた。

「先生も、私たちを応援してくれてるんじゃない?」

俺は先生を見る。

先生は、黙って親指を立てた。

「先生まで!?」

琴葉は俺の腕に自分の腕を絡めた。

「帰ろ?」

「離れろ」

「嫌」

「即答するな」

「だって、今日は一緒に帰るって約束したでしょ?」

「してない」

「でも、先生も言ってたよ?」

「先生は関係ない!」

「でも、もうみんな知ってるよ」

「何を?」

琴葉は、俺の耳元に顔を近づけた。

「私たちが、付き合う予定だって」

「……は?」

俺は、ゆっくりと教室を見回した。

クラスメイトたちは、誰も驚いていない。

むしろ、

「おー、今日も仲いいな」

「もう早く付き合えよ」

「水城さん頑張って!」

「拓海、諦めろ!」

「何を!?」

俺は叫んだ。

「俺は何も諦めてない!」

しかし、

琴葉だけは、そんな俺を見て微笑んでいた。

「うん」

「……何だよ」

「まだ、諦めなくていいよ」

琴葉は俺の腕を抱きしめたまま、優しく言った。

「拓海が私を好きになるまで、私は絶対に諦めないから」

その言葉だけなら。

ただの一途な告白だった。

俺は、そう思っていた。

だから、気づかなかった。

琴葉が、俺のスマホ画面を見ていることに。


その日の放課後。

「……あれ?」

俺は自分のポケットを探っていた。

「どうしたの?」

琴葉が隣から聞いてくる。

「スマホがない」

「え?」

「さっきまで持ってたんだけど」

鞄の中を探す。

…ない。

机の中も探す。

ない。

「どこに置いたんだ……」

俺が教室を見回していると。

「……あ」

琴葉が小さく声を漏らした。

「どうした?」

「ううん。何でもないよ?」

その時。

琴葉の鞄の中から、聞き慣れた通知音が鳴った。

「……」

「……」

俺と琴葉は、同時に鞄を見た。

「琴葉」

「なに?」

「それ、俺のスマホじゃないか?」

「……」

琴葉は、ゆっくりと鞄を開けた。

中から、俺のスマホを取り出す。

「……あ」

「なんでお前の鞄に入ってるんだよ!?」

「間違えて入れちゃった」

「どうやったら間違えるんだよ!?」

「ごめんね?」

琴葉は、俺にスマホを差し出した。

俺はそれを受け取る。

画面を見ると、通知が大量に届いていた。

メッセージアプリ。

SNS。

メール。

「……なんだこれ」

俺は通知を開いた。

『佐藤:明日の放課後も水城と一緒にいろよ!』

『母さん:琴葉ちゃんと晩ご飯食べて帰ってきなさい』

『山本:琴葉を泣かせたら許さないからね』

『担任:水城の気持ちを大切にするように』

「…………」

俺は、ゆっくりと琴葉を見る。

「琴葉」

「なに?」

「俺のスマホを使ったか?」

琴葉は、少しだけ目を逸らした。

「……ちょっとだけ」

「何をした?」

「みんなに、お願いしたの」

「何を?」

琴葉は、俺の腕に抱きついた。

そして、にっこりと笑った。

「拓海のことを、よろしくお願いしますって♡」

「……」

俺は言葉を失った。

「だって、私一人じゃ拓海を好きにさせるのは大変だから」

「……」

「だから、みんなにも協力してもらうの」

「……」

「ね?」

俺は周囲を見回した。

クラスメイト。

友人。

先生。

家族。

気づけば、俺の周りには。

琴葉の味方しかいなかった。


その日の夜。

家に帰ると、玄関に見慣れない靴があった。

「……まさか」

リビングへ向かう。

そこには。

「おかえり、拓海」

琴葉がいた。

「……なんでまたいるんだよ」

「今日から、泊まることになったの」

「誰が決めた!?」

「お母さん」

「母さん!?」

母親は、何でもないように答えた。

「だって琴葉ちゃん、明日早いんでしょ?」

「いや、だからって!」

「それに」

母親は、笑顔で言った。

「もう家族みたいなものじゃない」

「家族じゃない!」

俺が叫ぶと、琴葉は静かに笑った。

「……まだね」

「え?」

「なんでもないよ」

琴葉は俺の手を取った。

「ねえ、拓海」

「なんだよ」

「明日も一緒に学校行こうね」

「……」

「明後日も」

「……」

「その次の日も」

琴葉は、俺の手を握ったまま離さない。

「ずっと、一緒にいようね」

俺は、その時初めて。

ほんの少しだけ。

怖いと思った。

けれど。

その感情を、俺はすぐに打ち消した。

琴葉は、昔からの幼馴染だ。

俺を傷つけるはずがない。

そう思っていた。

だから、気づかなかった。

琴葉が俺のスマホのパスコードを知っていたことに。

そして。

俺の部屋の合鍵が。

いつの間にか、琴葉の鞄の中に入っていたことに。

「……琴葉」

「なに?」

「その鞄、重くないか?」

琴葉は、一瞬だけ動きを止めた。

「ううん。大丈夫だよ」

「そうか?」

「うん」

琴葉は、にっこりと笑った。

「だって、大切なものしか入ってないから」

「……大切なもの?」

「うん」

琴葉は鞄を抱きしめる。

「拓海に関係するもの」

「……」

「全部、大切だから」

俺は、冗談だと思った。

いつもの琴葉の、少し変な言い回し。

そう思っていた。


その夜。

俺が眠りについたあと。

琴葉は、俺の部屋の前に立っていた。

手には、俺の家の合鍵。

そして、もう一つ。

俺が知らない鍵。

琴葉は、静かに笑った。

「……これで、いつでも会いに来られるね」

彼女は、そっと俺の部屋のドアを開けた。

眠っている俺を見つめる。

そして、小さな声で呟いた。

「大丈夫だよ、拓海」

「私が、全部変えてあげるから」

「拓海の周りも」

「拓海の毎日も」

「拓海の未来も」

琴葉は、眠る俺の髪にそっと触れた。

「全部、私でいっぱいにしてあげる」

その声は、とても優しかった。


だからこそ。

俺はまだ知らなかった。

俺が失っているのは、自由だけではない。

友人との時間も。

家族との距離も。

自分で決める権利さえも。

琴葉は少しずつ、少しずつ。

俺の人生そのものを、自分のものに変え始めていた。


そして翌朝。

俺が目を覚ますと。

琴葉は、俺の部屋のベッドの隣に座っていた。

「……」

「おはよう、拓海♡」

「……」

「どうしたの?」

俺は、ゆっくりと上半身を起こした。

「……なあ、琴葉」

「なに?」

「ここ、俺の部屋だよな?」

「うん」

「なんでお前がいる?」

琴葉は、にっこりと笑った。

「だって」

そして。

俺の手を握った。

「拓海が起きるまで、ずっと隣にいたかったから♡」


俺は、まだ知らなかった。

この日から。

俺の部屋の鍵が。

俺の知らないところで。

もう一つ増えていたことを。

――外堀は、もう埋まり始めている。


そして、

俺が気づいた時には。

逃げ道など、どこにも残っていなかった。

幼馴染ってやっぱ凄いね。担任の先生まで琴葉の味方し始めた。そろそろ逃げ道が無くなりそうですよ拓海くん。第3話お楽しみに!!

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