99、神話級の宝のこと
僕は、食堂にいる人達をサーッと見回した。すると、僕と目が合わないようにするためか、盗賊達は目を伏せる。
あれほど、怪しく荒ぶる客が多かったのに、今は、シーンと静まり返っていた。僕に情報共有を持ちかけてきた男性は、この中では、地位か何かが高いらしい。
どうしようか。マズイな。いや、でも相手は盗賊だから、まともに答える必要はないか。
僕の頭の中は、高速回転している。だが、何も思いつかない。リプールとアリッサというのは、ナープラストの団長と副団長だった二人のことだよな? 同じ名前の別人という可能性もあるか。
しかし、王都の騎士団が護衛している要人を暗殺し、その罪を、ギルド職員だったイアンさんに押し付けようとしたのは、その流れから考えても、ケモ耳の女の子の追放の件に似ている。
何の罪もない人を陥れるために、複雑なストーリーを作り上げる点が、そっくりだ。
だが、有名なAランクパーティを率いていた人達が、ランクダウンの制裁を機に、冒険者を捨てるだけでなく、暗殺者になるものなのか?
「兄ちゃん、もちろん、タダでとは言わない。俺達としても、情報が足りなくて困っていたんだ。リプールとアリッサがこの街で裁かれたと聞いたから、ここで集会を開くことになったんだけどな。なんせ新人だから、情報がない」
僕が無言だったから、彼は少し焦っているようだ。話し方は変わらないが、媚びるような目つきに変わった。
「その二人なら、今の拠点は、ここじゃないでしょう?」
「あ、あぁ、そうだな。ハコロンダを拠点にしていたはずだ。しかし、この街を仕事場に選んでいる。この街で裁かれたから、恨んでいるんじゃないかと思うが……」
プラストさんを恨んでいるだろうな。そうか、この宿屋に盗賊達が押しかけてきたのは、酒場時間にプラストさんがよく来るからか。
有名なパーティに加入したイアンさんを犯人にしようとしたのも、彼がギルド職員だったときに、二人と何かあったのかもしれない。イアンさんが操る霊は、二人の悪行も視ていただろう。逆恨みだな。
「僕も、逆恨みされてるかもしれませんね」
「えっ? 兄ちゃんを? そんな命知らずな……あぁ、そうか。兄ちゃんは、スキルを隠してるんだよな。そのバカが連呼してすまない。俺達は口は堅い。信じてくれ」
彼がそう言うと、他の人達も必死に頷いている。水の入ったコップを持つ僕が、そんなに怖いのか。
毒使いというスキルのことは、僕は何も知らない。ボロが出ないように気をつけないとな。
「その二人をどうするか、集会をしてまで、議論をする意味があるんですか? 強いですよ」
「裏ギルドとしては重宝しているらしいけどな。俺達への態度がひどい。まるでゴミ扱いだ。文句を言って、腐った魔物の血をかけられた者もいる。裏から追い出したいんだよ。だから、弱点を知りたい」
「まだ、魔物の血を使ってるんですね」
「そうなんだ。どうすれば追い出せる? 兄ちゃんも呆れてるなら、追い出したいだろ? 裏には裏の秩序ってものがあるのにさ」
どうしよう。めちゃくちゃ視線を感じる。僕は、目立つことは嫌いだ。
「それなら、いっそのこと、騎士団に繋がる冒険者に、その情報を流せばどうですか? 僕は、関わりたくないですね。そもそも、こんなに注目されることも嫌なんですが」
僕は、多くの視線に耐えかねて、つい、ポロッと本音を言ってしまった。あーあ、失敗した。どうしよう。目の前の男性は、目を見開いている。麻痺毒でも作ろうかな。
僕がコップの入った水に視線を向けると、その男性は慌て始めたようだ。
「わ、悪い! 本当に申し訳ない。だが、兄ちゃんのその案は、悪くない。まともにやり合うと、あの二人は、兄ちゃんのようなエリートでも苦戦する相手なんだな? そもそも暗殺者は、正面からぶつかるものじゃないからな」
食堂にいる盗賊達が、なぜか好意的だと感じた。いや、媚びているのか。
あっ、そうか。盗賊達は暗殺者を恐れているから、僕に悪い印象を与えたくないのか。高価な物を盗んだりして、暗殺対象になることも少なくないのだろう。
あっ、盗むと言えば……。
「話は変わりますが、ハコロンダの向こうの亡霊の街をご存知ですか? 魔物化したダンジョン群の真ん中にある街ですが」
「もちろん知ってるよ! 盗賊にとっては夢の地だが、俺達ではあの場所にたどり着くのも、命懸けだ」
「亡霊の街ハンスタット付近で、盗んではいけない物を盗んだ人がいるようですね。僕は、神話の話はよく知りませんが……」
「あぁ! 神話級のお宝のことだな? 魔物化したダンジョンの深層にある屋敷で、お宝を盗んだのは、あの二人だと思うよ。ハコロンダで売って、莫大な資金を得たらしいぜ」
はい? 山の神様の何かを盗んだのも、元ナープラストの団長と副団長なのか? 魔物化したダンジョンの深層にある屋敷というと、山の神様の住まいに聞こえる。
だが時期的に、もっと古い話だよな? 二人が暗殺者になったのは、ナープラストから追放された後、最近のことだ。
「結構、前の話ですよね?」
「あの二人が主張していたことが正しいなら、数年前だと思うぜ。表で活躍した証だと言っていたらしい」
数年前なら、ナープラストのメンバーだよな? Sランク冒険者なら、魔物化したダンジョンに潜れるんだろうけど、きっと禁じられているはずだ。
「僕が聞いた話では、盗賊の仕業だと……」
「いや、違う! あんな場所に行けるなら、盗賊なんかしてないぞ。表で冒険者をする方が儲かるからな」
盗賊達は、皆、首を横に振っている。僕を暗殺者だと信じ込んでいるから、思いっきり従順だ。
「では、その件も、集会で話し合ったらいかがですか?」
「そうだな。盗賊のせいにされているなら、対策しないとマズイことになる。神話級のお宝は、いくつも闇市に出ているらしいが、俺達と取り引きのある闇市の商人が、それを取り扱って殺されたんだ」
「えっ? 闇市の商人が、殺されたんですか?」
僕はつい、問い返してしまった。マズイな、盗賊達の表情が変わった気がする。
「兄ちゃんも、そう思うってことは、やはりアイツらは実力があるんだな。じゃなきゃ、あんな危ない商売はしないか」
よかった、バレてない。
「誰に殺されたんですか?」
「それが、わからないんだよ。見ていた仲間は、魔物のような人だと言っていた。闇市に並べていた神話級のお宝だけを盗まれたらしいぜ」
魔物? 山の神様の使いが、取り返したのか?




