98、盗賊達から得た情報
「料理が遅いぞ!」
食堂は、夕食のピーク時間で、ほぼ満席だった。いつもならホール係の女性もいるけど、今夜はいない。しかも、ホール係の男性も、異様な客に怯えていて、テキパキと動くことが難しいようだ。
夕食を終えても、盗賊らしき人達は席を立たない。逆に、状態異常が消えた冒険者達は、この怪しい雰囲気を怖がって、さっさと食堂から出て行く。
この宿屋フローラルに宿泊する冒険者は、Dランクまでの冒険者が多いから、無理もない。盗賊達は、冒険者を追い出そうとしているようにさえ見えた。
「エドさん、帰りたいです」
ホール係の店員さん達は、もう限界のようだ。僕も同感だ。しかし、そういうわけにはいかない。
「なるべく、僕が料理を運びますね」
僕がそう言うと、店員さん達はコクコクと頷いているが、ピーク時間だから、僕一人で回せるわけじゃない。料理を運ぶと、ホール係の店員さんは、皆、怒鳴られていた。
あれ? おかしいな。なぜか僕は怒鳴られない。顔が知られているわけでもないよな? 僕が冒険者だと言ったことは、聞かれたみたいだけど、そもそも盗賊は、冒険者を恐れない。
あっ! もしかして?
たまに、僕に光が当たる。おそらくサーチ魔法の光だ。だけど、追放ざまぁ支援局員である僕は、ガチャ壺の入った腕輪をしている。この腕輪は、常に対象者を探しているから、邪魔なサーチ魔法は弾く。
そうか。盗賊達は、僕のステイタスをサーチできないから、警戒してるんだ。
貧民街でも同じことがあったな。
あのときは、立派な鎧を身につけたジョーモさんも一緒だった。僕は、なぜか、暗殺者だと勘違いされて、盗賊達が怯えてたっけ。
これは、使える!
ここにいる盗賊達が、僕のことを暗殺者だと勘違いすれば、きっと態度も変わるはずだ。だけど、どうすれば勘違いしてくれるんだ?
「おまえ! 俺の酒がこぼれたじゃないか!」
「す、すみません! すぐに新しい物を用意します」
わざと店員に当たったくせに、変な文句を言うんだな。これは、チャンスか。
僕は、青い顔をして戻ってきた店員さんに、笑顔を向けた。
「わざと当てられましたよね? 代わりの物は、僕が持っていきますね」
「あぁ、ありがとうございます!」
新たに作り直された赤いカクテルと、お詫びのおつまみを乗せたトレイを受け取り、僕は、厨房から出て行った。
「お待たせしました。ブラットカクテルです。こちらは、お詫びのおつまみです。どうぞ」
僕が運ぶと、明らかにその男性は、警戒していた。同じテーブルで同席している男性の方が、目つきは鋭い。
「あ、あぁ」
僕は、テーブルにこぼれていた汚れを、ふきんで拭く。その間、彼らは何も言わない。僕から話さないと、キッカケがつかめないか。
スゥハァと呼吸を整えて、僕は口を開く。
「この街で、何かあるんですか? 見慣れない人が、たくさん来られていますが」
「はぁ? 兄さんには関係ないだろ」
そう言いつつ、動揺してるよな。
「そういえば、少し前になりますが、この街で、王都から来た偉い貴族様の暗殺事件があったんですよ。ご存知ですか? まだ調査が続いているようで、王都の騎士団の人達が街をウロウロしていましてねー」
「兄さんは、その関係者か?」
おっ、食いついた。
「僕は、無関係ですよ。ただ、特殊なスキル持ちを、犯人に仕立てようとする無謀さには、ちょっと呆れますねー。まぁ、経験が浅いのでしょうけど」
同席している目つきの鋭い人も、僕の方に視線を向けた。
「あんたは、特殊なスキル持ちなのか?」
おっ、来た! 僕は、氷の残ったグラスを持ち、クルンとマドラーで1回だけ混ぜ、彼の前に置いた。
「僕のスキルは、この程度ですよ。グラスの中身をサーチしてみてください」
「サーチするまでもない。目が痛い。毒使いか」
すると、わざと当たった人が、そのグラスの中身を舐めた!? 僕は驚いたが、平静を装う。
「グッ……あぅ……」
僕は、その男性が持つグラスを取り上げ、マドラーでクルンと混ぜた。
「お客さん、バカですか? 毒消しです。飲んでください。あー、頭からかけましょうか?」
突っ伏した男性は、ピクピクし始めた。すると、鋭い目つきの男性が、突っ伏した人の頭に、僕が作った毒消しをかけた。
よし、解毒できてるな。びっくりした!
「コイツは、毒耐性があるからな。毒使いの毒に挑みたかったんだろ。あんたが言うように、バカなんだよ」
突っ伏していた男性は、髪から滴り落ちる解毒薬を舐めている。そして、起き上がったときには、僕を見る目がすっかり変わっていた。
「兄さん、毒使いってことは……」
僕は、シッと、人差し指を口の前に立てた。すると、すぐに喋るのをやめ、ぺこぺこと何度も頭を下げている。
「今夜、何かあるんですか?」
僕は、目つきの鋭い男性に尋ねた。
「裏ギルドの集会だよ。とはいっても、あんたのようなエリートには関係ない。今夜の集まりは、ただの盗賊の集会だよ」
はい? エリート?
「何もなく集まるんですか? 治安が悪くなると、警備が厳しくなる。迷惑なんですけどねー」
「あんた達には迷惑はかけないさ。さっきの話の犯人も、知ってるんだろ? 表で何かやらかして堕ちて来たらしいな。裏では新人なのに偉そうにしてる。集会の目的は、あの二人をどうするか、ってことらしいぜ」
えっ? 犯人? 要人を暗殺した暗殺者のこと? 暗殺者は二人いるのか?
僕が動揺したのがバレたのか、別のテーブルにいた男性が、近寄ってくる。マズイな。最悪、毒薬を作るか。
僕は、水の入ったコップをつかんだ。
「ちょ、待ってくれよ、兄ちゃん。毒使いが水を持つと、背筋が凍るじゃないか。情報共有しようぜ」
よかった。僕を見る目が怯えてる。ジャラッと派手な首飾りをしている男性だな。似た物をプラストさんも持ってたっけ。
「兄貴、この人は、上なんですか?」
「あぁ、ステイタスサーチは弾かれるが、俺より魔力量が多いぜ。この魔道具は、相手の魔力量が俺より上か否かがわかるからな。その量の水があれば、この食堂全員を即死させるだろ」
毒使いには、水が必要なのか?
「情報共有って、何ですか?」
僕は、あえて毒のことには何も触れない。
「俺達は、リプールとアリッサの能力を知りたい。暗殺者は素性を隠すものだが、あの二人はどこでも名乗る変わり者だ」
「リプールさんとアリッサさん?」
「あぁ、さっき、兄ちゃんが言っていた、経験の浅い暗殺者だよ」
ナープラストの団長と副団長だった二人が、暗殺者?




