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97、今じゃないよな

 ソアラ迷宮から出た僕達は、トランクの街に戻った。


 冒険者ギルドへの報告は、職員だったイアンさんと、エルフ族のトーマンさん、そして案内人を依頼されていたヤヨイさんがしてくれることになり、僕達は、宿屋フローラルへ戻ることにした。


 イアンさんには、王都の騎士団の人達もついていくから、冒険者ギルドに立ち寄らない僕達の方が、少数だけど。


 さっきジョーモさんに言われたことが気になっていたけど、モモさんは、すれ違う街の人に声をかけられて、笑顔を振りまいている。きっと、今じゃないよな。うん、今じゃない。



「エドさん、もう、状態異常は消えたんじゃないっすか? 宿屋に着いてしまうっすよ」


「今じゃないですよ、きっと」


「ふっ、やっぱり二人とも初心うぶっすね。さっさと告白すればいいのに、と思うっすけど、まぁ、見てる方としては面白いっすけどね」


 見せ物じゃないよ!



「ジョーモさん、そんなことより、6階層の状態異常の対策を考える方が、急ぎじゃないですか?」


 僕は、上手く話をはぐらかしたつもりだったけど、ジョーモさんは、ニヤッと笑ってる。モモさんの方もチラ見して、またニヤッと笑った。なんか、楽しんでない?


「そうっすね。感情を吐き出せば、わりとすぐに消えるみたいっすけど、蓄積すると、しつこいケンカになるみたいっすね。迷宮の外なら、安い毒消し薬を飲めばイライラは消えると思うっすよ」


「安い毒消しで効くんですか?」


「おそらく、ただのポーションでも消えると思うっす。ダンジョンコアは、スライムが目印を付けると言ってたっすよね? 侵入者の感情が抑えられなくなるようにしただけっすよ」


 そういえば、目印って変な表現だよな。



「16階層と26階層で、ロクでもない侵入者を排除するから、6階層ではスライムが目印をつけていると言ってましたね。罠だと思うけど、意味がよくわからないです」


「深いダンジョンだと、そういうトラップや目印を付ける魔物がいるものっすよ。ソアラ迷宮は、50階層もあるんすよね? 深層には、海の神の使者がいるみたいっすから、侵入者対策っすよ」


「確か、人族が入ってもいいのは、50階層までだと言っていました。その先は、海の神様の部屋があるようです」


「スライムが付ける目印は、人族などだという証かもしれないっすよ。山の神が人族に怒って滅ぼそうとしてるなら、人族に化けた魔物が、ダンジョンに侵入するかもしれないっすからね」


 ジョーモさんの指摘に、僕は驚いた。僕の考えとは真逆だ。人族を深層へ通すために、目印を付けている可能性もあるのか。


 ダンジョンコアが言っていた、16階層と26階層でロクでもない侵入者を排除するというのは、ロクでもない冒険者のことではない可能性もある。


 それで6階層では、スライムが人族に目印をつけているということか。そうか、だから迷宮から出るとすぐに、状態異常が消えるのか。



「ジョーモさんは、さすがですね。僕は、そんな可能性は、全く思いつかなかったです」


「ダンジョンコアが、主語をはっきり言わずに話すから、真意はわからないっすけどね。ただ、人族を排除するための状態異常なら、安い毒消しでは消えないっすよ」


 これが、経験値の差だ!


「僕は、まだまだ勉強不足です。ジョーモさんはすごいな」


「ん? 俺も、まだまだっすよ。Aランクに昇格するための座学の中で、プラストさんから教えられたことっすからね。Bランクまではすんなり理解できたけど、Aランクは、大変っすよ」


「勉強会があるんですか?」


「研修会と呼ばれてるっす。あっ、エドさんも、Cランクの講習会や研修会は、どれか参加しておく方がいいっすよ。俺はスルーしてたから、今、苦労してるっす」


 ジョーモさんは、大きなため息を吐いた。大変そうだな。でも、僕がAランクの試験を受ける日が来るかもわからない。ほとんどの冒険者は、Bランク止まりらしいからな。




 ◇◇◇



「皆さん! 大変です!」


 宿屋フローラルに帰ると、フロントの従業員さんが真っ青な顔をして駆け寄って来た。僕達がソアラ迷宮に行っている間に、困ったことが起こったようだ。


 その日の食堂は、終日ケンカする人が多いと聞いた。だが、問題はそれだけではなかった。



「エドさん、アズさんは食堂に出られないっすね。それに今、ソアラ迷宮の件で、高位の冒険者はギルドに呼ばれてるっすよ」


「わかりました。とりあえず、僕は食堂に行きますね」


 女性は危険だという宿屋のオーナーの判断で、女性従業員は皆、オーナーの部屋に集まっているらしい。ケモ耳の女の子は、彼女達の護衛をするつもりのようだ。今夜はモモさんの部屋に泊まると話す声が聞こえた。




 食堂へ入って行くと、食堂内は荒れていた。常連さんの様子がおかしいのもあるけど、それ以上に、見慣れない妙な気配のお客さんが多く、料理人さん達が怖がっている。


「あぁ、エドさん、どうにかできないですか?」


 今夜は料理長が居ない。だから料理人さん達は、余計に不安なようだ。



 いつも料理長は、食堂の休憩室で寝泊まりをしている。だが今は、宿屋の部屋で休んでいるらしい。隠れているという方が正確かな。ジョーモさんが護衛のためか、さっき、料理長の部屋に向かうのが見えた。


 料理長が休んでいるのは、この見慣れない客のせいだ。彼が貧民街で店をしていた頃に目をつけられていた盗賊達が、夕方から、トランクの街に集まっているらしい。だが、料理長がこの食堂で働いていることを知られたわけではないようだ。もしそうなら、彼は宿屋を出るだろう。


 盗賊達がトランクの街に集まる理由は、わからない。食堂には、盗賊らしき客が増えてきた。宿泊客か。



「僕は冒険者だから、騒ぎが起これば、何とかしますよ」


 厨房の料理人さん達に、笑顔を向けてみたが、たぶん僕の顔が引きつっているのは、バレているとは思う。


「何とかって……この人数の怪しい客ですよ?」


 小声で料理人さんが囁く声も、たぶん聞こえている人がいるのだろう。厨房の方に、意味深な笑みを向ける客もいる。


 盗賊達は、冒険者を怖がらない。むしろ、稼ぐ冒険者は、彼らにとって獲物でしかない。


 王都の騎士団の人達も、今はギルドにいる。常連の高位の冒険者もギルドだ。


 困ったな。盗賊達は連携するし、冒険者の常連さん達は、状態異常を引きずっている。僕だけでは、チカラでは勝てない。


 そもそも、なぜ盗賊達が、トランクの街に集まってるんだ?



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