96、様々な状態異常で
「今の壺に入った子供が、ダンジョンコアだったのですかな」
大きな壺が消えると、エルフ族の錬金術師トーマンさんが、目を輝かせていた。珍しいものが好きだよね。
「はい、ダンジョンコアです。今のは本体ですね。他にあと二人いますが、眠っている時間だと思います」
僕がそう答えると、トーマンさんは何度も頷いている。
「あれほどのエネルギー体が、この迷宮のダンジョンコアだということは、海の神が本気だということを理解しましたよ。だが、私達を排除するつもりは無さそうです。寛大ですな。山の神とは違うおおらかさを感じます」
僕は、神々のことはわからないけど、山の神様は、今、怒ってるから、暴れてるんだよね?
「エルフのオジサン、私には何も声が聞こえないよ。海の神は、私が精霊を呼ぶ邪魔をするみたい」
「野山の精霊は、この迷宮には居ないからじゃないですかな? 水辺の精霊ばかりのように思いますよ。しかし、エドさんの元に、ダンジョンコアがやってくるとは、不可解なことですな」
僕もそう思う。
「ダンジョンコアは、僕だけじゃなく、あーちゃんやモモさんが居たから、顔見せに来たんじゃないでしょうか」
「ふむ、ソアラ迷宮が発見されたときに、最も近づいた三人ですな? ダンジョンコアが人化するための言語能力などは、その三人から得たのかもしれませんね。非常に興味深い」
何だか、この話がずっと続きそうな気がしてきた。あー、そうか。本性が暴かれるとは、こういうことか。僕は、少しイライラしている。
「とりあえず、夜になる前に、外に出る方がいいっすね」
ジョーモさんがそう提案したことで、僕達は立ち上がった。イアンさんは、いくつもの青い幽霊を出した。あっ、一人にひとつか。経過観察かな。
土の上に置いてある鉢を壊そうと思ったけど……上から見ると、黄色だけじゃなく、他の色も見えた。まぁ、もろい鉢だから、そのうち崩れるか。
僕は、鉢はそのまま放置して、皆の後ろをついていった。僕達が離れると、鉢には、たくさんの小さなスライムが飛び込むのが見えた。
あっ、割れたな。
スライム達がたくさん入りすぎたせいで、鉢がバーンと弾けたようだ。小さなスライムがバーンと飛び散るのが見えた。
◇◇◇
僕達は、3階層まで戻ってきた。そこで、ちょっと事件が起こった。
「おまえら、いい加減にしろよ!」
ジョーモさんと王都の騎士団の人達が、ケンカを始めた。それを、ムロさんが制している状態だ。
「いつも我慢してることは、言葉に出す方がいいと思うよっ。あたしには効かないけど、人族は我慢すると長引くみたいだよ」
ケモ耳の女の子は、そう言いつつ、僕と手を繋いできた。いつもとは少し違う。とても幼い感じだ。
「あーちゃんも、術を受けてるんじゃないか? 俺は、さっき状態異常をクリアしたが」
ムロさんがそう言うと、エルフ族のトーマンさんも、大きく頷いた。
「私も、ちょっとおかしかったので、念のために体内の魔力を循環して正常化しておきました。少し影響を受けましたね」
「あたしは、別にイライラしないよ。ん〜、でもぉ〜」
なぜか、腕にしがみつかれている。
「あーちゃんは、エドさんに絡んでるじゃないか」
「だってエドちゃんは、父さんみたいなんだもん。匂いが似てるのっ。エドちゃんは、あたしの父さんなのかなー? 大好きなのっ」
はい? やはり父親扱いか。
「あーちゃん、俺が父さんじゃないのか? 前村長が亡くなったとき、そう言ってたよな?」
「ん〜? ムロちゃんよりエドちゃんの方が、父さんに似てるもん。ムロちゃんは、お兄さんだよ。ムロちゃんも大好きだよっ」
「ちょっと待て。俺の方があーちゃんより若いし、俺とエドさんは同い年だよ?」
「あたしより背が高いもん。エドちゃんの方が父さんみたいだもん。あたしが臭くても、エドちゃんは気にしないで抱きかかえてくれたもん」
畑の事件で、僕は父親認定されたのかな。
ムロさんは、それに対する反論はないようだ。逆に、納得したような笑顔を見せた。あの事件のことは、彼もすべて聞いているだろう。
「あーちゃんとは違うけど、私もエドさんのことは好きですよ。あっ、あれ? 私……どうして……」
突然のモモさんの告白に、僕は、思いっきり動揺していた。モモさんの好きって、それはどういう種類の……。
「モモさん、その好きって、あーちゃんの好きとは違って、僕の好きと同じですか? あ、あれ? いや、その、変な意味じゃなくて……」
僕は、何を言ってるんだ?
「えっ? エドさんの好きって、その、どういう種類の……じゃなくて、えっと〜」
モモさんの頬が真っ赤になっている。僕も頬が熱い。これは、スライムの影響だよな? なぜ、こんな話に……。
「やっと言えたんすか。ほんと、二人は見ているとイライラするほど、初心っすよねー」
助けを求めるつもりでジョーモさんの方に視線を向けると、まるで裏切られたかのような……。
「へぇ、二人って、そういう感じなのー? 全然気づかなかったよ。普通なら、お酒の勢いを借りたりする人もいるけどねー」
ヤヨイさんは、意地悪な笑みだな。そうか、本性が出るんだよな。
「あたしは、モモちゃんも好きだよっ。エドちゃんと一緒だねっ。早く外に出ようよ」
わかってるのかは不明だが、ケモ耳の女の子は、僕の手を引いて、2階層への階段へ向かっていく。それがキッカケとなり、他の皆も僕達についてきた。
さっきケンカしていた人達も、階段を上がっていくうちに、冷静になっていったようだ。
迷宮の出口が見えてきたときには、僕達についていた青い幽霊がスッと消えた。
「だいたいわかりました。6階層のスライムは、それぞれの色ごとに異なる状態異常の息を出していますね。それを吸うと、種族に関係なく、状態異常に陥いるようです」
イアンさんは、そう結論付けると、満足げな笑みを浮かべていた。エルフ族のトーマンさんより、先に分析できたからだろうか。
ソアラ迷宮から外へ出ると、夕焼けが綺麗だった。モモさんの名前がついた街の夕焼けに似ている。モモさんは、僕のことを……。
いやいや、何を考えてるんだ。僕は、頭をフルフルと振り、邪念を振り払う。
「エドさん、スライムの影響が消えてから、ちゃんと告白する方がいいっすよ。油断している間に、他の誰かに取られても知らないっすよ」
ジョーモさんが、小声で僕に、そんなアドバイスをくれた。他の誰かって、誰? 油断って……。




