95、ギュッと詰まっているスライム
僕は、大きめの鉢で、皆の食事を作った。
混ぜ混ぜをしていると、鉢の中に入れられた花の成分もわかった。花を食べたスライムが出すゲップが、空気中に溶け込み、それを吸った人族が状態異常を起こすみたいだが、花には何の毒もない。
ジョーモさんが土魔法で皿を作ってくれたので、僕はできた混ぜ飯を皿に入れる。ケモ耳の女の子は、いただきますを言って、すぐに食べ始めた。お腹が空いていたみたいだ。毒見の意味もあるのかな? モモさんが、皆に渡してくれている。
「エドちゃんのご飯は、美味しいねっ。でも、お花を入れても、いつもと同じだよ。あっ、エドちゃんが毒を抜いたのかな」
やはり、毒見役か。
「ここの花には、全く毒はないよ。スライムが食べるから、変質するのかもね」
「ふぅん、ここのスライムって、何だか変だよねっ。あたしの知ってる洞窟だと、大きなスライムの方が強いのに」
ん? 拳より小さなスライムの方が強いのか? 小さなスライムが、状態異常を起こすゲップを出すからかな。
「あーちゃん、ここのスライムは変異種か?」
最後にお皿を受け取ったムロさんが、問いかけた。
「ムロちゃんは、サーチしたの? 小さなスライムは、ギュッと詰まってるから、サーチできないかもね」
「あぁ、俺には詳細サーチができないよ。属性しかわからない。小さなスライムが何体も集まってると、サーチが難しい」
「小さなスライムは、外に出ると大きいと思うよ。ギュッと詰まってるのは、小さな身体の方が動きやすいからだよ」
よくわからない話を聞きながら、僕も混ぜ飯を食べた。チャーハンのような料理になったけど、花の香りが残っているから、ちょっとオシャレな味だと感じる。香草の代わりに花を使うのも面白いな。
「エドちゃん、おかわりしたい人に配るねっ」
ケモ耳の女の子は、大きな鉢を持って、混ぜ飯を食べる人達を回っていく。ひととおり配り終えると、残りを全部自分の皿に入れて、ピカピカな笑顔を見せた。
よほどお腹が空いていたのだろう。そういえば、遅めの朝食を食べたままだったな。
地面に転がっている空っぽの鉢を壊そうと持った瞬間、何かが飛び込んできた。一瞬、ダンジョンコアかと警戒したが、緑色ではなかったと思う。
弱い魔力を流してみると、ぷく〜っと中身が膨らんできた。黄色いが、光というより、ツルンとしている。
ゆらゆらと揺らしてみると、さらに膨らんで、鉢から頭が出てきた。黄色いスライム?
「エドさん、何を捕まえたんすか?」
ジョーモさんは警戒したようだ。剣を抜いてる。
「捕まえたというか、何かが飛び込んできて、魔力を流すと膨らんだのです」
ムロさんが、ジョーモさんの剣を制した。
「あちこちにいる小さなスライムですよ。エドさんの魔力で眠くなったんじゃないかな。油断してるから、膨らんでいるのです」
鉢から頭を出したスライムは、ゲプッと何かを吐いた。花の匂いがするけど、状態異常を起こさせるよな。僕は、モロに吸ってしまった。
慌てて地面に置いたけど、もう遅いか。
「エドさん! 危ない!」
僕の背後から、誰かが叫んだ。振り返った瞬間、僕の手元に何かが飛び込んできて、思わずキャッチしてしまった。勢いよく飛び込んできたから、手がジンジンする。これは……。
大きな壺から、ぴょこっと頭が出てきた。
「エド! 遊びに来たの?」
やはり、ダンジョンコアだ。こないだ見たときとは、少し雰囲気が違う。幼さが消えてる。
「こんにちは。6階層がスライムだらけだと聞いて、見に来たんだよ。キミは、少し変わったね。成長した?」
「私は、まだ子供だよ。スライムを見に来たの? エドは綺麗な草原が好きでしょ? ここのスライムは、お花みたいに……あーっ! 怠けてる!」
鉢の中に入った黄色いスライムを見て、ダンジョンコアの表情は、冷徹なものに変わった。その直後、黄色いスライムが消えた。いや、小さくなったのか。
「僕達が食事をした後の鉢に、偶然、入っちゃったみたいだよ。何が入ったか調べようとして僕が魔力を流したから、眠くなったのかも」
「エドの魔力は、ホワホワだもんね。あれ? ホワホワじゃなくて、フワフワになってるよ」
どう違うんだ?
「スキルレベルが上がったからかな? でも、前にキミに会ってからは、変わってないよ」
「エドの魔力は、美味しい餌になるんだよ。魔石が作れるでしょ?」
「うん、作ったことはないけどね。素材もわからないし」
「海の神様の使者に言えばいいよ。今、最下層にいるから、エド、一緒に行く?」
最下層!? やめてくれ。
「今日は、6階層の調査に来ているんだ。それに、最下層に行くと、僕は即死しちゃうよ」
「私のダンジョンでは、エドは死なないよ? 海の神様の使者が、エドは使えるって言ってたもん。だから、エドの友達も死なないよ」
「何か仕事を頼まれるのかな?」
「海の神様の使者がわからないことが、エドにはわかったでしょ? 他の海の子も、エドのおかげで、海の神様の使者が作った塩の使い方がわかったんだよ」
あぁ、塩が辛すぎるという件か。ん? ムロさんが何か合図をしている。何かを聞けって……あぁ、わかった。
「そっか、よかったよ。あのさ、僕達は、6階層を調べに来たんだけど、ここのスライムは、他のスライムとは違うの?」
「山の子のスライムとは違うよ。この子達は、海の子のスライムだもん」
「僕は、違いがわからないんだ。あっ、ギュッと小さくなれるってこと?」
「山の子のスライムは頭悪いでしょ。でも、海の子のスライムは賢いの」
「知能が違うの?」
「うん、だから海の子のスライムは、みんな魔法が使えるよ。この階層は防壁だからね。ここに来ると、スライム達が本性を暴くよ」
本性を暴く? ダンジョンコアの言葉を聞いていた皆は、ハッとしているようだ。
「ここに来た冒険者が、街に戻ってきてケンカする事件が起こってるんだよ。ここのスライムの影響なのかな?」
「そうかもね。人族は、いつも心の中に、何かを溜め込んでるんでしょ? それを隠せなくなるだけだよ。16階層と26階層で、ロクでもない侵入者を排除するから、6階層では、スライムが目印をつけてるの」
やはり、罠だったんだ。
「どれくらいで、その印は消えるかな? 何回か潜ってる人が、街でケンカしてるみたいなんだ」
「私のダンジョンから出たら、すぐに消えると思うよ。でも、気持ちを吐き出さないように我慢してると、溜まってくかも。あっ、私、深層に行かなきゃ。エド、今度は、夜中に来てねー」
大きな壺は、スッと姿を消した。




