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94、状態異常を起こす何か

「わぁっ! すごく綺麗!」


 モモさんは、ずっと緊張していたみたいだけど、6階層に降り立つと、やわらかな笑顔を見せた。やっぱり、モモさんって、かわいいな。


 ソアラ草原のような4階層に似ているけど、花が多いと感じる。4階層にも花は咲いていたけど、緑の方が圧倒的に多かった。だが6階層は、色とりどりだ。


「モモちゃん、この階層では、はしゃいじゃダメだよ。どんどん、おバカになっちゃう」


 ケモ耳の女の子は、この階層の特徴を、一瞬で把握したのか。エルフ族の錬金術師トーマンさんも、大きく頷いている。


 一方で、イアンさんとヤヨイさんは、首を傾げている。人族には、わからないのか。もちろん、僕達もわからない。おバカになるって、どういうことだ?



「あーちゃん、はしゃいじゃダメって、どういうことなの?」


 僕と目が合ったモモさんは、ケモ耳の女の子に尋ねてくれた。


「おバカになっちゃうよ」


 すると、エルフ族のトーマンさんが口を開く。


「この階層には、さまざまな状態異常を引き起こす臭いが漂っていますね。ただ、その効果は弱いのでしょう。サーチにも反応しません。様々な花の香りに紛れていますから、人族には感知できないようですな」


 すごい! もう理由がわかった!



「トーマンさん、俺にはまだ何の異変もないっすよ。どれくらいで影響を受けるんすか?」


 ジョーモさんは、周りを見回しながら、そう尋ねた。この階層にいる他の冒険者達も、特に異変は無さそうだ。


「そうですな。私は人族ではないので、難しい質問です。ふむ、実際に実験してみましょうか。私とあーちゃんには、影響はないでしょうから、ここに長居しても、皆さんの状態異常への対応ができますよ」


 僕達で、実験するのか? 


「そうっすね。可能なら、対処方法も見つけたいっす。その状態異常を引き起こす臭いは、迷宮が出してるんすか?」


「臭いの出所は、私にはわからないですな。特殊な花だとは思うのですが、あーちゃんなら、わかるかな?」


「ん? 花じゃなくて、花を食べてるスライムが出してるよ。ほら、あの子、今、ゲプッて出したよ」


 彼女が指した先には、小さな赤いスライムがいた。花より少し大きいけど、普通のスライムのサイズではない。珍しいな。


 ムロさんは、すぐにサーチをしたようだ。


「あのスライムからは、非常に弱い憤怒の状態異常を感知しました。すぐに空気に溶け込んで、サーチ不可になりますね。この程度では、状態異常は起こさないはずです」


 憤怒? あっ、怒るということか。ムロさん達は、花を食べているスライムにサーチ魔法を使っているようだ。よく見ると、花に見える小さなスライムが、大量にいる。


 スライムは、小さな個体ほど、色とりどりのようだ。人の頭のサイズになると、見慣れた青や緑のスライムが増えるかな。



「ヤヨイさん、昨日、ここに来たときには、どういう行動をしてたんすか? 毎日ここに来てたんすよね?」


 ジョーモさんは、僕達の人体実験はしたくないのだろう。ヤヨイさんは、辛そうな顔をしたけど、黒い影は集まって来ない。そうか、結界のある会議室で話すより、ある意味、迷宮内の方が安全なんだ。


「私が昨日まで所属していたパーティは、ソアラ迷宮が開放されてから、毎日潜ってるよ。私は、別のミッションをしてたから参加が遅れて、4日くらいかな」


「蓄積型かもしれないっすね。弱い状態異常の継続時間が長くて、体内でどんどん濃くなるタイプなら、魔物化したダンジョンに多い特徴っすよ。俺は念のため、迷宮に潜った日は、毒消しを飲んでるっすけどね」


「私達は、そんな薬は飲んでないよ。ハコロンダの街が荒れているのは、魔物化したダンジョンの影響だと聞いたことはあるけど」


 ヤヨイさんは、僕よりも多くのことを知ってるんだな。さすがBランク冒険者だ。ランクは上がるほど、差が大きくなる。Cランクになったばかりの僕とは、大きな実力差があるようだ。



「昨日、パーティの人達がヤヨイさんを追放したのは、この階層で、何かが起こったんじゃないすか?」


 あっ、それは違う。ヤヨイさんは、男女のゴタゴタで追放されたんだ。そのことをジョーモさんは知らない。


「そういえば、昨日は、私に言い寄ってくる人がしつこいなと思った。でも、全部誤解なの。あっ! 一昨日の夜は、この階層に泊まったんだけど、その……最後まではしてないけど……」


 ヤヨイさんの表情は、暗く沈んでいく。どうしよう。僕は、事情を知るムロさんに、視線を向けた。


 なんか、笑われた? 僕が必死な顔をしていたのか。でもムロさんは、何も言わない。ジョーモさんに説明してくれないのか?



「ヤヨイさんの追放は、ありがちなゴタゴタっすか。それも、この階層の影響かもしれないっすね。トーマンさん、この階層に漂う状態異常には、色欲系もあるっすよね?」


 あっ、ジョーモさんはわかってる。モモさんも頷いてるよ。僕だけが、経験ないのだろうか。何だかショックだ。


「ジョーモちゃん、ありがちなゴタゴタって何? この階層は、たぶん全ての状態異常が揃ってるよ」


「あーちゃんには、まだわからない話かもしれないっすね。男女の色恋沙汰っすよ」


「ふぅん。あっ、わかった! ヤヨイちゃんがモテるのね」


 ケモ耳の女の子は、コクコクと頷いている。本当に理解してるのだろうか。




「とりあえず、この階層で、食事休憩にしませんか? この階層の土に触れていれば、早い人なら影響を受けるでしょう。エドさんのスキルで、この土壌を利用した鉢を作って、食事を作ってもらうと良いと思いますよ」


 エルフ族のトーマンさんは、やはり実験をしたいらしい。錬金術師って、人族じゃなくても、自分の興味を追い求める性質があるのだろうか。


「うん! エドちゃんのご飯は、美味しいよっ」


 原因がわかれば、ここの土や空気から、状態異常を消す薬も作れそうだな。


「わかりました。じゃあ、食事休憩にしましょうか。ん? あーちゃん?」


「お花を食べるスライムが食べてるから、食べられるよね」


 ケモ耳の女の子は、花を摘み始めた。


「なるほど、あーちゃんはさすがですな。この植物に含まれる成分が、スライムの体内で変化することで、この階層を漂う臭いになるのかもしれませんな」


「花を摂取すれば、すぐに影響が出るかもしれないっす」


 僕が土から鉢を作り、アイテムボックスから出した穀物と肉を放り込むと、皆が摘んだ花を鉢に入れ始めた。


 いや、僕のスキルは、毒を消し去るんだよ?



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