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100/101

100、盗賊達が去ると

 詳細を尋ねようと口を開きかけたとき、酒場時間の食堂に、ムロさん達が入ってきた。王都の騎士団の人の顔は、知られているのだろうか。盗賊達が目配せをしている。



「兄ちゃん、俺達はそろそろ時間だ。この礼はまた後日にするからな」


「礼など不要です。僕と会ったことを忘れてください」


 僕が小声でそう言うと、話していた盗賊はニッと笑った。だが、ムロさんに話しかけられて素性をバラされるかとヒヤヒヤしていた僕は、笑顔を返す余裕はなかった。


 すると、その男性は、僕に軽く会釈をして、食堂を出て行く。他の盗賊達も、彼に続いた。僕が作った毒薬を舐めた盗賊は、完全に僕を暗殺者だと信じ込んでいるらしく、媚びた笑顔をつくり、何度もぺこぺこと頭を下げながら、食堂から出て行った。




「ん? お客さんは、全員帰ったのですか?」


 ムロさん達が座ろうとしたテーブルを片付け始めると、ホール担当の店員さん達も、慌てて出て来た。


「ええ、すぐに片付けますね。お腹は空いてますか?」


 イアンさんも少し遅れて、食堂に入ってきた。


「今から集会があるそうですよ。もしくは、皆さんの素性がバレてるのかもしれませんね」



 厨房に汚れた食器を持って行くと、料理人さん達の様子がおかしかった。僕に作り笑顔を見せる。


 彼らまで、僕を暗殺者だと信じたのか。料理長がいれば、笑い飛ばしてくれるんだろうけどな。



「エドさん、この空気感は何ですか?」


 ムロさんは、店員さん達の様子がおかしいことに、すぐに気づいたようだ。すると突然、イアンさんがクスクスと笑い始めた。クスクスがゲラゲラに変わっていく。


「イアンさん?」


 ムロさんは、ゲラゲラと笑うイアンさんに、戸惑いを隠せないようだ。イアンさんは、たぶん、この場所にいる亡霊から話を聞いたんだろうな。



「もう、お客さんは、声の聞こえない距離まで離れましたか?」


 イアンさんにそう尋ねると、ゲラゲラと笑いながら頷いてくれた。彼は青い幽霊をたくさん出している。盗賊達を見張るつもりかな。


「エドさん、何があったんですか。さっきの客は、怪しい雰囲気の人もいたようだけど」


 ムロさん達は、冒険者ギルドにいたから、知らないのか。もう街の中にも怪しい人は歩いてないらしい。



「彼らは、盗賊ですよ。今夜、この街で集会があると言っていました。裏ギルドの盗賊だけが集まるようです」


「は? 盗賊の集会? この街が大規模な盗難被害に遭うということですか。すぐに警備体制を……」


「いや、話し合いの集会らしいです。何の話し合いが行われるかは、イアンさんが調査してくれるみたいですね」


 イアンさんは、まだ笑っている。だけど親指を立てているから、やはり青い幽霊は、盗賊を追って行ったんだな。



「あはは、すみません。霊たちの話があまりにも面白すぎて、あははは」


 席に座ると、やっとイアンさんは話せるようになったみたいだ。


「イアンさんは、僕が今、困っていることも、聞かれましたか?」


「くふふふ、でしょうね。あはは、面白い」


 イアンさんが大笑いしているためか、店員さん達の様子も少し落ち着いてきた。



「エドさんは、何を困っているのですか」


「ちょっとお客さん達が荒れていたので、僕が演技をしたら、完璧にハマったというか、店員さん達まで怖がらせてしまったようです」


 ムロさんは、首を傾げていたが、ポンと手を打った。


「わかった! 前にも疑われたことがあったそうですね。暗殺者のフリをして、盗賊を黙らせたのか」


「そういうことです。ちょっと毒を作ったら、盗賊の一人が舐めたから驚きました。解毒できたけど……毒使いだと思ったみたいです。ムロさんは、そのスキルを知ってますか?」


「毒使いか。なるほど、エドさんなら出来そうですね」


「水の入ったコップを持つと、怖がられたんですが」


「スキル『毒使い』は、液体を毒に変える能力があるんです。無色透明の水からは、どんな種類の毒でも作れるらしいですよ。また、毒から解毒薬も作れます。冒険者ギルドで販売する様々な毒消しは、毒使いが作っていますよ」


 さすが、ムロさんだな。


「なるほど、だから、水の入ったコップを持つと背筋が凍ると言われたんですね」


「ええ、散布タイプの毒は、水から作るようです。しかし、それだけのことで、イアンさんはこんなに爆笑するのですか」


 ムロさんには、どこまで話すべきだろう。盗賊の話が、すべて真実だとは限らない。



「キミ達の仕事は、数日以内には終わると思いますよ。エドさんが、この辺りで有名な盗賊のかしらの信頼を得たようですね。盗賊達が知る情報を、エドさんが上手く聞き出しています。私としても、まさかとは思うので、調査は必要ですけどね」


 イアンさんは、すべてを聞いたのか。



 店員さん達が、彼らに夕食を運んでいく。もう、僕へのぎこちない笑みはない。


「俺が聞かない方がいい話ですか?」


 ムロさんは、僕とイアンさんの顔を交互に見ている。隠すのもおかしいけど、正しい情報かはわからないもんな。


「明日には、王都の騎士団宛てに、密告があると思いますよ。私は、その話が真実かを確認中です。エドさんも、同じでしょう」


「はい、僕も、完全に信じていいかは疑問です。同じ名前の別人の可能性もありますから」


 すると、ムロさんは、大きく頷いた。


「要人の暗殺者がわかったんですね。だから、俺達の仕事は、数日以内だということかな」


「ええ、その話が事実で、しかも騎士団がその犯人を捕まえることができれば、という限定付きですがね。その犯人の過去を調べる必要もありそうです」


 イアンさんは、やはり用心深いな。


 騎士団が、あの二人を捕まえられなければ、イアンさんは、これまで以上に命を狙われるか。



「では、イアンさんの護衛は、これからも必要かもしれませんね。裏ギルドの暗殺者が、簡単に捕まるとは思えません」


 僕は、あの二人が、山の神様の屋敷に盗みに入ったことの方が、重大な事件だと思う。イアンさんは、そのことには触れない。


 まぁ、盗賊の話だもんな。事実かは不明だ。



「しかし、くくくっ……」


 イアンさんは、また笑ってる。彼が巻き込まれた事件の解決の目安がついたから、楽しい気分になっているのだろうか。



「エドさんが、完璧な暗殺者を演じたらしいな」


 あっ……。食堂には、青い幽霊と一緒に、ニヤニヤしたプラストさんがやってきた。その後ろには、Sランク冒険者のスウセイさんとミラックさんもいる。


 イアンさんが、呼んだのかな。



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