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101/108

101、暗殺者に見えたからって……

「今夜は、料理長は居ないのか?」


 プラストさんは厨房をチラッと見て、テーブルを片付けている店員さんに尋ねた。


「料理長は、今夜は休みです」


 店員さんはそう言うと、ササッと厨房へ汚れた食器を持っていく。どのお客さんに何を説明すべきかわからないためだろう。



「プラストさん、料理長に用事があるなら、呼んできましょうか?」


 僕がそう尋ねると、プラストさんは、同じテーブル席に座ったSランク冒険者のスウセイさんとミラックさんの方に、視線を向けた。


 すると、赤髪のミラックさんが口を開く。


「いや、エドさんが承諾してくれたら、それでいいぜ。料理長には、事後でも構わないだろ」


 ん? 僕の承諾? プラストさんは、食堂にいる客が騎士団の人達だけだということを、確認したようだ。ぐるっと見回した後、僕の方に視線を移した。



「そうだな。エドさん、ちょっと話があるんだよ。食堂の手伝いをしばらく休めないか?」


「しばらくとは、どれくらいの期間でしょうか。あっ、ソアラ迷宮の本格調査をすることになったんですか?」


 彼らは、冒険者ギルドで話し合いをしていたはずだ。他にも高位の冒険者が集められていたらしいけど。


「いや、ソアラ迷宮じゃないんだ。エドさんを連れて行きたいのは、山の神が暴れているというダンジョン群だ。その前に、ハコロンダの街付近で情報を集めるから、結果によっては、予定が変わる可能性もあるけどな。とりあえず、往復だけでも20日はかかる」


「ええっ!? 魔物化したダンジョンですか? ハコロンダの街も僕には無理ですよ。あの街は、Aランク以上じゃないと、生きて帰れないです」


「エドさんには悪いが、料理人という扱いで参加してもらいたい。だから当然、護衛がつく」


 料理人? あ、護衛をつける口実か。プラストさんは、申し訳なさそうな顔をしている。そうしないと、僕に護衛をつけるのは不自然だからか。



「プラスト、いきなり、その言い方は失礼だぜ。エドさんはCランク冒険者だ。中級者だからな」


 ミラックさんは、冒険者のプライドにも配慮してくれている。プラストさんも、わかっているから、申し訳なさそうにしているのだと思うけど。


「あぁ、話し方がマズかったな。悪い。さっき、聞いた話で、俺はちょっとな」


 プラストさんは、僕が完璧な暗殺者を演じたと言っていた。つまり、話を聞いてたんだな。イアンさんの幽霊が伝えたのか。



「プラストさんがポンコツになっているから、俺から話すよ。この宿屋のフロントには、プラストさんが結界を張ってる。再びダンジョンコアが来る可能性を考えてのことらしい」


 魔導士、いや、スキル『結界術』のスウセイさんが、静かに話し始めた。


「プラストさんが、結界を張ってるのですか? ん? スウセイさんが?」


「ふっ、鋭いね。魔力供給と維持はプラストさんだけど、術を構築したのは俺だよ。だから俺も、その結界を通ったモノを感知できる。この宿屋に盗賊が集まっていたから、会話の傍聴もしていた。フロント奥の食堂のホールくらいまでなら聞こえるからね」


「傍聴? 盗聴じゃ……いえ、すみません」


「まぁ、盗聴だね。小声は集中しないと聞こえないけどな。だから俺は、ギルドのつまらない会議より、ここの食堂の話を聞いていた。映像が欲しいと言ったら、イアンさんの術で見せてくれたよ」


 映像? すごいな。イアンさんのスキルは『古代魔術』なのに、映像か。ちょっと不思議な気がした。


「俺も途中から見てたぜ。エドさんが、何かを混ぜたあたりからな」


 ミラックさんも見てたのか。会話に入ってきた彼を、スウセイさんは睨みつけている。ミラックさんが入ると、ペースを乱されるのだろう。



「エドさん、話を戻すね。俺達は食堂での件は傍聴していた。だから、プラストさんがポンコツになっている。山の神を怒らせた元凶が、まさか自分が率いていたパーティの主要メンバーだとは、知らなかったらしい」


 スウセイさんがそう話したことで、王都の騎士団の人達が顔色を変えた。ムロさんは、そんな彼らを制している。


 要人の暗殺も、あの二人みたいだけど、スウセイさんはその話はしないんだな。


「そうでしたか。ただ、あの話が事実かはわかりません。あの盗賊も、誰かから聞いた話をしていましたし、そもそも盗賊の話には、嘘が混ざりますから」


「俺達は、別のルートから、闇市の商人が殺された件を聞いている。彼らは非常に用心深いし、防御能力も高い。高価な品を扱う商人は、必ず護衛をつけている。それなのに、簡単に殺されたんだよ。俺達は、そこから調べに行きたいんだ」


「闇市の商人って、そんなに用心深いのですね」


「あぁ、だから、その話を聞いたエドさんが驚いたのは、偶然かもしれないが、盗賊にとってはエドさんが裏を知るという証拠になった。俺も、ハコロンダに出入りして初めて知ったことだ」


「うっかり聞き返してしまったんです。失敗じゃなくて良かった」


 僕がそう返答すると、スウセイさんは、フッとやわらかな笑みを浮かべた。あまり笑わない人だから、変なことを言ったかと少し焦る。



「知らなかったから上手く演じることができたんだろうね。エドさんの態度は、映像を見ていると、かなり高位の暗殺者に見えたよ。だから、この辺を仕切る盗賊のかしらも、キミに敬意を払っていただろう?」


「ジャラッとした首飾りをつけていた人ですか?」


「あぁ、そうだよ。エドさんが、自分に会ったことを忘れろと言ったのは、素性を隠している暗殺者がよく言うことだ。それに、お礼を断って、その後、無視したように見えた。あれは、かなりの威圧だね」


「そう、でしょうか。あっ、でも、ヘラヘラと媚びた笑みを向ける人もいましたよ」


「それは、下っ端だ。おそらく彼らは、エドさんを見かけても、もう話しかけてくることはないよ。高位の暗殺者は、表の冒険者としての活動をしている者も多い。自然に馴染んでいるから、騎士団も見つけるのが大変なんでしょうね」


 スウセイさんは、そこまで話すと、騎士団の人達に視線を向けた。みんな、苦笑いだな。



 コホンと咳払いをして、プラストさんが口を開く。


「エドさん、悪いが、頼まれてくれないか? まずは、ハコロンダ近くの宿場町の調査だ。闇市の商人が殺された件から調べたい」


「僕が料理人として行く理由がわからないのですが……もしかして、暗殺者のフリをするのでしょうか?」


 そう尋ねると、三人が同時に親指を立てた。マジか……。



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