101、暗殺者に見えたからって……
「今夜は、料理長は居ないのか?」
プラストさんは厨房をチラッと見て、テーブルを片付けている店員さんに尋ねた。
「料理長は、今夜は休みです」
店員さんはそう言うと、ササッと厨房へ汚れた食器を持っていく。どのお客さんに何を説明すべきかわからないためだろう。
「プラストさん、料理長に用事があるなら、呼んできましょうか?」
僕がそう尋ねると、プラストさんは、同じテーブル席に座ったSランク冒険者のスウセイさんとミラックさんの方に、視線を向けた。
すると、赤髪のミラックさんが口を開く。
「いや、エドさんが承諾してくれたら、それでいいぜ。料理長には、事後でも構わないだろ」
ん? 僕の承諾? プラストさんは、食堂にいる客が騎士団の人達だけだということを、確認したようだ。ぐるっと見回した後、僕の方に視線を移した。
「そうだな。エドさん、ちょっと話があるんだよ。食堂の手伝いをしばらく休めないか?」
「しばらくとは、どれくらいの期間でしょうか。あっ、ソアラ迷宮の本格調査をすることになったんですか?」
彼らは、冒険者ギルドで話し合いをしていたはずだ。他にも高位の冒険者が集められていたらしいけど。
「いや、ソアラ迷宮じゃないんだ。エドさんを連れて行きたいのは、山の神が暴れているというダンジョン群だ。その前に、ハコロンダの街付近で情報を集めるから、結果によっては、予定が変わる可能性もあるけどな。とりあえず、往復だけでも20日はかかる」
「ええっ!? 魔物化したダンジョンですか? ハコロンダの街も僕には無理ですよ。あの街は、Aランク以上じゃないと、生きて帰れないです」
「エドさんには悪いが、料理人という扱いで参加してもらいたい。だから当然、護衛がつく」
料理人? あ、護衛をつける口実か。プラストさんは、申し訳なさそうな顔をしている。そうしないと、僕に護衛をつけるのは不自然だからか。
「プラスト、いきなり、その言い方は失礼だぜ。エドさんはCランク冒険者だ。中級者だからな」
ミラックさんは、冒険者のプライドにも配慮してくれている。プラストさんも、わかっているから、申し訳なさそうにしているのだと思うけど。
「あぁ、話し方がマズかったな。悪い。さっき、聞いた話で、俺はちょっとな」
プラストさんは、僕が完璧な暗殺者を演じたと言っていた。つまり、話を聞いてたんだな。イアンさんの幽霊が伝えたのか。
「プラストさんがポンコツになっているから、俺から話すよ。この宿屋のフロントには、プラストさんが結界を張ってる。再びダンジョンコアが来る可能性を考えてのことらしい」
魔導士、いや、スキル『結界術』のスウセイさんが、静かに話し始めた。
「プラストさんが、結界を張ってるのですか? ん? スウセイさんが?」
「ふっ、鋭いね。魔力供給と維持はプラストさんだけど、術を構築したのは俺だよ。だから俺も、その結界を通ったモノを感知できる。この宿屋に盗賊が集まっていたから、会話の傍聴もしていた。フロント奥の食堂のホールくらいまでなら聞こえるからね」
「傍聴? 盗聴じゃ……いえ、すみません」
「まぁ、盗聴だね。小声は集中しないと聞こえないけどな。だから俺は、ギルドのつまらない会議より、ここの食堂の話を聞いていた。映像が欲しいと言ったら、イアンさんの術で見せてくれたよ」
映像? すごいな。イアンさんのスキルは『古代魔術』なのに、映像か。ちょっと不思議な気がした。
「俺も途中から見てたぜ。エドさんが、何かを混ぜたあたりからな」
ミラックさんも見てたのか。会話に入ってきた彼を、スウセイさんは睨みつけている。ミラックさんが入ると、ペースを乱されるのだろう。
「エドさん、話を戻すね。俺達は食堂での件は傍聴していた。だから、プラストさんがポンコツになっている。山の神を怒らせた元凶が、まさか自分が率いていたパーティの主要メンバーだとは、知らなかったらしい」
スウセイさんがそう話したことで、王都の騎士団の人達が顔色を変えた。ムロさんは、そんな彼らを制している。
要人の暗殺も、あの二人みたいだけど、スウセイさんはその話はしないんだな。
「そうでしたか。ただ、あの話が事実かはわかりません。あの盗賊も、誰かから聞いた話をしていましたし、そもそも盗賊の話には、嘘が混ざりますから」
「俺達は、別のルートから、闇市の商人が殺された件を聞いている。彼らは非常に用心深いし、防御能力も高い。高価な品を扱う商人は、必ず護衛をつけている。それなのに、簡単に殺されたんだよ。俺達は、そこから調べに行きたいんだ」
「闇市の商人って、そんなに用心深いのですね」
「あぁ、だから、その話を聞いたエドさんが驚いたのは、偶然かもしれないが、盗賊にとってはエドさんが裏を知るという証拠になった。俺も、ハコロンダに出入りして初めて知ったことだ」
「うっかり聞き返してしまったんです。失敗じゃなくて良かった」
僕がそう返答すると、スウセイさんは、フッとやわらかな笑みを浮かべた。あまり笑わない人だから、変なことを言ったかと少し焦る。
「知らなかったから上手く演じることができたんだろうね。エドさんの態度は、映像を見ていると、かなり高位の暗殺者に見えたよ。だから、この辺を仕切る盗賊の頭も、キミに敬意を払っていただろう?」
「ジャラッとした首飾りをつけていた人ですか?」
「あぁ、そうだよ。エドさんが、自分に会ったことを忘れろと言ったのは、素性を隠している暗殺者がよく言うことだ。それに、お礼を断って、その後、無視したように見えた。あれは、かなりの威圧だね」
「そう、でしょうか。あっ、でも、ヘラヘラと媚びた笑みを向ける人もいましたよ」
「それは、下っ端だ。おそらく彼らは、エドさんを見かけても、もう話しかけてくることはないよ。高位の暗殺者は、表の冒険者としての活動をしている者も多い。自然に馴染んでいるから、騎士団も見つけるのが大変なんでしょうね」
スウセイさんは、そこまで話すと、騎士団の人達に視線を向けた。みんな、苦笑いだな。
コホンと咳払いをして、プラストさんが口を開く。
「エドさん、悪いが、頼まれてくれないか? まずは、ハコロンダ近くの宿場町の調査だ。闇市の商人が殺された件から調べたい」
「僕が料理人として行く理由がわからないのですが……もしかして、暗殺者のフリをするのでしょうか?」
そう尋ねると、三人が同時に親指を立てた。マジか……。




