102、安全な宿場町
数日後、僕達は、ハコロンダ近くの闇市の商人が殺されたという宿場町を目指して、トランクの街を出発した。
メンバーは、Sランク冒険者のスウセイさんとミラックさん、まだ疑いが完全に晴れてないイアンさん、イアンさんの監視として王都の騎士団員を代表してムロさん、そして野山の精霊の声が聞こえるヤヨイさんだ。
つまり、僕を含めて6人の臨時パーティになる。
プラストさんは、まだ義足だということになっているし、宿屋フローラルの結界維持が必要だから、今回の調査には参加しない。
ジョーモさんには声がかかったが、彼は、力不足だからと辞退した。たぶん、今も盗賊達がウロウロしているから、料理長のことが心配なのだと思う。
ケモ耳の女の子は、僕と一緒に行くと言って駄々をこねたけど、留守番をするようにと、何とか説得した。嘘がつけない彼女を連れていくことは難しいためだ。
イアンさんが、通信用の青い幽霊を置いておくと言ってくれたことで、しぶしぶ納得してくれたようだ。
彼女がグズグズと駄々をこねていたから、スウセイさんは、アスカさんも一緒に来てもいい、と言ってくれたけど、食堂の食べ放題時間のアイドルが長期間不在になるのは困ると、料理人さん達に泣きつかれた。
それに、宿屋の娘モモさんにとっても、ケモ耳の女の子が残ってくれる方が心強いだろう。街には盗賊が多いし、ダンジョンコアがまた宿屋に来るかもしれないからな。
「まずは安全な宿場町で、食事と打ち合わせをするよ。それぞれ役割を決めるからね」
役割? トランクの街の西門から出て、街道を真っ直ぐに歩いていくと、一つ目の宿場町を通り過ぎた後に、スウセイさんがそう声をかけた。
通り過ぎた宿場町は、ミッションのとき、幼馴染とよく立ち寄っていたっけ。ソアラ迷宮の最初の調査の日以降、スージーとは何度か街で会ったけど、他の三人には会ってない。まぁ、もう、いいんだけどさ。
それからしばらく歩き、ヤヨイさんが化粧が崩れたと文句を言い始めた頃、先導していたスウセイさんは、小さな宿場町に入っていった。
◇◇◇
「安全な宿場町って、ここですかぁ?」
不機嫌なヤヨイさんは、すぐさま文句を言っている。
「美味しい湧き水の泉もありますよ。今夜は、ここに泊まるんじゃないかな?」
ムロさんが、ヤヨイさんの世話係になってる。
「ええ〜っ? 私、Bランク冒険者なのにぃ」
僕も、ヤヨイさんじゃないけど、スウセイさんがここを選んだ理由には、少し疑問を感じた。一応、宿場町だけど、ここの宿に泊まる冒険者は、ほとんどいない。
以前、一度だけ泊まったことはあるが、それは他の宿場町の宿屋が満室だったときだ。ここは、街道沿いだけに宿屋のある、普通の集落なんだよな。
スウセイさんは、街道沿いではなく、集落の中に入っていく。そして、小さな宿屋の看板の前で立ち止まった。集落の中にも宿屋があったのか。
「ここでいいよな?」
ミラックさんが片手で丸をつくると、スウセイさんは、その宿屋に入っていく。宿屋というより、普通の家に近い。カウンターもロビーもなくて、玄関だよな?
「6人なんだけど、部屋はあるかな?」
「いらっしゃいませ。3階を貸してます。部屋は3つありますが、全部借りますか?」
「あぁ、じゃあ、3階を貸し切りでお願いするよ」
「前金で、銀貨1枚です」
安っ! 6人分で銀貨1枚? スウセイさんが、銀貨1枚を支払った。
「ありがとうございます! あっ、お食事は出せないのですが、何か買ってきましょうか?」
「いえ、料理人を連れているので、大丈夫です」
「えっ? 料理人? すごっ!」
銀貨1枚を大事そうに握っている若い男性が、目を見開いた。彼は僕より少し若く見える。声が聞こえたのか、奥から顔を出す子供達が見えた。やはり普通の家だよね。宿屋の看板が出てたけど。
「じゃあ、エドさん、こちらの調理場を借りて、俺達の夕食をお願いしますね。ムロさんとヤヨイさんは、サポートで。俺達は、借りた部屋にテーブルを用意しますよ」
スウセイさんは、そう言うと、ミラックさんとイアンさんと一緒に、階段を上がって行った。
僕は、料理人じゃないんだけどな。でも、もう、何かの役割が始まっているのかもしれない。
「調理場をお借りできますか?」
「は、はい! どうぞ、お使いください!」
銀貨1枚を握りしめている若い男性は、にこやかに僕達を案内する。あまりにも無防備だよな。見ず知らずの冒険者を、家の中に招き入れるなんて。
「ここは、水が出ます! かまどは外なんですが」
案内された調理場は、何もなくてガランとしているが、とても狭かった。普通の家だもんな。ムロさんもヤヨイさんも、調理場には入れない。
すると、ムロさんが口を開く。
「こちらの宿屋のご主人は?」
「私が一応、主人かな? 両親はトランクの街に出稼ぎに行っていて、私が長男ですから」
子供しか居ないのか?
「ここに住んでいるのは、何人ですか?」
「えっと……2階は、親の居ない子が泊まるから、えっと……」
彼は、指折り数えているが、わからないみたいだ。でも、この調理場には生活感がないというか、食材置き場もない。
「わかりました。これも何かの縁ですね。今夜は、料理人が軽食を作りますから、お腹が空いている人には、食べてもらってください」
「えっ! いいんですか! わっ!」
くぅ〜っと、若い男性のお腹が鳴った。
「食べたい人は、食べ物を入れる器を持ってきてもらえますか?」
「わかりました! 近所の人にも声をかけていいですか?」
若い男性は、目を輝かせていた。ムロさんが優しい笑顔で頷くと、彼は裏口から飛び出して行った。
「ムロさん、ここは……」
「ええ、貧民の集落です。ここは、おそらく孤児の家でしょうね。部屋を貸すことで、生計を立てているんですよ」
孤児の家……。じゃあ、両親が出稼ぎというのは、嘘なのかな。いや、そう信じているのかもしれない。
「何人分を作ればいいのでしょうか」
「いつもの食堂くらいで良いんじゃないかな。そういえば、食べ放題の方は大丈夫なんですか?」
食べ放題ね……。料理長は、錬金協会から保管庫まで借りてたよな。混ぜ飯を何十種類作っただろう? たぶん30日分くらいは作らされた気がする。
「作り置きをしてきましたから、大丈夫ですよ。では、始めますね」
僕は、土魔法で深い鉢を作ると、腕輪のアイテムボックスから食材を取り出し、混ぜ飯を作る。取り分けやすいチャーハンがいいかな。




