表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

102/109

102、安全な宿場町

 数日後、僕達は、ハコロンダ近くの闇市の商人が殺されたという宿場町を目指して、トランクの街を出発した。


 メンバーは、Sランク冒険者のスウセイさんとミラックさん、まだ疑いが完全に晴れてないイアンさん、イアンさんの監視として王都の騎士団員を代表してムロさん、そして野山の精霊の声が聞こえるヤヨイさんだ。


 つまり、僕を含めて6人の臨時パーティになる。



 プラストさんは、まだ義足だということになっているし、宿屋フローラルの結界維持が必要だから、今回の調査には参加しない。


 ジョーモさんには声がかかったが、彼は、力不足だからと辞退した。たぶん、今も盗賊達がウロウロしているから、料理長のことが心配なのだと思う。


 ケモ耳の女の子は、僕と一緒に行くと言って駄々をこねたけど、留守番をするようにと、何とか説得した。嘘がつけない彼女を連れていくことは難しいためだ。


 イアンさんが、通信用の青い幽霊を置いておくと言ってくれたことで、しぶしぶ納得してくれたようだ。


 彼女がグズグズと駄々をこねていたから、スウセイさんは、アスカさんも一緒に来てもいい、と言ってくれたけど、食堂の食べ放題時間のアイドルが長期間不在になるのは困ると、料理人さん達に泣きつかれた。


 それに、宿屋の娘モモさんにとっても、ケモ耳の女の子が残ってくれる方が心強いだろう。街には盗賊が多いし、ダンジョンコアがまた宿屋に来るかもしれないからな。




「まずは安全な宿場町で、食事と打ち合わせをするよ。それぞれ役割を決めるからね」


 役割? トランクの街の西門から出て、街道を真っ直ぐに歩いていくと、一つ目の宿場町を通り過ぎた後に、スウセイさんがそう声をかけた。


 通り過ぎた宿場町は、ミッションのとき、幼馴染とよく立ち寄っていたっけ。ソアラ迷宮の最初の調査の日以降、スージーとは何度か街で会ったけど、他の三人には会ってない。まぁ、もう、いいんだけどさ。



 それからしばらく歩き、ヤヨイさんが化粧が崩れたと文句を言い始めた頃、先導していたスウセイさんは、小さな宿場町に入っていった。




 ◇◇◇



「安全な宿場町って、ここですかぁ?」


 不機嫌なヤヨイさんは、すぐさま文句を言っている。


「美味しい湧き水の泉もありますよ。今夜は、ここに泊まるんじゃないかな?」


 ムロさんが、ヤヨイさんの世話係になってる。


「ええ〜っ? 私、Bランク冒険者なのにぃ」


 僕も、ヤヨイさんじゃないけど、スウセイさんがここを選んだ理由には、少し疑問を感じた。一応、宿場町だけど、ここの宿に泊まる冒険者は、ほとんどいない。


 以前、一度だけ泊まったことはあるが、それは他の宿場町の宿屋が満室だったときだ。ここは、街道沿いだけに宿屋のある、普通の集落なんだよな。



 スウセイさんは、街道沿いではなく、集落の中に入っていく。そして、小さな宿屋の看板の前で立ち止まった。集落の中にも宿屋があったのか。


「ここでいいよな?」


 ミラックさんが片手で丸をつくると、スウセイさんは、その宿屋に入っていく。宿屋というより、普通の家に近い。カウンターもロビーもなくて、玄関だよな?




「6人なんだけど、部屋はあるかな?」


「いらっしゃいませ。3階を貸してます。部屋は3つありますが、全部借りますか?」


「あぁ、じゃあ、3階を貸し切りでお願いするよ」


「前金で、銀貨1枚です」


 安っ! 6人分で銀貨1枚? スウセイさんが、銀貨1枚を支払った。



「ありがとうございます! あっ、お食事は出せないのですが、何か買ってきましょうか?」


「いえ、料理人を連れているので、大丈夫です」


「えっ? 料理人? すごっ!」


 銀貨1枚を大事そうに握っている若い男性が、目を見開いた。彼は僕より少し若く見える。声が聞こえたのか、奥から顔を出す子供達が見えた。やはり普通の家だよね。宿屋の看板が出てたけど。



「じゃあ、エドさん、こちらの調理場を借りて、俺達の夕食をお願いしますね。ムロさんとヤヨイさんは、サポートで。俺達は、借りた部屋にテーブルを用意しますよ」


 スウセイさんは、そう言うと、ミラックさんとイアンさんと一緒に、階段を上がって行った。


 僕は、料理人じゃないんだけどな。でも、もう、何かの役割が始まっているのかもしれない。



「調理場をお借りできますか?」


「は、はい! どうぞ、お使いください!」


 銀貨1枚を握りしめている若い男性は、にこやかに僕達を案内する。あまりにも無防備だよな。見ず知らずの冒険者を、家の中に招き入れるなんて。



「ここは、水が出ます! かまどは外なんですが」


 案内された調理場は、何もなくてガランとしているが、とても狭かった。普通の家だもんな。ムロさんもヤヨイさんも、調理場には入れない。


 すると、ムロさんが口を開く。


「こちらの宿屋のご主人は?」


「私が一応、主人かな? 両親はトランクの街に出稼ぎに行っていて、私が長男ですから」


 子供しか居ないのか?


「ここに住んでいるのは、何人ですか?」


「えっと……2階は、親の居ない子が泊まるから、えっと……」


 彼は、指折り数えているが、わからないみたいだ。でも、この調理場には生活感がないというか、食材置き場もない。


「わかりました。これも何かの縁ですね。今夜は、料理人が軽食を作りますから、お腹が空いている人には、食べてもらってください」


「えっ! いいんですか! わっ!」


 くぅ〜っと、若い男性のお腹が鳴った。


「食べたい人は、食べ物を入れる器を持ってきてもらえますか?」


「わかりました! 近所の人にも声をかけていいですか?」


 若い男性は、目を輝かせていた。ムロさんが優しい笑顔で頷くと、彼は裏口から飛び出して行った。




「ムロさん、ここは……」


「ええ、貧民の集落です。ここは、おそらく孤児の家でしょうね。部屋を貸すことで、生計を立てているんですよ」


 孤児の家……。じゃあ、両親が出稼ぎというのは、嘘なのかな。いや、そう信じているのかもしれない。


「何人分を作ればいいのでしょうか」


「いつもの食堂くらいで良いんじゃないかな。そういえば、食べ放題の方は大丈夫なんですか?」


 食べ放題ね……。料理長は、錬金協会から保管庫まで借りてたよな。混ぜ飯を何十種類作っただろう? たぶん30日分くらいは作らされた気がする。


「作り置きをしてきましたから、大丈夫ですよ。では、始めますね」


 僕は、土魔法で深い鉢を作ると、腕輪のアイテムボックスから食材を取り出し、混ぜ飯を作る。取り分けやすいチャーハンがいいかな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ