103、エド、強く願う
「エドさん、外を見てください」
調理場に入れず廊下にいたムロさんは、微妙な笑みを浮かべていた。笑みというか苦笑いというか……。
僕は、調理場には窓がないから廊下に出てみると、外のかまどの前に、器を持った人達がズラリと並んでいるのが見えた。
今、声をかけたばかりだよな?
「もう、こんなに集まったのですか」
「ええ、みんな、走ってきましたよ。これでは、全然足りないですね。ヤヨイさん、給仕を手伝ってもらえますか」
ムロさんにそう言われて、ヤヨイさんは、すっごく嫌そうな顔をしていた。だけど頷いている。ムロさんは、人を使うのが上手いな。
「かまどの前に並んでいるということは、温かい料理の方がいいのでしょうか。とりあえずチャーハンにしましたけど」
「調理場は、洗ったり切ったりするだけで、外のかまどで、火を使った調理をするようですね」
あー、そうか。普通はそうだよな。
「じゃあ、これを持って行ってもらえますか? 僕は、次の混ぜ飯を作ります」
「わかりました。エドさん、同じ料理にしてくださいね。ケンカが起こりますから。ヤヨイさん、外に出ましょう。持って来られた器には、山盛りに詰めていきますよ」
ムロさんは、混ぜ飯をすくうための、巨大スプーンを土魔法で作ったようだ。そして裏口から、二人は外に出て行った。
僕は、再び、混ぜ飯を作る。その様子をジーっと見ている子供達の視線が痛い。だけど、長男さんが戻ってきてからの方がいいだろう。
スウセイさんとミラックさんが、安全な宿場町と言った理由がわかった。こんな貧しい集落に、泊まる商人はいない。Sランク冒険者である彼らは、ここの現状を知っていたんだ。自然な形で施しをするために、街道沿いではなく、集落の中に泊まることにしたのかもしれない。
混ぜ飯を何度作っても、終わりが見えない。配りやすいチャーハンにしたのは正解だったな。
「お客さん、本当にありがとうございます! 集落の人が喜んでいました!」
ようやく配り終えたようだ。ヤヨイさんは疲れた顔をしている。だけど、この家の人の分は、まだだよな。
「2階の人は、取りに来たのかな?」
ムロさんがそう尋ねると、若い男性は首を傾げていた。わからないのだろうか。
僕は、また混ぜ飯を作って、ムロさんに渡した。
「じゃあ、これは、1階にいる人で食べてください。2階には、俺達が行って作りますね。あっ、立ち入っても大丈夫かな?」
ムロさんが、深い鉢を若い男性に渡した。笑顔で受け取った彼は、器に分けながら、口を開く。
「2階は、ちょっと臭いかもしれません。1階は、お客さんが使えるように綺麗にしてるんですけど」
「構わないですよ。あっ、ヤヨイさんは、3階に状況説明に行ってください。エドさんは、俺と一緒に2階へ行きましょう」
「2階へ行くなら、こっちの外階段です」
若い男性に案内され、僕達は外階段を使って、2階へと上がった。
◇◇◇
「こんばんは。3階に宿泊するので、おすそ分けに来ました」
ムロさんは、にこやかな笑顔で、2階の扉の先へと入って行った。だけど僕は、扉が開いたときの悪臭に驚き、中へ入るには、かなりの勇気が必要だった。
「あっ、ご飯を配ってた兄ちゃんだ!」
2階には、仕切りがなかった。そして、ベッドもない。床には布が敷いてあるけど、ボロ雑巾のようだった。
扉の近くには灯りがあり、そこの床に座って、十数人の子供がチャーハンを手づかみで食べていた。
「靴のままで、奥に行っても大丈夫?」
「うん、いいよー。でも、奥の子は、ずっと寝てるけど」
ムロさんは、僕にはここにいろと合図をして、奥へと進んでいく。暗いからよく見えないけど、床には布が盛り上がっているのが、いくつも見えた。
「エドさん、上級ポーションを作れますか? 可能なら、振りかけられるタイプで」
「はい、ちょっと待ってくださいね」
僕は、小さい壺を作り、アイテムボックスの腕輪から薬草を取り出して放り込む。そして、散布することを意識して、混ぜ混ぜを始める。
ここにいる子を回復させようとイメージして、混ぜ混ぜをしていると、症状が伝わってきた。ひどい飢餓状態だ。もう亡くなっている子もいる。
「散布タイプで作りました。撒きますね。ご飯を食べてる人は、ご飯に蓋をしてくれるかな?」
僕がそう言うと、チャーハンを食べていた子供達は、慌てて、布を被せていた。寝ている子の分も置いてあるみたいだな。
蓋をしたことを確認し、僕は混ぜ混ぜしながら、2階全体に、上級ポーションを撒いた。
「うおっ! なんか、元気になった! 兄ちゃん達、すごいな!」
ご飯を食べていた子供達は、立って飛び跳ねている。ムロさんは、寝ていた子供達を起き上がらせていた。亡くなっている子供は二人か。
「キミ達のお友達かな? 奥でずっと寝ていた子は、二人、もう起きられないよ」
「えっ? 死んでるのか? だから、何か臭かったのか」
元気な子供達は、あっけらかんとしていた。そうか、孤児の命は、所詮は他人事か。
起き上がれるようになった子供達を、ムロさんは扉の近くに連れてきた。
「兄ちゃん達がくれたんだ。おまえらも死にたくないなら食えよ」
ガリガリに痩せ細った子供達は、コクリと頷くと、チャーハンを手づかみで口に入れる。だけど、ゲホゲホとむせていた。
僕が何か作ろうかと思ったけど、ムロさんが手で制し、口を開く。
「ゆっくり食べるんだ。お腹がびっくりするからね。外に出られるようになったら、1階で水を飲むといい」
子供達は、ムロさんの注意を聞き、コクリと頷いた。そうか、特別扱いをしてはいけないのか。
僕達がずっと世話をできるわけじゃない。ここは、孤児が眠ることができる場所なんだ。自ら生きる力がなければ、奥の子供のようになってしまう。
「じゃあ、俺達は、3階に戻るよ」
ムロさんは、そう言うと、僕に出るように促した。亡くなった子供は、そのままにしておくのか? でも、他人が口を出すべきことじゃないか。
「兄ちゃん達、ありがとう! すごく美味しい豪華なご飯だった」
ただのチャーハンなのに、そんなことを言われたら、涙が出てしまう。
「俺達は、冒険者をしているんだ。キミ達も、スキルを得て大人になったら、大きな街に行くといいよ」
「うん! わかった」
ムロさんの話に、元気な返事をする子もいれば、うつろな目をしている子もいる。僕は、頑張れ! と、心の中で、強く願った。




