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104/108

104、役割を演じる目的

 外階段を降りた僕達は、裏口から1階に戻り、家の中を通った。狭い部屋で、5〜6人の子供達がチャーハンを食べているのが見える。


「お客さん、すごく美味しいです! ありがとうございます!」


 僕達に対応していた若い男性が、満面の笑みで、そう言ってくれた。この家の子供達は、ちゃんとスプーンを使っている。



「俺達の料理人は、腕が良いですからね。2階は、孤児に自由に開放してる形かな?」


 ムロさんが、にこやかに返答した。


「はい、もともとは倉庫だったけど、両親が出稼ぎに行ったので、使わなくなったから。私達の兄弟は、1階だけで暮らせるんです」


「そうですか。二人亡くなっている子がいました。この集落の習慣がわからないから、そのままにしてありますが」


「村長さんが、定期的に見回りをしています。そのときに、死んだ子供は連れて行かれるから、そのままで大丈夫です」


 若い男性は、特に驚く様子はなかった。日常的に、よくあることなのか。


 トランクの街にある貧民街よりも、さらに貧しいと感じる。互いに食料を分け合う習慣があるのは、貧民街と共通する点だけど。



「わかりました。あっ、俺達の料理人は、簡単な回復薬も作れるので、2階に散布してもらいました。臭いは軽減されていると思いますよ」


「回復薬? す、すごっ」


「2階にいた子供達は、食べられない子もいたから、ご飯の代わりですよ。では俺達は、3階に行きますね」


 ムロさんはそう言うと、僕に先に行くようにと合図をした。彼は、1階に何かの魔法を使ったようだ。パタンと、裏口の扉が閉まる音が聞こえた。防犯かな?




 ◇◇◇



 僕は、狭い階段を3階へと上がっていく。宿泊客は、2階へは行けない構造だ。


 3階は、2階とは違って部屋が区切られていた。階段を上がってすぐの所は、物置部屋のような狭い部屋。その横は、何もないが2〜3人分のベッドが置けそうだ。一番奥の部屋からは、ヤヨイさんの声が聞こえる。


 ムロさんが追いついてくるのを待って、僕達は奥の部屋へと入る。ここが一番広い部屋だな。大きなテーブルと椅子が用意されていた。これは、スウセイさん達が出したのかもしれないが。




「お疲れ様。料理人としての宣伝はできたね」


 ん? 宣伝? スウセイさんは、僕に宣伝させたかったのか? スウセイさんは、部屋に魔力を放った。防音結界か。


「あの、集落の人達への、ほどこしではないのですか? たくさんの人が料理を取りに来ましたけど」


「すでに役割を演じてもらっていたよ。しかし、この集落は、ひどい状況だね。街道沿いにある村長の宿屋は、ここまで貧しい雰囲気じゃないんだけどな」



 すると、イアンさんが口を開く。


「ムロさん、エドさん、2階の孤児達への回復薬には、この集落にいる霊達が感謝していましたよ。亡くなっている二人の子供の霊も、さっきまでここにいましたからね」


 さすが、イアンさんだな。


「イアンさん、ここだけじゃないですよね? 孤児達に、食料が行き渡ってないのは」


 二人の子供を発見したムロさんは、悲痛な表情だ。


「他にも、孤児に開放している家は数軒あるようですが、ここが一番ひどいですね。大人が居ないから、管理も難しいようです。本来なら村長の仕事だと思いますが、余裕がないのでしょう」


 イアンさんは、この集落にいる亡霊から、いろいろと状況を聞いたみたいだ。もしかして、それが目的なのか?




「ねぇ、私、お腹が空いて倒れそうなんだけど〜」


 あっ、ヤヨイさんがキレそうだ。


「じゃあ、夕食にしますね。とりあえずチャーハンと……」


「エドさん、集落の人が食べたものと同じ料理にしてくださいね。結界内には、霊は入ってきませんが見てますから」


 イアンさんにそう指摘され、僕は周りを見回した。だが僕の目には、イアンさんが出す青い幽霊は見えるけど、本物の霊は見えない。


 僕は、6人分のチャーハンを作った。器は、スウセイさんが用意してくれて、ムロさんが手早く分けてくれた。



「え〜? チャーハンだけなの?」


 ヤヨイさんの文句に、僕はカチンときた。だが、僕が口を開く前に、ムロさんが彼女の方を向いた。


「ヤヨイさん、2階にいた孤児は、このチャーハンを食べて、すごく美味しい豪華なご飯だったと言ってましたよ。1階にいた子供達も、集落の人達も、とても喜んでいました」


 ムロさんが静かな声で話すと、ヤヨイさんは、うつむいてしまった。彼女自身、もともとコミュ障だったらしいから、適切な会話がわからないのかもしれないな。


 ヤヨイさんが支援局員を辞めたときに、彼女のガチャ壺は砕かれたけど、ガチャ壺が彼女に与えた影響は、消えてない。髪色は、派手さは消えているが、まだ金髪だ。



「ささ、いただきましょうか」


 イアンさんが気を遣って、空気感を変えようとしている。元ギルド職員だった彼は、冒険者同士のいざこざへの対応には、慣れているのだろう。


 ヤヨイさんは、しょんぼりとしたまま、チャーハンを食べ始めた。よほどお腹が空いていたのか、一気に食べ切ったけど。




「ムロさんとエドさんにも、説明しておくよ」


 皆の食事が終わると、スウセイさんが話し始めた。


「役割ですか?」


「うん、その前に、俺達がここを選んだ理由に疑問があるだろう?」


 あー、ヤヨイさんに問い詰められたのかな。


「そうですね。施し目的かと思いますが」


「いや、俺達は、そんな慈善事業はしない。この集落で食料を振る舞うことにしたのは、エドさんが料理人だということを印象付けるためだ」


「貧民街のような集落の人に印象付けても、噂は広がらないと思うんですけど」


 マズイ。僕は、思わず否定的なことを言ってしまった。ヤヨイさんと同じだ。気をつけないと。


「集落の人に印象付けるんじゃないよ。この集落には、付近から多くの霊が集まっているらしいんだ。綺麗な水が湧く泉があるからね」


 スウセイさんは、イアンさんに視線を移した。すると、イアンさんが口を開く。



「エドさん、霊にはナワバリがありますが、人族よりも行動範囲が広いのです。この集落の霊に、私達を料理人を連れた冒険者と認識させ、良い印象を抱かせることが目的です」


「霊に良い印象?」


「はい。私への協力姿勢が変わります。口止めされていることでも、恩人には話すものですからね」


「そのための施しですか」


「ええ、エドさんには何も説明せずに、すみません。初めて接した相手を、その地の霊は警戒します。エドさんの心を覗く能力のある個体がいる可能性を考慮しました」



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