105、エド、気を引き締める
「じゃあ、話してくれたということは、変な霊がいる可能性は、消えたのですね?」
僕は、イアンさんに確認した。だが彼は、苦笑いしている。もしかして、ヤバい亡霊がいるのか?
「エドさん、ここの地縛霊は、かなり強いみたいだよ。だから俺が結界を張った。貧しい集落にいる霊は、だいたい強いけど、ここの霊はイアンさんの手に余る個体らしい」
「えっ? じゃあ、僕がこの話を聞いてしまったら、頭の中を覗かれるのですか?」
僕の顔が引きつっていたのだろう。スウセイさんは、ふふっと笑った。いつもは無表情なスウセイさんが笑うと、ちょっと怖い。
「悪意を感じなければ、そんなことはしないはずだ。霊力の無駄遣いはしたくないだろうからね」
「それなら良いですけど……あれ? スウセイさんが結界を張ったタイミングは、マズくないですか? 悪意があると思われたかも……」
スウセイさんは、結界を張る前に、料理人としての宣伝はできた、と言っていたはずだ。
すると、ミラックさんが、ケラケラと笑った。
「エドさんは、よく見てるな。ずる賢いスウセイがタイミングを間違えるわけがないだろ。料理人としての宣伝という部分は、わざと聞かせたんだよ」
「ええっ? いいんですか?」
「ふっ、いいんだよ。人族がヒソヒソ話をすると、その内容が気になるだろう? 料理人として宣伝するために料理を振る舞ったと、素直には受け取らないだろうけどな。地縛霊らしいが、イアンさんに制御できないレベルなら、魔物だよ。悪霊から進化するからな」
「ミラックさん、それって……」
「俺には種族は、わからないがな。まぁ、俺達が、エドさんに料理人のフリをさせて何かをしようとしているのは、バレたんじゃないか?」
地縛霊って、恐ろしい。
「僕が料理人のフリをしていると知られて、大丈夫なんでしょうか」
「エドさん、大丈夫ですよ。死霊系の魔物は、人族をダークな存在だと考えていますからね。彼らが守るモノへの敵対行為がなければ、無関心です」
イアンさんにそう説明されて、ホッとした。
「じゃあ、上手くいったんですね」
「ええ、そういうことです。ただ、これで終わりではありません。亡霊達の行動範囲内で、同じことを繰り返します。私達が施しをしながら料理人を宣伝していることを、広めるためです」
「霊に噂を広めるんですか? なぜ……」
「先程も話したように、各地にいる霊の感謝を集めていけば、協力姿勢が変わります。私は、闇市の商人が殺された件を見ていた霊、もしくは殺された本人の霊に、接触したいと考えています」
な、なるほど! イアンさんならではの発想だ。僕が頷くと、ミラックさんが、ふわぁっと、大きなあくびをしているのが見えた。
「赤髪が眠そうなので、役割を決めて、寝ることにしようか。俺やミラック、そしてイアンさんは、わりと顔を知られている。だからエドさんの護衛役は、ムロさんとヤヨイさんで、どうかな?」
あっ、護衛役を決めるのか。
「構いませんよ。俺もヤヨイさんも、エドさんより冒険者ランクは上ですからね。それに俺は、セルス村にいたから、盗賊や暗殺者に間違われることもありますから」
ムロさんは、苦労してそうだな。
「私は、ランク的に、スウセイさん達と行動するのは不自然だから、エドさんの護衛の方がいいよ」
ヤヨイさんも、しっかり考えている。
「では、それで決まりだね。俺とミラックとイアンさんが、料理人を連れて、魔物化したダンジョンに挑もうとしていることにするよ。料理人の素性は、知らないフリをするからね」
すると、ムロさんは、楽しそうな表情を浮かべた。
「俺達は、料理人の素性を知っていることにしますよ。あっ、話が食い違うとマズイから、ヤヨイさんは知らないことにしようか」
「そうだね。ムロさんとエドさんは、同い年だから、ムロさんだけが素性を知っていることにしよう。細かな設定は任せるよ」
ミラックさんが魔法で、テーブルを真ん中の部屋に移し、僕達は、一番広いこの部屋で、6人で眠ることになった。
ヤヨイさんは女性だからと心配していたけど、彼女は一番最初に眠ったようだ。彼女が眠ると、精霊なのか、淡い光が、彼女の寝袋を包んでいた。
◇◆◇◆◇
「おはよう。俺達は、そろそろ出発するね」
翌朝、僕達は、早めに起きた。昨日の若い男性は、眠そうにしていたが、ちゃんと見送りをしてくれるようだ。
「お客さん、ありがとうございました!」
「あぁ、そうだ。真ん中の部屋に、俺達が作った簡易テーブルと椅子を置いてあるんだ。奥の広い部屋に移したら、次のお客さんに役立つと思って、壊さなかった」
スウセイさんがそう伝えると、若い男性の表情は輝いた。たぶん、売ってお金にするんだろうな。
「わかりました! ありがとうございます!」
「こちらこそ、安い宿に泊まれて助かったよ。じゃあね」
僕達が出ていくと、見かけた住人達も頭を下げてくれた。何人もの人が、昨日のご飯が美味しかったと言ってくれた。
僕は、また立ち寄ってもらいたくて必死なんだ、と感じた。僕達が再び立ち寄るかはわからないけど、優しい冒険者が立ち寄るようになればいいな。
◇◆◇◆◇
僕達は、ハコロンダ近くの宿場町を目指して、旅を続けた。スウセイさん達が泊まろうとする宿は、同じような貧しい集落ばかりだった。
ただ、最初に立ち寄った集落ほど酷い集落はなかった。大きな街から離れると、出稼ぎに行く大人が減るのだろう。
僕は、毎日、大量の混ぜ飯を作った。
街道沿いの綺麗な宿場町で、毎日ミラックさんが食材をどっさりと買い込んでくれるから、僕が腕輪のアイテムボックスで保管していた食材は、初日以外は、ほとんど使っていない。
ヤヨイさんは、随分と静かになった。ハコロンダに近づくにつれて、ヤバそうな冒険者や、盗賊、そして闇市の商人らしい人達が増えてきたからだと思う。
「そろそろ、気を引き締めていくぜ。エドさん、変なのに絡まれたら、殺しても構わないからな」
街道を歩いているときに、ミラックさんが物騒なことを言ってきた。
「えっ? それは、どういう……」
「言葉通りだ。そういう地域に入った。毒使いのフリじゃなくて、街の中でも毒を撒いても構わない。お人好しは、死ぬぞ」
僕は、一気に緊張してきた。だが、そうだった。僕は、暗殺者を演じなければいけない。
「わかりました。気を引き締めます」




