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106/109

106、僕だけ捕まった?

 街道は、緩やかな上り坂が続いている。大きく蛇行する道も増え、遠くには、怪しげな山脈が見えてきた。


 少し前から、僕達の歩く順番が変わった。先導するのは、相変わらず、Sランク冒険者のスウセイさんだけど、一番後ろを、同じくSランク冒険者のミラックさんが歩く。


 ダンジョン内での移動と同じだと感じた。後ろから狙われることが多いから、ミラックさんが警戒してくれているんだ。


 僕は、イアンさんと並んで歩いている。僕の後ろには、ムロさんとヤヨイさんがいる。僕を護衛しているという形を、街道でも見せ始めたようだ。




「スウセイさん、あの山脈が、危険なダンジョン群ですか? 紫色の雲がかかっている山もありますけど」


 僕は、前を歩くスウセイさんに声をかけた。


「ん? いやいや、魔物化したダンジョンは、まだ見えないよ。あの山を越えたら、ハコロンダの街がある」


「ハコロンダまで、まだ遠いのですね」


「俺達は、ずっと街道を歩いてきたからね。ハコロンダには、この街道も繋がっているけど、他にもたくさんの道が繋がっている。あらゆる方向から、入れる要所でもあるね」


 僕が幼馴染と一緒に村を出て、大きな街を目指して旅をしていたとき、そういえば、道に出ていた案内板に、ハコロンダの街への方向も記されていた。


 ハコロンダには近寄ってはいけないと、何度か注意されたっけ。



「ハコロンダの街には、魔物馬車と魔導馬車があるからな。今は、まともな商人は近づけないが、昔は、商業の中心地だったらしいぜ」


 一番後ろから、ミラックさんが会話に参加した。


「魔物馬車と魔導馬車って、どう違うんですか?」


「俺は、値段が違うことしかわからないな。魔物馬車は遅いけど安い」


 すると、スウセイさんがため息を吐いて、口を開く。


「魔物馬車は、魔物がひくだけだが、魔導馬車は、魔法を使っている大型の乗り物だよ。スピードが全然違う」


「どちらも、魔物がひくのですね」


「ええ。危険なダンジョン群に向かうなら、魔物馬車の方が良いだろうね。3日ほどかかってしまうが、魔力切れの危険がない。それに、魔導馬車は速いが、大型だから、山地とは相性が悪いからね」


「へぇ、勉強になります」




「ねぇ! のんきに話してる場合じゃなくない?」


 後ろを歩いていたヤヨイさんが、突然、僕の背中を小突いた。僕は前しか見てなかったから、気づかなかったが、左右に人がいる。


「ちょうどいい。俺達は、バリアを張っているから、気にせず、やってくれていいよ。ポーカーフェイスでね」


 ポーカーフェイス?


 なぜかスウセイさんが、僕に親指を立てて見せた。何をやるんだ? あっ、ムロさんが口にマスクをした。



「エドさん!」


 スウセイさんが、大声を出した直後、僕の視界は真っ白になった。何だ? 驚いて足を止めると、真っ白な世界に、盗賊っぽい人達が入ってきた。周りを見回しても、僕の仲間は居ないし、声も聞こえない。


 もしかして、僕だけ捕まった?




「兄さん、目的は何だ? この辺りでは見ない顔だな」


 盗賊っぽい人達が増えてきた。どんな仕掛けなんだ? 空間を切り取ったような魔法か? 僕は、どう返答すれば良いか、わからない。ポーカーフェイスって言われたけど、絶対に顔は引きつっている。


「ビビったフリなんかしなくていいぜ。こっちは、わかってるんだ。兄さんは、料理人じゃないだろ? 料理人ならステイタスを隠せるわけがない。料理人のフリをして、何をしている?」


 周りを見回してみると、白い空間には、もう数え切れないほどの盗賊っぽい人達がいた。スウセイさんが、さっき言っていたのは、毒を使えということか。



 僕は、あらかじめ用意していた、腰に下げていた布袋から、蓋付きの透明なコップを取り出した。スウセイさんが結界術で作ってくれた割れないコップだ。中には、ただの水が入っている。この量なら、魔力の循環だけで、混ぜ混ぜできる。


「クッ、やはりそういうことか。だが、そんなことくらいで、この結界は破れないぜ。兄さんの護衛が慌ててるよ。奇妙な組み合わせだな。目的は何だ?」


 僕が水の入ったコップを手に持つと、彼らは数歩下がった。毒使いだと誤解してくれたらしい。



「何が奇妙な組み合わせなんですか? 僕は、料理人として、冒険者の依頼を受けただけですが」


「は? 前後を守っていたのは、Sランク冒険者だろ? 兄さんの後ろにいた二人が、護衛か。あぁ、男の方は、とっさにマスクをしたな」


 ムロさんの行動は、僕の素性を知っているという演技か。さすがだな。


「だから、何なんですか」


「どこに何をしに行く? 俺達のナワバリで、何をしようとしている?」


 彼らは、僕に質問したいだけなのか?


「冒険者がダンジョンに行くから、僕は料理人として雇われただけです。何日も携帯食なのは辛いとか何とか……」


「ふぅん、冒険者を利用するんだな? 強い冒険者がいないと、さすがに単独での旅は難しいからな。何が目的だ?」


 彼らは、変な誤解をしているらしい。話が噛み合わない。



「アナタ達は、なぜ僕を足止めするんですか。死にたいのかな」


 僕が、コップに視線を落としてそう言うと、彼らは、また数歩下がった。


「兄さん、ここで毒を使うと、護衛にも効いちまうぜ? 兄さんの周りには、護衛がいる。結界を壊そうとしているが、剣では切れない。表の冒険者には無理だぜ」


「強力な結界なら、僕が何をしても大丈夫ってことですね」


「なっ? 兄さんは、知らないのか? 風を通してるだろ。毒使い対策で、特別に組んだ結界だからな」


 僕を捕まえる前から、毒使いだと思っていたのか? 



「やってみないとわからないですよね。即死毒じゃなければ、僕は解毒もできるので、何の問題もありませんよ」


 僕は、水の入ったコップに、魔力を流して、混ぜ混ぜを始めた。散布タイプの麻痺毒を作る。


 混ぜ混ぜをしていると、この白い空間がどうなっているのか、わかってきた。ここは空中だ。地面から、人の背丈ほど浮いているだけだが、面白い術だな。


 街道の僕が立っていた場所には、白い球体がある。その球体の上に白い地面が広がっていて、この空間が作られているようだ。


 おそらく、街道上の白い球体は、剣では切れないのだろう。そして僕がいる場所が、空中だとは気づかない幻術が使われているか。



「この術は、結界術なの……あっ」


 僕が空間を認識したからか、盗賊らしき人達だけに、麻痺毒が効いているようだ。


 ポトリポトリと、空中から街道へ落ち始めた。



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