107、暗殺者っぽく
盗賊っぽい人達の半数以上が街道に落ちると、白い空間が消えた。
だが、僕には落下した感覚はない。僕を中心に妙な術が使われていたためか?
「エドさん! 大丈夫か? この集団は、どこから降ってきた?」
芝居だろうか? Sランク冒険者の二人は、驚いた顔をしている。僕の周りには、人の背丈ほどの高さから落ちた人達が倒れていた。麻痺毒が効いているから、動けないらしい。
「僕は、大丈夫です。拘束を解くために、持っていた麻痺毒を使いました」
難しいな。僕はただの料理人という設定だから、麻痺毒を作ったとは言えない。ムロさんが、笑いをこらえている。失敗したかな。
「何かの術を踏んだのか? コイツらに何をされた?」
「別に何もされてないですよ。もう、行きましょう」
ミラックさんが、僕に何かを言わせようとしているみたいだけど、全然わからない。ここを離れてから話そう。
「エドさん、術者を解毒する方が良いんじゃないかな? 手に持ってるのは、強い麻痺毒なんだよね? こんな場所に放置してたら、この人達は殺されるよ」
ムロさんが合図をしながら、僕にそう提案した。料理人は……そうか、食材の毒消しができるかな?
僕には、不思議な結界を作った術者がわかる。一番、麻痺毒が強く効いている人だ。結界の外に出たいと思って混ぜ混ぜしたから、術者にだけ、強い効果が現れたのだと思う。
「そうですね。術者は解毒しておきます。他の人は、すぐに動けるだろうし」
僕は話しながら、残っていた麻痺毒に魔力を流した。そして、術者の元へ歩いていく。
えーっと、暗殺者っぽくしなきゃね。
僕は、その術者の頭に、解毒薬をかけた。これでいいのかな? 食堂に集まっていた盗賊の真似をしたから、盗賊っぽくなってしまったか。
「ちょっと、兄さん! 他の……」
解毒した瞬間、術者が立ち上がったが、ミラックさんが剣を突きつけたから、何も話せなくなったらしい。
「ミラックさん、こんな人は放っておいて、早く行きましょう。僕が足止めされたせいで大幅に遅れてすみません」
「そうですね。コイツらは情報屋でしょうから、放置でいいですよ」
情報屋? ムロさんがそう言うと、ミラックさんは剣を収めた。よくわからないけど、まぁ、いっか。でも、人が集まってきたな。
「じゃあ、行くか。この辺りだと、情報屋でも面倒な術を使うのか。腹が減ったな。一番近い宿場町でいいか」
「そうですね。予定が狂いましたね」
もともとの目的地は、この近くの宿場町なのに、ミラックさんとムロさんは、上手く演技をしている。
カタッと音がして、僕は、音の鳴った方に視線を向けた。術者が、また何かしようとしたのか? 彼は、僕の視線を避けるように目を逸らした。手には小瓶を持っているから、仲間の解毒か。
スウセイさんが、立ち止まっていた人達に、風魔法のようなものを飛ばして、道を開けさせた。強引なやり方だけど、力で押し切るのが、この地域の常識らしい。
僕達は、街道を歩き始めた。
しばらくは、ミラックさんが後ろを警戒していたが、彼らが再び襲ってくることはなかった。
◇◇◇
「まずは、食事だね」
目的地の宿場町に到着した。僕達は、さっきの話はしていない。僕達の後をつけてくる人がいたためだ。
「結構、綺麗な町ですね」
僕は、思いっきり緊張していたけど、何とかポーカーフェイスを頑張った。ムロさんがニヤニヤしてるのが、ちょっと気になったけど。
◇◆◇◆◇
その頃、エド達が去った街道では、麻痺毒で転がされていた人達の解毒が、やっと終わった。ハコロンダの街に近いこの辺りは、争い事が好きな荒っぽい者が多く、野次馬の数も半端ない。
「おい、情報屋! 多くの盗賊を従えていて、このザマかよ。表の冒険者に、簡単に術を破られているじゃねぇか」
「は? そんなことを言っていると、死にますよ? 俺の術を破ったのは、毒使いだ。様々な毒使いを見てきましたけどね。奴は、術者が俺だとすぐに気づいて、俺にだけ強力な麻痺毒を使ったんですよ。二種類の麻痺毒を、一瞬で作って撒いたんだ」
エドを閉じ込めた術者は、声をかけた男を睨みつけていた。
「毒使い? そんな奴、いたか? 表の冒険者ばかりだろ。白い球体を切ろうとした奴は知らない顔だが、見たことのある冒険者が、無駄だと止めていたぞ」
「俺の結界内は、外からは見えないですからね。俺が捕えた奴が、毒使いです。一つのコップの水から二種類の麻痺毒を作る毒使いなんて、初めて会いましたけどね。麻痺毒にしたのは、素性を隠している証拠だ」
「麻痺毒は、持っていたと説明してたじゃねぇか。弱い冒険者の常備品だろ」
「バカにしないでもらいたい。表の麻痺毒くらい、耐性がある。俺の術が維持できなくなるほどの麻痺毒ですよ? 毒使いじゃなきゃ作れない」
エドを閉じ込めたのは、情報屋も兼ねている盗賊だった。純粋な情報集めだったようだ。
「奴は、何をしに来たんですかね? 何も答えなかったから、強いサーチ魔法を使ったけど、弾かれましたよ」
「あんたのサーチも弾かれたのか? ヤバイな」
「調薬スピードから考えて、かなり慣れてますよね。裏では聞かない名前でしたが」
「名前なんて偽名だろ。予定が狂ったみたいだな。ハコロンダに泊まるつもりだったんだろ」
「じゃあ、魔物化したダンジョン群に行くと言っていたのは、嘘じゃないですね。毒使いが何の用かは……あー、そういうことか」
盗賊の一人が、ポンと手を打った。
「何かあるのか?」
「事故を装って、暗殺するんじゃないですかね?」
すると、野次馬たちから、声が上がった。
「奴らの中に、高額の懸賞金がかかっている男がいたよな? ずっと黙っていた男は、王都の商人貴族を殺した死霊使いだろ」
「あぁ、それな! あの顔色の悪い男は、どこかで見た気がすると思っていた。へぇ、これは、面白いことになりそうじゃねぇか」
元ギルド職員だったイアンが、王都の騎士団に監視という形で護衛されている理由は、これだった。裏ギルドには、殺された商人貴族からだけでなく、複数の暗殺依頼が出されている。
このことを、エドは知らない。
「じゃあ、行ってみようぜ。その毒使いの情報は、金になりそうだ」
「いや、俺達は手を引く。俺が目印を付けようとした瞬間、気付かれた。あの顔は、次はないと言っていた。きっと、麻痺毒でマーキングされたんだ」
「そりゃそうだろ。次に何かしたら、確実に殺されるぜ。だが、表の冒険者が一緒のときなら、何もしてこないかもな」




