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108/110

108、いくらあるのかわからない

「ねぇ! 食事の前に、シャワーを浴びたいよ。もうずっと浴びてないもん」


 広い宿場町の中を食堂を探して歩いていると、ヤヨイさんが文句を言い始めた。確かにそうだけど、毎日スウセイさんが魔法で、身体をスッキリさせてくれている。


「そうだね。先に宿屋を取るか。この宿場町は宿屋の数は多そうだけど、良い宿から満室になるからな」


 珍しくスウセイさんが、ヤヨイさんのワガママを受け入れた。まぁ、宿屋を先に取る方が安心できるかな。



 町の案内板を見て、スウセイさんは、宿屋を決めたみたいだ。全く宣伝のない宿屋。彼がここにしようと言って歩き出したときには、僕もヤヨイさんも同じ顔をしていたと思う。


 宿屋の外観もシンプルだった。何のアピールもしていないから、宿屋を探す人達が素通りしている。もしかすると、例の事件現場に近い宿屋なのかな。




 ◇◇◇



「いらっしゃいませ。当宿屋は、貴重品の預かりはできませんが、よろしいでしょうか」


 いきなり感じ悪い。商売する気がないのか。フロントの人達には、笑顔もない。


「構わないよ。6人だが、1室で3つ以上の小部屋がある部屋を借りたい」


「かしこまりました。前金で、銀貨12枚になります」


 高っ! 1人あたり銀貨2枚? これまで貧しい宿場町の集落に泊まっていたから、6人で高くても銀貨2枚だったよな。


「6人だと銀貨72枚?」


「はい。あっ、まとめ払いをされますか」


 ええっ? 1人で銀貨12枚? ぼったくりじゃないのか?


「あぁ、俺が払う」


 スウセイさんは、金貨1枚を出した。お釣りの銀貨は、ミラックさんが受け取って、数えている。


 そしてミラックさんが鍵を受け取ると、借りた部屋へと、無表情で案内された。従業員の愛想が悪過ぎないか?




「私、すぐにシャワーするから、音を聞いて欲情しないでよ?」


 部屋に入るとき、ヤヨイさんは、なぜか僕にそんなことを言った。冗談のつもりだろうか? 僕は、どう返せばいいかわからない。案内してくれた従業員も、一瞬、固まっていた。


「防音結界を張ればいいんだな? ったく……」


 ほら、スウセイさんを怒らせたよ。従業員は、初めて笑みを浮かべた。いや、苦笑いか。部屋の使い方の説明をして、すぐに出て行ったけど。



 ヤヨイさんが、シャワー室に入ると、スウセイさんは、僕達がいる部屋全体に、防音結界を張ったようだ。


 そして、僕の顔を見て、ニヤッと笑った。普段笑わない人の笑顔は、ちょっと怖い。




「さて、ヤヨイさんがいない間に、打ち合わせするよ。彼女は、疲れたらすぐに感情が顔に出る。ポロッと何かを言ってしまうタイプだからね」


 スウセイさんは、そう言うと、どこからか髪飾りのような物を取り出した。僕には品物の良し悪しはわからないけど、高そうに見える。


「今回は、これを使う。俺達がこの宿場町に足止めされる理由が必要だからね」


 足止めの理由?



「スウセイ、いいのか? それ、かなり高いだろ。ヤヨイさんがよく物を失くす癖を利用するのは良いが、おそらく戻ってこないぞ」


 ミラックさんには、価値がわかるようだ。ヤヨイさんの癖を利用する? 確かに、彼女はよく物を失くしてるけど、ガチャ壺から引き当てた口紅は失くしてない。貴重品は失くさないんじゃないかな。


「構わないよ。これは普通には売れないからな。闇市なら、金貨150枚くらいの値段になるだろうけどね。これくらいの物じゃないと、ここに留まる理由にならないだろ?」


 金貨150枚!? ひぇっ!



「すごく高価なんですね。金貨150枚もするなんて。今の話だと、こんな貴重品を、わざと紛失するということですか?」


 僕がそう尋ねると、スウセイさんは不思議そうな顔をして、首を傾げた。


「騎士団員の薄給のムロさんに言われるならわかるが、なぜ、エドさんがそんなに驚くんだ?」


「だ、だって、そんな金貨なんて……あっ」


 持ってないと言おうとして、僕は報酬口座のことを思い出した。ケモ耳の女の子が引き当てた『真偽の壺』の簡易版が大量に製造販売されていた頃に見たときには、金貨は600枚以上入ってたっけ。



 あの後、イアンさんが引き当てた『魔力貯蔵ブレスレット』の簡易版というか劣化版も、本格的に製造販売されている。


 さらに、ヤヨイさんが引き当てた『効果付き口紅』は、魅了効果のある物だけを、製造販売していると聞いたっけ。でも、口紅は、まだ王都くらいしか売ってないらしいけど。


 そんなことを考えながら、無意識に左手首の腕輪に触れていたら……。


 僕の報酬口座の残高が目の前に表示された。他の人には見えないはずだけど、慌てて手をバタバタさせて、かき消そうとしてしまった。


 今、僕の報酬口座は、28,371,965,200という数字と、金貨28371枚、銀貨96枚、銅貨52枚と表示されている。


 あまりにも大金すぎて、いくらあるのかわからない。いや、わかるんだけど……わからない。



「ふっ、エドさん、焦って隠さなくても、俺にも見えないよ。その顔は、金貨数千枚ってところかな? 追放ざまぁ支援局は、エドさんのおかげで、過去の累積赤字も解消し、大幅に黒字化されているらしいね」


 スウセイさんは、よく知っている。


「スウセイさんの読みは甘いですね。エドさんへの分配金は、少なくとも金貨1万枚はあるはずですよ。私が引き当てた品の類似品の売れ行きは凄まじく、製造が追いつかないらしいですからね」


 イアンさんは、なぜか自慢げだ。


「あぁ、これか。確かに異常に売れているらしいな。俺は、予備は20本しか持ってない。あと100本は欲しいのに」


 スウセイさんは、腕にジャラッとたくさんのブレスレットがあるのを僕に見せた。魔法で隠していたのか。



「そんなに売れてるのですね。びっくりしました」


「あぁ、便利だからね。これからは口紅が売れるんじゃないかな? 王都で売り出したら、即日完売だったらしいよ」


「魅了の口紅ですね……すごいな」


「弱い魅了だから、俺達には効かないけどな。しかも、弱い効果だからサーチにも反応しない。ある意味、怖いよね。知らないうちに、魅了にかかる」


 確かに、そうだよな。



「あっ、もう出てくるぜ。エドさんは知らないフリをしていてくれ。俺が上手く渡す。ムロさんには、フォローを頼むよ」


 僕には何も聞こえないが、結界を張ったスウセイさんには、ヤヨイさんの動きがわかるようだ。


 しばらくして、姿を見せたヤヨイさんは、大人っぽいワンピースを着て、ばっちりメイクをしていた。



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